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第三十三話 垂直展開① 測量と設計
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リノが息を切らしながら運んできたのは、数枚の大きな羊皮紙だった。彼女はそれを誇らしげにテーブルの上に広げた。
「お待たせしました、マスター! これが、王宮書庫に保管されている王国最新の広域地図です。この村から王都までの地形が、最も正確に記されています」
テーブルを覆うほどの大きさの地図には、森や川、そして申し訳程度の等高線が手書きで描かれていた。街道らしき点線が、ぐねぐねと蛇行しながら王都へと続いている。
俺は、その地図を一瞥しただけで、深く、そして失望のため息をついた。
「……使えんな、これ」
「えっ!?」
リノが素っ頓狂な声を上げた。
「使えないとはどういう意味ですか! これは、王国最高の測量士たちが何年もかけて作り上げた最高傑作ですよ!」
「測量士? 笑わせるな。これは地図じゃない。ただの、子供が描いたお絵かきだ」
俺は、地図上の一点を指さした。
「この森、樹木の種類も密度も書かれていない。この川、川幅も水深も不明だ。この山、正確な標高も、地盤の硬さも分からん。こんな大雑把な情報で、どうやって最適なルートを設計しろと言うんだ」
俺が求めているのは、そんな曖昧なものではない。ミリ単位の精度で計算され尽くした、完璧な道だ。そのためには、地形に関するあらゆるデータが必要不可欠だった。
リノは、俺の言葉に絶句していた。彼女にとって、それは「地図」として完璧なものだった。だが、俺の目には、あまりにも情報が欠落した不良品にしか見えなかった。
「……マスター。あなた、一体どんな道を作るおつもりで?」
「決まっているだろう。最高で、最短で、最も効率的な道だ」
俺はそう言うと、リノが持ってきた地図をテーブルの端に押しやった。
「既存のデータが信用できないなら、自分で作るまでだ。今から、この村から王都までの、完璧な地形データを作成する」
「ご自分で……? まさか、歩いて測量するおつもりですか! 何ヶ月かかるか分かりませんよ!」
「誰がそんな面倒なことをするか」
俺はベッドに寝そべったまま、再び目を閉じた。俺の戦場は、常にこの脳内にある。
完璧な測量。それを、いかにして楽に、そして一日で終わらせるか。
必要なのは、空からの視点だ。鳥のように空を飛び、地上を見下ろしながらデータを収集する。だが、ただの鳥では駄目だ。人間の目では見えない、地面の下の情報までをもスキャンする必要がある。
俺は、新たな魔法機械の設計図を脳内に描き始めた。
名を、【広域測量ドローン・ホークアイ】。
その姿は、猛禽類の鷹を模している。高速で長距離を飛行するための流線形のフォルム。風の抵抗を最小限に抑え、少ない魔力で滑空し続けることができる翼。素材は、魔力で生成した軽量かつ頑丈な金属繊維だ。
その両目には、超高性能の魔力レンズを組み込む。地上の様子を遥か上空からでも詳細に捉える望遠機能。そして、赤外線や紫外線を感知し、植生や温度分布までをも可視化する。
だが、真の核心はそこではない。機体下部に搭載する、二つの特殊なスキャンシステムだ。
一つは、【地形スキャンソナー】。
地上に向けて特殊なパターンの魔力波をパルス状に放射する。その反響を解析することで、地形の正確な高低差、障害物の位置と大きさを、誤差一センチ以下の精度で測定する。
もう一つは、【地質スキャナ】。
さらに強力な魔力波を地面深くに浸透させ、地層の構造、岩盤の硬度、地下水脈の有無までを探査する。これにより、どこが固い地盤で、どこが軟弱な地盤かが一目瞭然になる。道の基礎工事に、これほど重要な情報はない。
そして、これらのスキャンデータは、全てリアルタイムで俺の脳内に転送される。俺の脳が受信機兼プロセッサーとなり、送られてくる膨大な情報を瞬時に処理し、三次元の完璧な立体地図を自動で構築していく。
「……よし。設計完了だ」
