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第十五話 垂直展開② 栽培と水やり
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一夜にして生まれた広大な黒土の農地。俺はベッドの上からその光景を眺め、深く満足のため息をついた。これで最高の野菜を作るための、最高の舞台は整った。
だが、すぐに新たな面倒が頭をもたげた。
種まきだ。
あの広大な土地に、一粒一粒、気の遠くなるような作業を繰り返す。腰をかがめ、土に指を突き立て、適切な間隔で種を落としていく。考えただけで、全身の関節が軋むような感覚に襲われた。
それに、水やりも問題だ。井戸はできたが、あの広さの畑全体に毎日水を撒くとなれば、膨大な時間と労力がかかる。そんなことは、俺の怠惰の哲学が許さない。
もちろん、俺自身がやるつもりなど毛頭ない。これもまた、全てを自動化するまでの話だ。
俺は再び脳内に設計図を広げた。【全自動パーフェ-クト農園計画】の第二段階、栽培と水やりの自動化に着手する。
まず、種まき。必要なのは、精密かつ高速に作業をこなす小型の機械だ。俺は、虫や小鳥のような、小型の飛行機械をイメージした。
名を、【自動種まきドローン・ピクシーワーカー】。
その体は、軽量な木材と魔力で編んだ繊維で作る。手のひらサイズで、昆虫のような薄い四枚の翅(はね)を持つ。これで、ホバリングしながらの精密作業を可能にする。
機体下部には、細長いノズルと、小さな種を貯蔵するカートリッジを搭載。俺が事前に脳内で設計した完璧な畑のレイアウト図――作物の種類ごとに最適な畝(うね)の間隔や株間を計算し尽くしたもの――に従い、編隊を組んで飛行する。
そして、指定されたポイントの上空でホバリングし、ノズルを土に突き刺す。作物の種類に応じて深さを自動で調整し、一粒だけ種を正確に射出。そして、次のポイントへ寸分の狂いもなく移動する。
種は、どうするか。幸い、両親が遺した物置の中に、様々な種類の野菜の種が保存されていた。供物として届けられたカボチャや豆からも、種を採取しておく。それらをドローンの母艦となるコンテナに貯蔵しておけば、ドローンは自動で種を補充し、二十四時間稼働し続けることができる。
次に、水やり。これは井戸との連携が鍵となる。
名を、【自動水やりスプリンクラー・ネレイドシステム】。
まず、井戸の内部に魔力で駆動する強力な水中ポンプを設置。汲み上げた水を、これまた【土木作業ゴーレム】が地中に埋設したパイプライン網を通じて、畑の隅々まで送り届ける。
畑の各所に設置するスプリンクラーは、ただ水を撒くだけの無骨な代物ではない。
その根元には、土壌の湿度をリアルタイムで感知する魔力センサーを埋め込む。さらに、大気中の魔力の流れを読み取ることで、天候を簡易的に予測する機能も持たせる。雨が降る前には、水やりを自動で停止する省エネ設計だ。
そして、作物の種類、成長段階、その日の日照時間に応じて、AIのように最適な水分量を計算。必要な場所に、必要な分だけ、霧状の優しい水を供給する。水のやりすぎによる根腐れや、水不足による生育不良など、このシステムの前ではあり得ない。
「……よし。これで栽培工程の自動化は完璧だ」
俺は設計を完了し、再び魔力が全快するのを待った。
その夜。村が深い眠りに包まれた頃、俺は静かにスキルを発動させた。
「プロセス登録【自動栽培システム】。自動実行」
井戸の時とはまた違う、精密機械を組み立てるような繊細な魔力の消費が始まった。
物置の木材がひとりでに削られ、組み上がり、手のひらサイズのドローンが次々と生まれていく。その数、およそ百機。彼らは静かに翅を震わせると、編隊を組んで夜の闇へと飛び立っていった。
黒い大地上を、小さな光点が行き交う。まるで、無数の蛍が舞い踊っているかのようだ。彼らは驚くべき正確さで畑の上を飛び回り、次々と大地に生命の種を植え付けていく。
それと同時に、地面の下ではゴーレムたちがパイプラインを敷設していた。地上では、等間隔にスプリンクラーのヘッド部分が姿を現していく。全ての作業が、交響曲のように調和し、一つの巨大なシステムを構築していく。
夜明け前、全ての設置作業は完了した。
