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第二十九話 自動迎撃システム、試作
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ここ数日、俺は深刻な睡眠不足に悩まされていた。
原因は、家の周りをうろつく不審な気配だ。アリアの騎士たちが見張りをしているとはいえ、彼らは人間だ。夜になれば集中力は落ちるし、森の闇に紛れて侵入する狡猾な輩を全て防ぎきれるわけではない。
その結果、俺の家の周囲は、夜な夜なゴキブリのようにコソコソと動き回る連中の気配で満たされていた。物陰で囁く声。地面を踏む微かな音。草が擦れる衣擦れ。それらが、眠りの浅い俺の神経を執拗に逆撫でした。
「……寝れん」
ベッドの中で、俺は何度目か分からない寝返りを打った。羽毛布団の心地よさも、これでは台無しだ。
安眠。
それは、俺が追求する怠惰な生活の根幹をなす最も重要な要素だ。食事や風呂が多少不便になることよりも、睡眠を妨害されることの方が、俺にとっては遥かに苦痛だった。
(あの女騎士、仕事が甘いな。人間に警備を任せるのが、そもそも間違いだった)
俺は、ついに自ら動くことを決意した。もちろん、ベッドの上から一歩も動くつもりはない。俺が動かすのは、俺の思考と、この万能スキル【全自動化】だけだ。
必要なのは、俺の安眠を妨げる全ての害虫を、俺に気づかせることなく、静かに、そして完璧に排除するシステム。
名を、【安眠守護システム(サイレント・ガーディアン)】。
俺は目を閉じ、その設計図を脳内に描き始めた。これは、今までの生産系システムとは思想が異なる。対人、それも敵意を持つ相手を想定した防衛システムだ。だが、目的はあくまで俺の安眠。過剰な暴力や騒音は絶対に避けなければならない。
第一段階【広域探知結界】。
畑の聖域結界の応用だ。家の周囲、半径百メートルをドーム状に覆う不可視の魔力センサー網を構築する。この結界は、登録済みの人物(俺、リノ、アリア、騎士たち、村長など)以外の生命体が侵入した場合にのみ反応する。さらに、対象の心拍数や魔力の流れから「敵意」や「害意」のレベルを自動で判定する機能も付与する。
第二段階【精神干渉による警告】。
敵意を持つ侵入者を探知した場合、いきなり攻撃はしない。まずは警告を発し、自主的に立ち去る機会を与える。だが、鐘を鳴らしたり大声を出したりするのは論外だ。俺が起きてしまう。
そこで、対象の脳内に直接、幻聴として警告を響かせる。【テレパシー】の亜種のようなものだ。「立ち去れ」という、冷たく無機質な音声データを、対象の頭の中にだけリピート再生する。これなら外部には一切音は漏れない。
第三段階【無力化プロセス】。
警告を無視する愚か者には、実力行使に移る。これも静粛性が最優先だ。爆発や衝撃波は問題外。血が流れるのも後処理が面倒くさい。
俺が選んだのは、睡眠魔法だ。対象の周囲の空気に、極めて高純度な睡眠効果を持つ魔力を霧状に散布する。対象は、自分が攻撃されたことに気づく間もなく深い眠りに落ちるだろう。
そして、眠らせた侵入者を放置しておくわけにはいかない。地面から土や木の根でできたアームを静かに生成し、眠った侵入者を優しく、しかし確実に捕縛する。そして、村から離れた森の奥まで自動で運び、そこにそっと置いてくる。後腐れのない、完璧な強制送還システムだ。
「……よし。試作品としては、こんなものか」
俺は脳内で組み上げたシステムを最終確認し、スキルに登録した。
「自動実行」
体の奥から、繊細だが強力な魔力が流れ出していく。家の周囲の空間が、目に見えない魔力の糸で緻密に編み上げられていくのを感じた。
俺は満足のため息をつくと、今度こそ本当に深い眠りを求めて、意識を沈めていった。
その夜半過ぎ。
例の盗賊団が、再び闇に紛れて俺の家に接近していた。
「今夜こそ、お宝をいただくぜ。騎士様方も、毎日の見張りでお疲れのようだ」
「リーダー、どうもこの家、気味が悪いぜ。近づくだけで、頭の奥がざわつくような……」
