「働きたくない…」と本気で祈ったら怠惰の神が降臨。【フルオート】で身の回りを快適にしていたら、インフラを整備した救国の英雄になっていた

夏見ナイ

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第十四話 垂直展開① 土壌改良と開墾

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【全自動パーフェクト農園計画】。そのあまりに壮大な響きに、俺は一瞬だけ前世の社畜魂が疼くのを感じたが、すぐに頭を振って雑念を払った。これは労働ではない。怠惰のための創造だ。目的が全く違う。

計画の第一段階は、全ての基礎となる「土地」の準備だ。家の周りに広がるのは、石ころだらけで痩せた荒れ地。こんな場所でまともな作物が育つはずがない。ここを、世界中のどんな農家も羨むような、奇跡の大地に変える必要がある。

俺はベッドに寝そべったまま、そのための具体的なプロセスを脳内で構築していった。

手作業での開墾など論外だ。必要なのは、この作業を全自動で、かつ一晩で終わらせるための強力な労働力。すなわち、ゴーレムだ。

どんなゴーレムを作るか。人型である必要はない。見栄えよりも機能性。効率こそが正義だ。俺が設計したのは、土木作業に特化した、ずんぐりむっくりとした機体だった。

名を、【自動開墾ゴーレム・アースウォーカー】。

その体は、現地の土や石を魔力で圧縮・硬化させて形成する。素材の現地調達は基本だ。胴体はずっしりとした直方体で、安定性を確保。移動はキャタピラ式だ。不整地走破性を高めるため、これも土くれを固めて作る。

最大の特徴は、胴体の四隅から伸びる四本の多機能アームだ。

一本は、巨大な鋤(すき)。硬い地面を深く、力強く耕すためのもの。
二本目は、超硬度の削岩ドリル。開墾の邪魔になる巨大な岩石を、内部から粉砕する。
三本目は、無数の細かい刃がついた回転式の草刈り機。邪魔な雑草や木の根を、残らず刈り取り、細かく裁断する。
そして四本目は、巨大なローラー。耕し、砕き、刈り取った後の地面を、完璧な平面にならすためのものだ。

これら四本のアームが、それぞれ独立して、しかし完璧な連携で作動する。まさに歩く開墾工場だ。

だが、これだけではただ土地を更地にするだけだ。俺が目指すのは、ただの農地ではない。「奇跡の土壌」だ。

そこで、ゴーレムの胴体中央に、このシステムの核となる魔法術式を組み込んだ。【土壌改良魔法・ガイアズブレス】。

これは、ゴーレムが耕した土に直接魔力を流し込み、その成分を根本から作り変える魔法だ。土の粒子構造を組み替え、水はけと水もちのバランスを黄金比率に調整する。さらに、植物の成長に必要な窒素、リン、カリウムといった栄養素を魔力から直接生成し、土壌に定着させる。

結果として、痩せた赤土は、何百年もかけて自然が作り出すような、黒々とした栄養満点の腐葉土へと生まれ変わるはずだ。

「……完璧だ」

俺は脳内の設計図を最終確認し、満足げに頷いた。あとはこれを実行に移すだけだ。井戸の時と同様、作業は夜陰に乗じて行う。消費魔力は井戸掘削の比ではないだろう。俺は昼の間、ひたすら眠ってMPを最大まで回復させた。

そして、月も姿を隠した真夜中。

俺はベッドの中で、静かにスキルを発動させた。

「プロセス登録【自動農地創生】。自動実行」

瞬間、体の芯からごっそりと魔力が引き抜かれた。まるでダムの底が抜けたかのような、凄まจい勢いだ。だが、それと同時に、家の外で静かな奇跡が始まった。

地面が、ゆっくりと盛り上がる。家の周りに広がる荒れ地の土や石が、意思を持ったかのように一箇所に集まり、練り上げられ、形作られていく。やがて、そこにはずんぐりとした土色の巨体が十体、音もなく出現していた。