俺が目を開けると、目の前でリノが息を殺して、俺の顔を食い入るように見つめていた。彼女の天才的な魔力感知能力は、俺が脳内で何を設計していたのか、その輪郭を朧げながらも捉えていたらしい。
「マスター……。今、あなたは……生き物でもなく、機械でもない、全く新しい概念の『使い魔』を、ゼロから設計しましたね?」
彼女の声は、畏怖と興奮で震えていた。
「魔力で駆動する機械の体に、鳥の飛行理論を応用した設計。そして、人間の感覚器を遥かに超える、魔法的な探査機能……。こんなもの、どんな文献にも載っていない。あなたは、神の領域の創造を、まるで鼻歌でも歌うかのように……」
「うるさい。質問は一日一個までだ」
俺は彼女の賛辞をばっさりと切り捨て、スキルを発動させた。
「プロセス登録【超精密測量】。自動実行」
俺の体から、凝縮された魔力が一筋の光となって流れ出す。それはリビングの空間で形を結び、やて一羽の、金属質の輝きを放つ鷹へと姿を変えた。
ホークアイは、命令を待つ戦闘機のように、空中で静かにホバリングしている。
俺は、窓を開け放つよう思考した。
窓がひとりでに開くと、ホークアイは音もなく滑空し、蒼穹へと舞い上がった。
家の外で見張りをしていたアリアと騎士たちも、その光景を目撃した。
「……あれは?」
「光の、鳥……?」
アリアは、その神々しいまでの姿に息を呑んだ。光の鳥は、空高く舞い上がると、一瞬だけ太陽の光を反射してきらめき、次の瞬間には、驚異的な速度で王都の方角へと一直線に消えていった。
「……始まった」
アリアは、ごくりと喉を鳴らした。
「賢者様の、次なる奇跡が。何が起きるかは分からん。だが、我々は、その全てを見届けるのだ」
その頃、俺の脳内には、凄まじい勢いで情報が流れ込み始めていた。
眼下に広がる森の木々の高さ。地面の起伏。隠れた沼地の位置。硬い岩盤が走るライン。全てが、完璧な三次元データとして、俺の頭の中に構築されていく。
それは、もはや地図ではなかった。
俺の頭の中に、もう一つの世界が、寸分の狂いもなく、リアルタイムで創り上げられていく。
「ふふふ……」
笑いが込み上げてきた。これだ。これさえあれば、完璧な道が作れる。
俺は、脳内に広がる壮大な立体地図を眺めながら、満足げに呟いた。
「よし。ルートは、決まった」
「お待たせしました、マスター! これが、王宮書庫に保管されている王国最新の広域地図です。この村から王都までの地形が、最も正確に記されています」
テーブルを覆うほどの大きさの地図には、森や川、そして申し訳程度の等高線が手書きで描かれていた。街道らしき点線が、ぐねぐねと蛇行しながら王都へと続いている。
俺は、その地図を一瞥しただけで、深く、そして失望のため息をついた。
「……使えんな、これ」
「えっ!?」
リノが素っ頓狂な声を上げた。
「使えないとはどういう意味ですか! これは、王国最高の測量士たちが何年もかけて作り上げた最高傑作ですよ!」
「測量士? 笑わせるな。これは地図じゃない。ただの、子供が描いたお絵かきだ」
俺は、地図上の一点を指さした。
「この森、樹木の種類も密度も書かれていない。この川、川幅も水深も不明だ。この山、正確な標高も、地盤の硬さも分からん。こんな大雑把な情報で、どうやって最適なルートを設計しろと言うんだ」
俺が求めているのは、そんな曖昧なものではない。ミリ単位の精度で計算され尽くした、完璧な道だ。そのためには、地形に関するあらゆるデータが必要不可欠だった。
リノは、俺の言葉に絶句していた。彼女にとって、それは「地図」として完璧なものだった。だが、俺の目には、あまりにも情報が欠落した不良品にしか見えなかった。
「……マスター。あなた、一体どんな道を作るおつもりで?」
「決まっているだろう。最高で、最短で、最も効率的な道だ」
俺はそう言うと、リノが持ってきた地図をテーブルの端に押しやった。
「既存のデータが信用できないなら、自分で作るまでだ。今から、この村から王都までの、完璧な地形データを作成する」
「ご自分で……? まさか、歩いて測量するおつもりですか! 何ヶ月かかるか分かりませんよ!」
「誰がそんな面倒なことをするか」
俺はベッドに寝そべったまま、再び目を閉じた。俺の戦場は、常にこの脳内にある。