「気のせいだ。さっさと仕事を終わらせるぞ」
彼らが、俺が設定した半径百メートルの境界線を越えた、その瞬間。
『タチサレ』
男たちの頭の中に、直接声が響いた。男でも女でもない、感情のない機械のような声。
「……ひっ!?」
「な、なんだ今の声は!?」
男たちは狼狽し、互いの顔を見合わせた。だが、周囲には誰の姿もない。ただ、静かな夜の闇が広がっているだけだ。
「……悪霊の仕業か? くそ、脅かしやがって」
リーダー格の男が悪態をつき、仲間を促してさらに家へと近づいていく。警告は、彼らの欲望の前では無力だった。
彼らが、家の壁まであと十メートルという距離まで踏み込んだ時。
ふわりと、どこからか甘く心地よい花の香りが漂ってきた。
「……なんだ、この匂い」
「いい香りだな……。なんだか、急に眠く……」
男たちの意識は、そこで途切れた。彼らは誰一人として音を立てることなくその場に崩れ落ち、安らかな寝息を立て始めた。
直後、彼らの足元の地面がぬるりと蠢いた。数本の太い木の根が、まるで蛇のように現れ、眠る男たちの体を優しく、しかし決して離さない力で絡め取っていく。
そして、その根は男たちを地面から静かに持ち上げると、一切の音を立てることなく、森の奥深くへと引きずっていくように消えていった。
一連の出来事は、わずか数分。後には、踏み荒らされた草と、微かに残る花の香りだけが残されていた。
翌朝。
俺は、ここ数日では考えられないほどの完璧な目覚めを体験していた。体は軽く、頭はすっきりしている。一切の妨害を受けない、質の高い睡眠。これぞ、俺が求めていたものだ。
家の周りからは、不快な気配が完全に消え去っていた。
「……ふふ。よく眠れた」
俺は満足げに呟き、ベッドの上で大きく伸びをした。
一方、村の警備にあたっていたアリアの騎士たちは、奇妙な現象に首を傾げていた。
「隊長。昨夜から、不審な気配がぱったりと消えました」
「うむ。まるで嵐が過ぎ去ったかのような静けさだ。一体、何が……」
そして、アリアは。
「……やはり。我々の力が及ばぬ領域で、あの方が静かに事を収められたのだ。我々は、その御心に甘えることなく、より一層この地の守りを固めねばならん」
彼女は新たな決意を胸に、朝の鍛錬を開始するのだった。
俺の安眠のために作った簡易的なシステムが、結果的に村の治安を劇的に向上させ、アリアの勘違いをさらに加速させたことを、もちろん俺は知る由もなかった。
原因は、家の周りをうろつく不審な気配だ。アリアの騎士たちが見張りをしているとはいえ、彼らは人間だ。夜になれば集中力は落ちるし、森の闇に紛れて侵入する狡猾な輩を全て防ぎきれるわけではない。
その結果、俺の家の周囲は、夜な夜なゴキブリのようにコソコソと動き回る連中の気配で満たされていた。物陰で囁く声。地面を踏む微かな音。草が擦れる衣擦れ。それらが、眠りの浅い俺の神経を執拗に逆撫でした。
「……寝れん」
ベッドの中で、俺は何度目か分からない寝返りを打った。羽毛布団の心地よさも、これでは台無しだ。
安眠。
それは、俺が追求する怠惰な生活の根幹をなす最も重要な要素だ。食事や風呂が多少不便になることよりも、睡眠を妨害されることの方が、俺にとっては遥かに苦痛だった。
(あの女騎士、仕事が甘いな。人間に警備を任せるのが、そもそも間違いだった)
俺は、ついに自ら動くことを決意した。もちろん、ベッドの上から一歩も動くつもりはない。俺が動かすのは、俺の思考と、この万能スキル【全自動化】だけだ。
必要なのは、俺の安眠を妨げる全ての害虫を、俺に気づかせることなく、静かに、そして完璧に排除するシステム。
名を、【安眠守護システム(サイレント・ガーディアン)】。
俺は目を閉じ、その設計図を脳内に描き始めた。これは、今までの生産系システムとは思想が異なる。対人、それも敵意を持つ相手を想定した防衛システムだ。だが、目的はあくまで俺の安眠。過剰な暴力や騒音は絶対に避けなければならない。
第一段階【広域探知結界】。
