「働きたくない…」と本気で祈ったら怠惰の神が降臨。【フルオート】で身の回りを快適にしていたら、インフラを整備した救国の英雄になっていた

夏見ナイ

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第十六話 垂直展開③ 害虫駆除と収穫

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黒々とした大地に、無数の緑の芽が顔を出した。俺の設計通り、【自動種まきドローン】が植え付けた種が、驚異的な速度で成長を始めている。

俺はベッドの上からその光景を眺め、一つの真理にたどり着いていた。

生命とは、実に面倒くさい。

ただ種をまき、水をやるだけでは終わらないのだ。芽吹いたばかりの柔らかい葉は、害虫どもにとって格好のご馳走となるだろう。奴らはどこからともなく現れ、俺の完璧な野菜を無残に食い荒らすに違いない。

農薬を撒く? 論外だ。そんな手間のかかることをするくらいなら、虫に食われた方がマシだ。それに、薬品まみれの野菜など食べたくない。

そして、最大の難関が待ち受けている。収穫だ。

トマト、キュウリ、ジャガイモ、レタス。それぞれ熟す時期も、収穫の方法も違う。一つ一つ手作業で、最も美味しい瞬間を見計らって摘み取らなければならない。あの広大な畑で、そんなことをするくらいなら……もう考えるのも嫌だった。

【全自動パーフェクト農園計画】。その完成のためには、この二つの巨大な障壁を乗り越えなければならない。怠惰を守るための、最後の知的労働だ。

俺は脳内に最終設計図を広げた。

まず、害虫駆除。物理的に、奴らを畑に入れさせなければいい。俺が構想したのは、畑全体を覆う、目に見えない魔力のドームだった。

名を、【害虫駆除の聖域結界(サンクチュアリ・フィールド)】。

畑の四隅と中央に、魔力を増幅・放射する基点となるアンカーを地中深くに埋設する。それらが共鳴し合うことで、半球状の不可視のエネルギーフィールドを生成。このフィールドは、分子レベルのフィルターとして機能する。

空気、日光、雨水は自由に通り抜けさせる。しかし、一定サイズ以上の物理的な侵入は全て拒絶する。鳥や小動物はもちろん、羽虫一匹たりとも、この聖域に入ることはできない。

だが、これでは受粉を助けるミツバチのような益虫まで締め出してしまう。それでは困る。そこで、結界には高度な識別機能を持たせた。登録した特定の魔力パターンを持つ生物(益虫)だけは、自由に出入りを許可する。完璧なセキュリティシステムだ。

次に、収穫の自動化。これは、開墾ゴーレムのような武骨な代物では駄目だ。繊細な作物を、傷一つつけずに優しく収穫するための、精密機械が必要になる。

名を、【自動収穫ゴーレム・ハーベストドール】。

その体は、軽量な金属と滑らかな木材を組み合わせて作る。大きさは子供くらい。丸みを帯びたデザインで、不必要に作物を威圧しないよう配慮した。

最大の特徴は、両腕の先にある換装式のアタッチメントだ。トマトのような実をもぎ取るための、柔らかなシリコン製のハンド。レタスのような葉物を根元から刈り取るための、鋭いレーザーメス。ジャガイモのような根菜を掘り起こすための、小型の振動ショベル。これらを、対象の作物に応じて瞬時に換装する。

そして、その頭部には高性能の魔力センサーを搭載。作物の色、形、糖度、内部の水分量までをスキャンし、人間では到底見極められない「完璧な収穫タイミング」を個体ごとに判断する。

収穫された作物は、ゴーレムの胴体内部にある保冷機能付きのコンテナに格納され、地下に掘った専用通路を通って、俺の家の厨房に直結する貯蔵庫まで自動で運搬される。

「……これで、完成だ」

俺は最後の仕上げに満足し、その夜、静かにスキルを発動させた。

「最終プロセス登録【農園管理システム】。自動実行」

繊細かつ強大な魔力が、俺の体から流れ出していく。

家の裏の畑では、地面が静かに盛り上がり、四隅と中央に水晶のような輝きを放つ柱が出現した。柱は共鳴し、一瞬だけ淡い光のドームが畑を覆ったが、すぐに不可視の状態へと移行した。聖域結界の起動だ。

同時に、家の地下深くで、新たな生産ラインが稼働を始めていた。金属を削り、木材を加工する微かな音が響き、寸分の狂いもなくハーベストドールが組み上げられていく。

翌朝から、村人たちは再び賢者の奇跡を目の当たりにすることになった。

「見ろ! 葉っぱに、虫食いの穴が一つもないぞ!」
「本当だ! 俺の畑じゃ、もう青虫だらけだというのに……」

賢者の畑の作物は、まるで絵画のように完璧な姿で、青々と成長していた。害虫被害が全くないのだ。人々は、この畑が神聖な力によって守られているのだと、固く信じた。

数週間後、ついに収穫の時が来た。

村人たちは固唾を飲んで、聖地の様子を見守っていた。賢者様は、この最初の恵みをどのように収穫されるのだろうか、と。

その時、彼らは見た。

畑の畝の間に、どこからともなく現れた数体の奇妙な人形が、静かに作業を始めたのを。

人形たちは、一つ一つの作物を慈しむように優しく手に取り、傷一つつけずに収穫していく。その動きは滑らかで、一切の無駄がない。まるで、大地の精霊が豊穣の踊りを舞っているかのようだった。

「な、なんだ、あの方々は……」

村人が呆然と呟く。その疑問に、村長のバルガスが荘厳な声で答えた。

「あれこそ、賢者様がお遣わしになった、大地の恵みを収穫するための僕(しもべ)であろう。我々が手出しできぬ聖なる作業を、代行しておられるのだ」

その解釈に、誰もが深く頷いた。

収穫された作物は、人形たちの体の中に吸い込まれるように消えていく。そして、人形たちは役目を終えると、静かに地面の中へと姿を消していった。

その頃、俺の家の厨房では、新たな奇跡が起きていた。

地下貯蔵庫に直結した専用の排出口から、ゴトゴトと音を立てて、採れたての野菜が次々と姿を現したのだ。真っ赤に熟したトマト、露に濡れたように瑞々しいキュウリ、土の香りがするジャガイモ。

それらは自動で洗浄され、種類ごとにカゴに仕分けられていく。

俺は、ベッドの上でその報告を脳内に受け取っていた。

『第一回、自動収穫完了。高品質な作物を多数確保しました』

「……よし」

俺は満足げに頷くと、早速【食事準備】のプロセスを更新した。

『本日の昼食:採れたて野菜のフレッシュサラダ、最高級オリーブオイルと岩塩を添えて』

すぐに、ガラスの器に美しく盛り付けられたサラダが、俺の元へと運ばれてきた。太陽の光をたっぷり浴びた野菜が、キラキラと輝いている。

俺はフォークを手に取り、一口味わった。

シャキッ、という軽快な歯ごたえ。口の中に広がる、野菜本来の濃密な甘みと香り。

「……うまい」

思わず、心の底から言葉が漏れた。これは、今まで食べてきたどんなご馳走よりも、贅沢な味がした。

これで、俺の【全自動パーフェクト農園計画】は、ついに完成した。

俺は満足感に浸りながら、ベッドの上で極上のサラダを味わい続ける。

この完璧な農園が、俺一人の胃袋を満たすにはあまりにも広大すぎること。そして、その有り余る恵みが、やがて村全体を巻き込む新たな騒動の火種となることに、もちろん俺はまだ気づいていなかった。
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