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第三十六話 リノの興奮
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ジの家から放たれていた、規則正しくも圧倒的な魔力の奔流が、ふっと凪のように静まった。嵐が過ぎ去ったかのような静寂。だが、アリアとリノは、その静寂が新たな始まりの合図であることを肌で感じ取っていた。
「……終わった、ようです」
リノが、かすれた声で呟いた。彼女の額には玉のような汗が浮かんでいる。
「一体、中で何が……」
アリアが言い終わる前に、リノは弾かれたように駆け出した。向かう先は家の裏手。あの広大な農地の、さらに奥に広がる空き地だ。
「リノ、待て! 危険かもしれん!」
アリアの制止の声も、もはや彼女の耳には届いていなかった。知的好奇心という名の暴走機関車は、誰にも止められない。アリアは舌打ちを一つすると、リノの後を追って走り出した。何が起きたにせよ、この目で確かめなければならない。
そして、二人は見た。
およそ、この世のものとは思えない光景を。
空き地の中央に、巨大な黒い立方体が、まるで天から降ってきたかのように鎮座していた。その表面は滑らかで、継ぎ目一つない。建材は石でも木でもない。見たこともない金属質の物質だ。
その立方体の一面から、まるで工場の生産ラインのように、完璧に同じ形をした石畳ブロックが、規則正しい音を立てて次々と排出されている。
そして、その周囲には。
「……ゴーレム?」
アリアが呆然と呟いた。
地面から、まるで植物が芽吹くかのように、次々と土色のゴーレムたちが生まれていた。巨大なローラーを持つもの、蟻のように荷台を背負ったもの、複数の繊細なアームを持つもの。その数、既に百体は超えているだろう。
生まれたてのゴーレムたちは、誰の指示を待つでもなく、自らの役割を理解しているかのように動き始めた。あるものは整列し、あるものは互いの体の最終チェックを行っている。
それは、まるで神話に描かれる、神が自らの軍団を創造する場面そのものだった。
「……すごい」
アリアは、その圧倒的な光景に、ただ立ち尽くすことしかできなかった。だが、隣に立つリノは違った。彼女は魔術師の目で、この現象のさらに奥深くにある、真に恐るべき核心に気づいていた。
「……違う。違う、違う、違う!」
リノは、何かに取り憑かれたように首を横に振った。
「ただのゴーレムじゃない。ただの自動人形(オートマタ)じゃない。彼らは……彼らは、考えている!」
「考えている、だと?」
「ええ!」
リノは、一体の【石畳敷設ゴーレ-パズルマスター】を指さした。そのゴーレムは、生まれたばかりの別のゴーレムの足元に、建設の邪魔になりそうな石ころが転がっているのを見つけると、自らのアームをすっと伸ばし、その石ころを脇へと優しくどけたのだ。
「見ましたか! あれは、プログラムされた行動ではありません! 周囲の状況を認識し、問題を発見し、最適な解決策を自ら判断して実行した! これは、これはまさしく……」
リノの声が、興奮のあまり震え始めた。
「自律思考回路(オートマインド)! 古代文明の遺産(ロストテクノロジー)として伝えられる、伝説の技術! ですが、文献に残る古代ゴーレムですら、ここまでの完成度ではなかった! 彼らは、まるで生きているようです!」
彼女は、ふらふらとした足取りで、ゴーレムたちに近づいていく。まるで、神聖な生き物に触れるかのように、恐る恐る。
アリアは、リノの言葉の意味を完全には理解できなかった。だが、彼女が言っていることが、常識を遥かに超えた、とんでもないことであるということだけは分かった。
リノは、一体のゴーレムの前に跪いた。そして、まるで美術品を鑑賞するかのように、その滑らかな機体を食い入るように見つめている。
その時、リノの目の前で、信じられない光景が繰り広げられた。
一体の【運搬ゴーレム・キャリアアント】が、動き出した拍子に、ぬかるみにキャタピラを取られてしまったのだ。空転するキャタピラが、虚しく泥を跳ね上げる。
それを見た、近くにいた別のゴーレム――【掘削整地ゴーレム・グランドレベラー】が、自らの作業を中断して、ぬかるみにはまった仲間の元へと歩み寄った。そして、その巨大なローラー状の腕を器用に使い、仲間の機体をぐっと押し上げて、ぬかるみから救出してやったのだ。
助けられたキャリアアントは、まるで礼を言うかのように、その場で一度静止し、それから自分の持ち場へと戻っていった。
プログラムにはない、連携。
命令されていない、助け合い。
それは、もはや機械の動きではなかった。
リノは、その光景を目の当たりにして、ついに限界を迎えた。
彼女の脳は、この数時間で受け取った情報量を、処理しきれなかった。
神の領域の測量魔法。
無からの物質生成。
そして、魂が宿っているかのような、自律思考するゴーレム軍団。
「……生命の、創造……。いえ、魂の、設計……。あの御方は、一体……。神か……それとも、悪魔か……」
リノの紫色の瞳から、光が失われた。
彼女は、か細い声でそれだけを呟くと、白目を剥き、糸が切れた人形のように、その場にゆっくりと崩れ落ちた。
「リノ!」
アリアが慌てて駆け寄り、失神した彼女の体を抱きかかえる。
