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第十三話 食料問題と究極の面倒くさがり
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家の裏に完成した俺専用の井戸。それは、俺の怠惰な生活をさらなる高みへと引き上げてくれた。
【全自動給湯システム】は完璧に機能している。俺が風呂に入りたいと思考するだけで、井戸から汲み上げられた清冽な水が魔力で温められ、常に新鮮な湯となって湯船に注がれる。もはや貯水量を気にする必要はない。俺は一日に三度風呂に入るという、王侯貴族ですら裸足で逃げ出すような贅沢な生活を送っていた。
食生活も、謎の支援者による定期的な供物のおかげで、信じられないほど豊かになっていた。食料庫は常に極上の食材で満たされている。パン、チーズ、ワイン、干し肉。どれも一級品だ。
清潔な体、満たされた腹、そして誰にも邪魔されない静かな時間。まさに完璧。理想郷は完成した。
……はずだった。
その日も俺は、ベッドの上で昼食の皿を受け取っていた。メニューは【自動調理】されたチーズたっぷりのパイと、上質な干し肉のソテーだ。芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。
だが、俺の表情はなぜか晴れなかった。
「……また、これか」
美味しい。美味しいのは間違いない。だが、ここ数日、似たようなメニューが続いている。パン、肉、チーズ。供物の内容が、どうしてもそちらに偏りがちなのだ。
たまに野菜のカゴが置かれていることもあるが、種類は限られているし、すぐに使い切ってしまう。結果として、俺の食卓は脂質と炭水化物に支配されつつあった。
前世の記憶を持つ俺にとって、これは看過できない問題だった。過労で死んだとはいえ、健康管理には人一倍気を遣っていた時期もある。栄養バランスの偏りは、万病の元だ。この完璧な怠惰ライフを一日でも長く続けるためには、健全な肉体が不可欠なのだ。
それに、単純に飽きた。もっとこう、シャキシャキとした新鮮な野菜が食べたい。色とりどりのサラダとか、野菜をふんだんに使った煮込み料理とか。
「……はぁ」
ため息が漏れる。せっかくの食事が、義務のように感じられてきた。これではいけない。食は、人生の質を左右する重要な要素だ。怠惰な生活においても、それは同じこと。
どうすれば、安定的かつ多様な野菜を確保できるか。
市場に買いに行く? 駄目だ。面倒くさい。そもそも、あの小さな村の市場で、俺が望むような多種多様な野菜が手に入るとは思えない。
となると、残された選択肢は一つ。
自分で、育てる。
両親が遺した、家の裏に広がる小さな畑。あそこを使えば、好きな野菜を好きなだけ育てられるはずだ。
その考えが頭に浮かんだ瞬間、俺の全身が猛烈な拒絶反応を示した。
畑仕事。
その単語を聞くだけで、前世の休日出勤の記憶が蘇る。土を耕す。鍬を振り上げ、固い地面に何度も何度も突き立てる。腰は砕け、腕は痺れ、汗と泥にまみれる。
種をまく。小さな種を一粒ずつ、気の遠くなるような作業を繰り返す。
雑草を抜く。炎天下の中、腰をかがめて延々と地面を睨み続ける。
水をやる。重い桶を運び、何度も井戸と畑を往復する。
害虫との戦い。収穫の喜びも、その前の膨大な苦役を思えば霞んでしまう。
「……無理だ」
絶対に無理だ。俺が最も忌み嫌う「労働」の結晶。それが農業だ。そんなことをするくらいなら、毎日チーズと干し肉を食い続けて不健康に死んだ方がマシだ。
だが、このままでは理想の食生活は手に入らない。
労働の苦痛か、食生活の不満か。どちらを取るか。究極の二択を前に、俺はベッドの上で頭を抱えた。
いや、待て。
なぜ俺は、いつも二択で考えてしまうんだ。俺には、第三の選択肢があるじゃないか。
「……そうか」
俺の脳内に、いつもの答えが閃いた。
「畑ごと、全部自動化すればいいんだ」
そうだ。なぜこんな簡単なことに気づかなかったのか。俺が働かなければいいのだ。俺の代わりに、スキルが働いてくれれば何の問題もない。
水汲みが面倒だから、井戸を掘った。
ポーション作りが面倒だから、プラントを作った。
ならば、畑仕事が面倒なら、全自動の農園を作ればいい。