ドローンたちは役目を終え、充電と種子の補充のため母艦へと帰還していく。そして、完成したばかりのスプリンクラーが、試験稼働を開始した。
シュワー、という心地よい音と共に、細かい水の粒子が黒土を優しく濡らしていく。朝日が昇り始め、その光が水滴に反射して、畑全体がダイヤモンドダストのようにキラキラと輝き始めた。
翌朝、村人たちは再び度肝を抜かれた。
「み、見ろ! 畑に……畑に畝ができている!」
昨日までただの黒い広野だった場所に、信じられないほど整然とした無数の畝が、どこまでも続く直線を描いて刻まれていた。その幾何学的な美しさは、もはや神業としか言いようがなかった。
「こ、この仕掛けはなんだ?」
畑のあちこちから突き出た、見慣れない金属製の装置(スプリンクラー)に、誰もが首を傾げた。
そこに、村長のバルガスが威厳のある足取りで現れた。彼は一夜にして様変わりした畑を見渡し、感嘆のため息を漏らした。
「……やはり、賢者様のお考えは我々の想像を遥かに超えている」
バルガスは、畝の一つを指さした。
「見ろ、この完璧な直線を。株と株の間の、この寸分の狂いもない間隔を。これは、我々凡俗な農民に、真の農作業とは何かを『手本』として示してくださっているのだ!」
その言葉に、村人たちはハッと息を呑んだ。
「そして、あの謎の仕掛け。あれはきっと、我々の労働を少しでも楽にしようという、賢者様の新たな慈悲の心に違いない。天からの恵みの雨を、人の手で再現する装置なのだ。なんとありがたい……」
バルガスは、スプリンクラーから噴き出す水の霧に手をかざした。その顔は、神の奇跡に触れた巡礼者のように、敬虔な喜びに満ちていた。
「賢者様は、我々に水を与え、大地を与え、そして今、種をまき、水をやるという『教え』そのものを与えてくださったのだ! 我々は、この賢者様の畑を聖地として敬い、その教えを学び取らねばならん!」
「「「おおおお!」」」
村人たちの歓声が、朝の空に響き渡った。
その声は、うっすらと俺の耳にも届いていた。
(……朝から騒がしい奴らだ。まあいい。これで種まきと水やりからも解放された。あとは害虫駆除と収穫か。それさえ終われば、俺の完璧な食生活が始まる)
俺はベッドの中で寝返りを打ち、次の計画に思考を巡らせ始めた。村人たちの熱狂的な信仰が、自らの怠惰な食欲から生まれているとは、夢にも思わずに。
だが、すぐに新たな面倒が頭をもたげた。
種まきだ。
あの広大な土地に、一粒一粒、気の遠くなるような作業を繰り返す。腰をかがめ、土に指を突き立て、適切な間隔で種を落としていく。考えただけで、全身の関節が軋むような感覚に襲われた。
それに、水やりも問題だ。井戸はできたが、あの広さの畑全体に毎日水を撒くとなれば、膨大な時間と労力がかかる。そんなことは、俺の怠惰の哲学が許さない。
もちろん、俺自身がやるつもりなど毛頭ない。これもまた、全てを自動化するまでの話だ。
俺は再び脳内に設計図を広げた。【全自動パーフェ-クト農園計画】の第二段階、栽培と水やりの自動化に着手する。
まず、種まき。必要なのは、精密かつ高速に作業をこなす小型の機械だ。俺は、虫や小鳥のような、小型の飛行機械をイメージした。
名を、【自動種まきドローン・ピクシーワーカー】。
その体は、軽量な木材と魔力で編んだ繊維で作る。手のひらサイズで、昆虫のような薄い四枚の翅(はね)を持つ。これで、ホバリングしながらの精密作業を可能にする。
機体下部には、細長いノズルと、小さな種を貯蔵するカートリッジを搭載。俺が事前に脳内で設計した完璧な畑のレイアウト図――作物の種類ごとに最適な畝(うね)の間隔や株間を計算し尽くしたもの――に従い、編隊を組んで飛行する。
そして、指定されたポイントの上空でホバリングし、ノズルを土に突き刺す。作物の種類に応じて深さを自動で調整し、一粒だけ種を正確に射出。そして、次のポイントへ寸分の狂いもなく移動する。
種は、どうするか。幸い、両親が遺した物置の中に、様々な種類の野菜の種が保存されていた。供物として届けられたカボチャや豆からも、種を採取しておく。それらをドローンの母艦となるコンテナに貯蔵しておけば、ドローンは自動で種を補充し、二十四時間稼働し続けることができる。