完璧な測量。それを、いかにして楽に、そして一日で終わらせるか。
必要なのは、空からの視点だ。鳥のように空を飛び、地上を見下ろしながらデータを収集する。だが、ただの鳥では駄目だ。人間の目では見えない、地面の下の情報までをもスキャンする必要がある。
俺は、新たな魔法機械の設計図を脳内に描き始めた。
名を、【広域測量ドローン・ホークアイ】。
その姿は、猛禽類の鷹を模している。高速で長距離を飛行するための流線形のフォルム。風の抵抗を最小限に抑え、少ない魔力で滑空し続けることができる翼。素材は、魔力で生成した軽量かつ頑丈な金属繊維だ。
その両目には、超高性能の魔力レンズを組み込む。地上の様子を遥か上空からでも詳細に捉える望遠機能。そして、赤外線や紫外線を感知し、植生や温度分布までをも可視化する。
だが、真の核心はそこではない。機体下部に搭載する、二つの特殊なスキャンシステムだ。
一つは、【地形スキャンソナー】。
地上に向けて特殊なパターンの魔力波をパルス状に放射する。その反響を解析することで、地形の正確な高低差、障害物の位置と大きさを、誤差一センチ以下の精度で測定する。
もう一つは、【地質スキャナ】。
さらに強力な魔力波を地面深くに浸透させ、地層の構造、岩盤の硬度、地下水脈の有無までを探査する。これにより、どこが固い地盤で、どこが軟弱な地盤かが一目瞭然になる。道の基礎工事に、これほど重要な情報はない。
そして、これらのスキャンデータは、全てリアルタイムで俺の脳内に転送される。俺の脳が受信機兼プロセッサーとなり、送られてくる膨大な情報を瞬時に処理し、三次元の完璧な立体地図を自動で構築していく。
「……よし。設計完了だ」
俺が目を開けると、目の前でリノが息を殺して、俺の顔を食い入るように見つめていた。彼女の天才的な魔力感知能力は、俺が脳内で何を設計していたのか、その輪郭を朧げながらも捉えていたらしい。
「マスター……。今、あなたは……生き物でもなく、機械でもない、全く新しい概念の『使い魔』を、ゼロから設計しましたね?」
彼女の声は、畏怖と興奮で震えていた。
「魔力で駆動する機械の体に、鳥の飛行理論を応用した設計。そして、人間の感覚器を遥かに超える、魔法的な探査機能……。こんなもの、どんな文献にも載っていない。あなたは、神の領域の創造を、まるで鼻歌でも歌うかのように……」
「うるさい。質問は一日一個までだ」
俺は彼女の賛辞をばっさりと切り捨て、スキルを発動させた。
「プロセス登録【超精密測量】。自動実行」
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ホークアイは、命令を待つ戦闘機のように、空中で静かにホバリングしている。
俺は、窓を開け放つよう思考した。
窓がひとりでに開くと、ホークアイは音もなく滑空し、蒼穹へと舞い上がった。
家の外で見張りをしていたアリアと騎士たちも、その光景を目撃した。
「……あれは?」
「光の、鳥……?」
アリアは、その神々しいまでの姿に息を呑んだ。光の鳥は、空高く舞い上がると、一瞬だけ太陽の光を反射してきらめき、次の瞬間には、驚異的な速度で王都の方角へと一直線に消えていった。
「……始まった」
アリアは、ごくりと喉を鳴らした。
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その頃、俺の脳内には、凄まじい勢いで情報が流れ込み始めていた。
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それは、もはや地図ではなかった。
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「ふふふ……」
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俺は、脳内に広がる壮大な立体地図を眺めながら、満足げに呟いた。
「よし。ルートは、決まった」
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