途端に、俺の頭はクリアになった。憂鬱な気分は消え去り、代わりに怠惰を守るための創造意欲が湧き上がってくる。
これは、今までの家事代行や井戸掘削とはレベルが違う。生命を育むという、複雑でデリケートなプロセスを完全に自動化するのだ。壮大なプロジェクトになるだろう。
だが、やる価値はある。これさえ完成すれば、俺はベッドから一歩も動くことなく、一年中、採れたての新鮮な野菜を好きなだけ手に入れられるのだ。究極の地産地消。究極のスローライフ。
「ふふふ……」
笑いが込み上げてきた。俺は早速、壮大なる【全自動パーフェクト農園計画】の設計図を脳内に描き始めた。
これは、単なる自動化ではない。既存の農業の概念を覆す、革命だ。
まず、土地が狭すぎる。両親が遺した畑だけでは、俺が望む多種多様な作物を育てるには不十分だ。家の周りに広がる荒れ地ごと、全てを広大な農地に変える必要がある。
次に、土壌。この辺りの土地は、あまり肥沃とは言えない。最高の野菜を作るには、最高の土壌が必要だ。魔法で土そのものを改良し、あらゆる作物の栽培に最適な、奇跡の土壌を作り出す。
そして、栽培システム。ただ種をまくだけじゃない。天候、気温、湿度を自動で感知し、最適なタイミングで、最適な量の水と栄養を供給する。井戸と連携させれば、水やりの心配もない。
さらに、害虫対策。農薬などという野蛮なものは使わない。特殊な結界を畑全体に張り巡らせ、害虫の侵入を物理的に防ぐ。病原菌もシャットアウトだ。
最後に、収穫。作物が最も美味しい完熟のタイミングを自動で判断し、傷一つつけずに収穫する。収穫された野菜は、自動で洗浄され、厨房の冷蔵庫まで直送される。
完璧だ。
あまりにも完璧な計画に、俺は我ながら震えた。これはもはや農業ではない。生命を創造し、管理する、神の領域の所業だ。
もちろん、全ては俺がぐうたらするために過ぎないのだが。
外では、村人たちが俺の掘った井戸に集まり、手を合わせていた。
「賢者様が与えてくださったこの聖なる水のおかげで、村の畑も息を吹き返した」
「ああ、ありがたいことだ。賢者様は、我々に水だけでなく、生きる希望を与えてくださったのだ」
彼らの感謝と信仰が、さらにエスカレートしていることなど俺は知る由もない。ただ、次なる快適生活への一手を思いつき、怠惰な笑みを浮かべているだけだった。
【全自動給湯システム】は完璧に機能している。俺が風呂に入りたいと思考するだけで、井戸から汲み上げられた清冽な水が魔力で温められ、常に新鮮な湯となって湯船に注がれる。もはや貯水量を気にする必要はない。俺は一日に三度風呂に入るという、王侯貴族ですら裸足で逃げ出すような贅沢な生活を送っていた。
食生活も、謎の支援者による定期的な供物のおかげで、信じられないほど豊かになっていた。食料庫は常に極上の食材で満たされている。パン、チーズ、ワイン、干し肉。どれも一級品だ。
清潔な体、満たされた腹、そして誰にも邪魔されない静かな時間。まさに完璧。理想郷は完成した。
……はずだった。
その日も俺は、ベッドの上で昼食の皿を受け取っていた。メニューは【自動調理】されたチーズたっぷりのパイと、上質な干し肉のソテーだ。芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。
だが、俺の表情はなぜか晴れなかった。
「……また、これか」
美味しい。美味しいのは間違いない。だが、ここ数日、似たようなメニューが続いている。パン、肉、チーズ。供物の内容が、どうしてもそちらに偏りがちなのだ。
たまに野菜のカゴが置かれていることもあるが、種類は限られているし、すぐに使い切ってしまう。結果として、俺の食卓は脂質と炭水化物に支配されつつあった。
前世の記憶を持つ俺にとって、これは看過できない問題だった。過労で死んだとはいえ、健康管理には人一倍気を遣っていた時期もある。栄養バランスの偏りは、万病の元だ。この完璧な怠惰ライフを一日でも長く続けるためには、健全な肉体が不可欠なのだ。
それに、単純に飽きた。もっとこう、シャキシャキとした新鮮な野菜が食べたい。色とりどりのサラダとか、野菜をふんだんに使った煮込み料理とか。
「……はぁ」