畑の聖域結界の応用だ。家の周囲、半径百メートルをドーム状に覆う不可視の魔力センサー網を構築する。この結界は、登録済みの人物(俺、リノ、アリア、騎士たち、村長など)以外の生命体が侵入した場合にのみ反応する。さらに、対象の心拍数や魔力の流れから「敵意」や「害意」のレベルを自動で判定する機能も付与する。
第二段階【精神干渉による警告】。
敵意を持つ侵入者を探知した場合、いきなり攻撃はしない。まずは警告を発し、自主的に立ち去る機会を与える。だが、鐘を鳴らしたり大声を出したりするのは論外だ。俺が起きてしまう。
そこで、対象の脳内に直接、幻聴として警告を響かせる。【テレパシー】の亜種のようなものだ。「立ち去れ」という、冷たく無機質な音声データを、対象の頭の中にだけリピート再生する。これなら外部には一切音は漏れない。
第三段階【無力化プロセス】。
警告を無視する愚か者には、実力行使に移る。これも静粛性が最優先だ。爆発や衝撃波は問題外。血が流れるのも後処理が面倒くさい。
俺が選んだのは、睡眠魔法だ。対象の周囲の空気に、極めて高純度な睡眠効果を持つ魔力を霧状に散布する。対象は、自分が攻撃されたことに気づく間もなく深い眠りに落ちるだろう。
そして、眠らせた侵入者を放置しておくわけにはいかない。地面から土や木の根でできたアームを静かに生成し、眠った侵入者を優しく、しかし確実に捕縛する。そして、村から離れた森の奥まで自動で運び、そこにそっと置いてくる。後腐れのない、完璧な強制送還システムだ。
「……よし。試作品としては、こんなものか」
俺は脳内で組み上げたシステムを最終確認し、スキルに登録した。
「自動実行」
体の奥から、繊細だが強力な魔力が流れ出していく。家の周囲の空間が、目に見えない魔力の糸で緻密に編み上げられていくのを感じた。
俺は満足のため息をつくと、今度こそ本当に深い眠りを求めて、意識を沈めていった。
その夜半過ぎ。
例の盗賊団が、再び闇に紛れて俺の家に接近していた。
「今夜こそ、お宝をいただくぜ。騎士様方も、毎日の見張りでお疲れのようだ」
「リーダー、どうもこの家、気味が悪いぜ。近づくだけで、頭の奥がざわつくような……」
「気のせいだ。さっさと仕事を終わらせるぞ」
彼らが、俺が設定した半径百メートルの境界線を越えた、その瞬間。
『タチサレ』
男たちの頭の中に、直接声が響いた。男でも女でもない、感情のない機械のような声。
「……ひっ!?」
「な、なんだ今の声は!?」
男たちは狼狽し、互いの顔を見合わせた。だが、周囲には誰の姿もない。ただ、静かな夜の闇が広がっているだけだ。
「……悪霊の仕業か? くそ、脅かしやがって」
リーダー格の男が悪態をつき、仲間を促してさらに家へと近づいていく。警告は、彼らの欲望の前では無力だった。
彼らが、家の壁まであと十メートルという距離まで踏み込んだ時。
ふわりと、どこからか甘く心地よい花の香りが漂ってきた。
「……なんだ、この匂い」
「いい香りだな……。なんだか、急に眠く……」
男たちの意識は、そこで途切れた。彼らは誰一人として音を立てることなくその場に崩れ落ち、安らかな寝息を立て始めた。
直後、彼らの足元の地面がぬるりと蠢いた。数本の太い木の根が、まるで蛇のように現れ、眠る男たちの体を優しく、しかし決して離さない力で絡め取っていく。
そして、その根は男たちを地面から静かに持ち上げると、一切の音を立てることなく、森の奥深くへと引きずっていくように消えていった。
一連の出来事は、わずか数分。後には、踏み荒らされた草と、微かに残る花の香りだけが残されていた。
翌朝。
俺は、ここ数日では考えられないほどの完璧な目覚めを体験していた。体は軽く、頭はすっきりしている。一切の妨害を受けない、質の高い睡眠。これぞ、俺が求めていたものだ。
家の周りからは、不快な気配が完全に消え去っていた。
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「うむ。まるで嵐が過ぎ去ったかのような静けさだ。一体、何が……」
そして、アリアは。
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