【自動開墾ゴーレム・アースウォーカー】の誕生だ。

彼らはプログラム通り、一糸乱れぬ動きで作業を開始した。

一体が巨大な鋤で地面を深く掘り返すと、すかさず次のゴーレムがドリルで岩盤を粉砕する。その後ろを草刈り機を装備した機体が続き、邪魔な根を刈り取っていく。最後にローラーを装備した機体が通り過ぎると、そこには平らにならされた、まだ色の薄い更地が生まれていた。

だが、本当の魔法はここからだった。

ゴーレムたちの胴体が、淡い緑色の光を放ち始めた。【ガイアズブレス】の発動だ。彼らが耕した土地に、その光が浸透していく。すると、赤茶けていた土が、まるで墨汁を染み込ませたかのように、みるみるうちに黒々と変化していくのだ。

十体のゴーレムは、まるで精密機械の集合体のように、家の周りの土地を規則正しく、そして恐ろしいほどの速度で作り変えていった。ガション、ガション、という重々しい稼働音だけが、夜の闇に低く響く。

俺は消費されていく魔力の感覚に耐えながら、その全てを脳内でモニタリングしていた。自分の設計したシステムが、完璧に機能している。その事実に、言いようのない満足感を覚えていた。

夜明け前。俺の魔力が尽きる寸前で、全ての作業は完了した。

ゴーレムたちは役目を終えると、再び土くれとなって静かに崩れ、大地に還っていった。後に残されたのは、昨日までとは全く違う景色だった。

石ころだらけの荒れ地は、跡形もなく消え失せた。代わりに、家の周囲にはどこまでも続くかのような、黒々とした美しい畑が広がっている。まるで高級なビロードのように、しっとりとした土が月光を吸い込んでいた。

「……よし」

俺は最後の力を振り絞ってそう呟くと、深い眠りに落ちた。

翌朝、村は井戸の時以上の衝撃に包まれた。

最初に異変に気づいたのは、早朝に薪を取りに来た村人だった。彼は、村の外れに広がる信じられない光景に、腰を抜かさんばかりに驚いた。

「おい! みんな、来てくれ! まただ! また、賢者様が奇跡を起こされたぞ!」

その叫び声に、村人たちが次々と集まってくる。誰もが、目の前の光景に言葉を失った。

痩せた荒れ地が、一夜にして広大な黒土の畑に変わっている。土からは、生命力そのもののような豊かな香りが立ち上っていた。

「なんということだ……。こんな見事な畑、生まれてこの方見たことがない」
「まるで、神話に出てくる豊穣の女神様が触れた土地のようだ」

人々が呆然と立ち尽くす中、村長のバルガスが駆けつけた。彼もまた、その圧倒的な光景を前に、しばらく絶句していた。

やがて、彼は震える声で言った。

「……水だ」

「え?」

「賢者様は、まず我々に水を与えてくださった。そして今、その水を活かすための『大地』を、我々に与えてくださったのだ!」

バルガスの言葉に、村人たちはハッとした。そうだ。水だけがあっても、土地が痩せていては作物は育たない。賢者様は、全てを計算されていたのだ。我々が真に豊かになるための、壮大な計画を。

「ああ、賢者様……。我々の浅はかさをお許しください。貴方様の深遠なるお考えの、ほんの入り口しか理解できておりませんでした」

バルガスは、その場に膝をついた。そして、新たに生まれた黒々とした大地に向かい、深く、深く頭を下げた。

彼の姿に倣い、村人たちも次々と膝まずく。

彼らの胸には、もはや疑いの欠片もなかった。ただ、人知を超えた存在への、絶対的な感謝と信仰だけが燃え上がっていた。

もちろん、その偉大なる賢者様が、ただ「色々な種類の野菜が食べたいな」という、極めて個人的かつ怠惰な理由でこの奇跡を引き起こしたことなど、誰も知る由もなかった。
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