次に、水やり。これは井戸との連携が鍵となる。
名を、【自動水やりスプリンクラー・ネレイドシステム】。
まず、井戸の内部に魔力で駆動する強力な水中ポンプを設置。汲み上げた水を、これまた【土木作業ゴーレム】が地中に埋設したパイプライン網を通じて、畑の隅々まで送り届ける。
畑の各所に設置するスプリンクラーは、ただ水を撒くだけの無骨な代物ではない。
その根元には、土壌の湿度をリアルタイムで感知する魔力センサーを埋め込む。さらに、大気中の魔力の流れを読み取ることで、天候を簡易的に予測する機能も持たせる。雨が降る前には、水やりを自動で停止する省エネ設計だ。
そして、作物の種類、成長段階、その日の日照時間に応じて、AIのように最適な水分量を計算。必要な場所に、必要な分だけ、霧状の優しい水を供給する。水のやりすぎによる根腐れや、水不足による生育不良など、このシステムの前ではあり得ない。
「……よし。これで栽培工程の自動化は完璧だ」
俺は設計を完了し、再び魔力が全快するのを待った。
その夜。村が深い眠りに包まれた頃、俺は静かにスキルを発動させた。
「プロセス登録【自動栽培システム】。自動実行」
井戸の時とはまた違う、精密機械を組み立てるような繊細な魔力の消費が始まった。
物置の木材がひとりでに削られ、組み上がり、手のひらサイズのドローンが次々と生まれていく。その数、およそ百機。彼らは静かに翅を震わせると、編隊を組んで夜の闇へと飛び立っていった。
黒い大地上を、小さな光点が行き交う。まるで、無数の蛍が舞い踊っているかのようだ。彼らは驚くべき正確さで畑の上を飛び回り、次々と大地に生命の種を植え付けていく。
それと同時に、地面の下ではゴーレムたちがパイプラインを敷設していた。地上では、等間隔にスプリンクラーのヘッド部分が姿を現していく。全ての作業が、交響曲のように調和し、一つの巨大なシステムを構築していく。
夜明け前、全ての設置作業は完了した。
ドローンたちは役目を終え、充電と種子の補充のため母艦へと帰還していく。そして、完成したばかりのスプリンクラーが、試験稼働を開始した。
シュワー、という心地よい音と共に、細かい水の粒子が黒土を優しく濡らしていく。朝日が昇り始め、その光が水滴に反射して、畑全体がダイヤモンドダストのようにキラキラと輝き始めた。
翌朝、村人たちは再び度肝を抜かれた。
「み、見ろ! 畑に……畑に畝ができている!」
昨日までただの黒い広野だった場所に、信じられないほど整然とした無数の畝が、どこまでも続く直線を描いて刻まれていた。その幾何学的な美しさは、もはや神業としか言いようがなかった。
「こ、この仕掛けはなんだ?」
畑のあちこちから突き出た、見慣れない金属製の装置(スプリンクラー)に、誰もが首を傾げた。
そこに、村長のバルガスが威厳のある足取りで現れた。彼は一夜にして様変わりした畑を見渡し、感嘆のため息を漏らした。
「……やはり、賢者様のお考えは我々の想像を遥かに超えている」
バルガスは、畝の一つを指さした。
「見ろ、この完璧な直線を。株と株の間の、この寸分の狂いもない間隔を。これは、我々凡俗な農民に、真の農作業とは何かを『手本』として示してくださっているのだ!」
その言葉に、村人たちはハッと息を呑んだ。
「そして、あの謎の仕掛け。あれはきっと、我々の労働を少しでも楽にしようという、賢者様の新たな慈悲の心に違いない。天からの恵みの雨を、人の手で再現する装置なのだ。なんとありがたい……」
バルガスは、スプリンクラーから噴き出す水の霧に手をかざした。その顔は、神の奇跡に触れた巡礼者のように、敬虔な喜びに満ちていた。
「賢者様は、我々に水を与え、大地を与え、そして今、種をまき、水をやるという『教え』そのものを与えてくださったのだ! 我々は、この賢者様の畑を聖地として敬い、その教えを学び取らねばならん!」
「「「おおおお!」」」
村人たちの歓声が、朝の空に響き渡った。
その声は、うっすらと俺の耳にも届いていた。
(……朝から騒がしい奴らだ。まあいい。これで種まきと水やりからも解放された。あとは害虫駆除と収穫か。それさえ終われば、俺の完璧な食生活が始まる)
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