ため息が漏れる。せっかくの食事が、義務のように感じられてきた。これではいけない。食は、人生の質を左右する重要な要素だ。怠惰な生活においても、それは同じこと。
どうすれば、安定的かつ多様な野菜を確保できるか。
市場に買いに行く? 駄目だ。面倒くさい。そもそも、あの小さな村の市場で、俺が望むような多種多様な野菜が手に入るとは思えない。
となると、残された選択肢は一つ。
自分で、育てる。
両親が遺した、家の裏に広がる小さな畑。あそこを使えば、好きな野菜を好きなだけ育てられるはずだ。
その考えが頭に浮かんだ瞬間、俺の全身が猛烈な拒絶反応を示した。
畑仕事。
その単語を聞くだけで、前世の休日出勤の記憶が蘇る。土を耕す。鍬を振り上げ、固い地面に何度も何度も突き立てる。腰は砕け、腕は痺れ、汗と泥にまみれる。
種をまく。小さな種を一粒ずつ、気の遠くなるような作業を繰り返す。
雑草を抜く。炎天下の中、腰をかがめて延々と地面を睨み続ける。
水をやる。重い桶を運び、何度も井戸と畑を往復する。
害虫との戦い。収穫の喜びも、その前の膨大な苦役を思えば霞んでしまう。
「……無理だ」
絶対に無理だ。俺が最も忌み嫌う「労働」の結晶。それが農業だ。そんなことをするくらいなら、毎日チーズと干し肉を食い続けて不健康に死んだ方がマシだ。
だが、このままでは理想の食生活は手に入らない。
労働の苦痛か、食生活の不満か。どちらを取るか。究極の二択を前に、俺はベッドの上で頭を抱えた。
いや、待て。
なぜ俺は、いつも二択で考えてしまうんだ。俺には、第三の選択肢があるじゃないか。
「……そうか」
俺の脳内に、いつもの答えが閃いた。
「畑ごと、全部自動化すればいいんだ」
そうだ。なぜこんな簡単なことに気づかなかったのか。俺が働かなければいいのだ。俺の代わりに、スキルが働いてくれれば何の問題もない。
水汲みが面倒だから、井戸を掘った。
ポーション作りが面倒だから、プラントを作った。
ならば、畑仕事が面倒なら、全自動の農園を作ればいい。
途端に、俺の頭はクリアになった。憂鬱な気分は消え去り、代わりに怠惰を守るための創造意欲が湧き上がってくる。
これは、今までの家事代行や井戸掘削とはレベルが違う。生命を育むという、複雑でデリケートなプロセスを完全に自動化するのだ。壮大なプロジェクトになるだろう。
だが、やる価値はある。これさえ完成すれば、俺はベッドから一歩も動くことなく、一年中、採れたての新鮮な野菜を好きなだけ手に入れられるのだ。究極の地産地消。究極のスローライフ。
「ふふふ……」
笑いが込み上げてきた。俺は早速、壮大なる【全自動パーフェクト農園計画】の設計図を脳内に描き始めた。
これは、単なる自動化ではない。既存の農業の概念を覆す、革命だ。
まず、土地が狭すぎる。両親が遺した畑だけでは、俺が望む多種多様な作物を育てるには不十分だ。家の周りに広がる荒れ地ごと、全てを広大な農地に変える必要がある。
次に、土壌。この辺りの土地は、あまり肥沃とは言えない。最高の野菜を作るには、最高の土壌が必要だ。魔法で土そのものを改良し、あらゆる作物の栽培に最適な、奇跡の土壌を作り出す。
そして、栽培システム。ただ種をまくだけじゃない。天候、気温、湿度を自動で感知し、最適なタイミングで、最適な量の水と栄養を供給する。井戸と連携させれば、水やりの心配もない。
さらに、害虫対策。農薬などという野蛮なものは使わない。特殊な結界を畑全体に張り巡らせ、害虫の侵入を物理的に防ぐ。病原菌もシャットアウトだ。
最後に、収穫。作物が最も美味しい完熟のタイミングを自動で判断し、傷一つつけずに収穫する。収穫された野菜は、自動で洗浄され、厨房の冷蔵庫まで直送される。
完璧だ。
あまりにも完璧な計画に、俺は我ながら震えた。これはもはや農業ではない。生命を創造し、管理する、神の領域の所業だ。
もちろん、全ては俺がぐうたらするために過ぎないのだが。
外では、村人たちが俺の掘った井戸に集まり、手を合わせていた。
「賢者様が与えてくださったこの聖なる水のおかげで、村の畑も息を吹き返した」
「ああ、ありがたいことだ。賢者様は、我々に水だけでなく、生きる希望を与えてくださったのだ」
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