リノが気を失うほどの、計り知れない何かが、今、この場所で起きている。その事実だけが、アリアの背筋を凍らせた。
その頃。
全ての元凶である俺は、ベッドの上で、脳内に映し出されるゴーレムたちの稼働状況をモニタリングしていた。
(よしよし、順調だな。互いに助け合うように、簡単な協調AIも組み込んでおいたが、ちゃんと機能しているようだ。これなら、俺が寝ていても、勝手に問題を解決してくれるだろう)
俺は満足げに頷くと、心地よい疲労感に身を任せ、再び眠りの世界へと旅立っていった。
天才エルフが、自分の組んだ簡易AIを見て失神したことなど、もちろん知る由もなかった。
「……終わった、ようです」
リノが、かすれた声で呟いた。彼女の額には玉のような汗が浮かんでいる。
「一体、中で何が……」
アリアが言い終わる前に、リノは弾かれたように駆け出した。向かう先は家の裏手。あの広大な農地の、さらに奥に広がる空き地だ。
「リノ、待て! 危険かもしれん!」
アリアの制止の声も、もはや彼女の耳には届いていなかった。知的好奇心という名の暴走機関車は、誰にも止められない。アリアは舌打ちを一つすると、リノの後を追って走り出した。何が起きたにせよ、この目で確かめなければならない。
そして、二人は見た。
およそ、この世のものとは思えない光景を。
空き地の中央に、巨大な黒い立方体が、まるで天から降ってきたかのように鎮座していた。その表面は滑らかで、継ぎ目一つない。建材は石でも木でもない。見たこともない金属質の物質だ。
その立方体の一面から、まるで工場の生産ラインのように、完璧に同じ形をした石畳ブロックが、規則正しい音を立てて次々と排出されている。
そして、その周囲には。
「……ゴーレム?」
アリアが呆然と呟いた。
地面から、まるで植物が芽吹くかのように、次々と土色のゴーレムたちが生まれていた。巨大なローラーを持つもの、蟻のように荷台を背負ったもの、複数の繊細なアームを持つもの。その数、既に百体は超えているだろう。
生まれたてのゴーレムたちは、誰の指示を待つでもなく、自らの役割を理解しているかのように動き始めた。あるものは整列し、あるものは互いの体の最終チェックを行っている。
それは、まるで神話に描かれる、神が自らの軍団を創造する場面そのものだった。
「……すごい」
アリアは、その圧倒的な光景に、ただ立ち尽くすことしかできなかった。だが、隣に立つリノは違った。彼女は魔術師の目で、この現象のさらに奥深くにある、真に恐るべき核心に気づいていた。
「……違う。違う、違う、違う!」
リノは、何かに取り憑かれたように首を横に振った。
「ただのゴーレムじゃない。ただの自動人形(オートマタ)じゃない。彼らは……彼らは、考えている!」
「考えている、だと?」
「ええ!」
リノは、一体の【石畳敷設ゴーレ-パズルマスター】を指さした。そのゴーレムは、生まれたばかりの別のゴーレムの足元に、建設の邪魔になりそうな石ころが転がっているのを見つけると、自らのアームをすっと伸ばし、その石ころを脇へと優しくどけたのだ。
「見ましたか! あれは、プログラムされた行動ではありません! 周囲の状況を認識し、問題を発見し、最適な解決策を自ら判断して実行した! これは、これはまさしく……」
リノの声が、興奮のあまり震え始めた。
「自律思考回路(オートマインド)! 古代文明の遺産(ロストテクノロジー)として伝えられる、伝説の技術! ですが、文献に残る古代ゴーレムですら、ここまでの完成度ではなかった! 彼らは、まるで生きているようです!」
彼女は、ふらふらとした足取りで、ゴーレムたちに近づいていく。まるで、神聖な生き物に触れるかのように、恐る恐る。
アリアは、リノの言葉の意味を完全には理解できなかった。だが、彼女が言っていることが、常識を遥かに超えた、とんでもないことであるということだけは分かった。
リノは、一体のゴーレムの前に跪いた。そして、まるで美術品を鑑賞するかのように、その滑らかな機体を食い入るように見つめている。
その時、リノの目の前で、信じられない光景が繰り広げられた。
一体の【運搬ゴーレム・キャリアアント】が、動き出した拍子に、ぬかるみにキャタピラを取られてしまったのだ。空転するキャタピラが、虚しく泥を跳ね上げる。
それを見た、近くにいた別のゴーレム――【掘削整地ゴーレム・グランドレベラー】が、自らの作業を中断して、ぬかるみにはまった仲間の元へと歩み寄った。そして、その巨大なローラー状の腕を器用に使い、仲間の機体をぐっと押し上げて、ぬかるみから救出してやったのだ。
助けられたキャリアアントは、まるで礼を言うかのように、その場で一度静止し、それから自分の持ち場へと戻っていった。
プログラムにはない、連携。
命令されていない、助け合い。
それは、もはや機械の動きではなかった。
リノは、その光景を目の当たりにして、ついに限界を迎えた。
彼女の脳は、この数時間で受け取った情報量を、処理しきれなかった。
神の領域の測量魔法。
無からの物質生成。
そして、魂が宿っているかのような、自律思考するゴーレム軍団。
「……生命の、創造……。いえ、魂の、設計……。あの御方は、一体……。神か……それとも、悪魔か……」
リノの紫色の瞳から、光が失われた。
彼女は、か細い声でそれだけを呟くと、白目を剥き、糸が切れた人形のように、その場にゆっくりと崩れ落ちた。
「リノ!」
アリアが慌てて駆け寄り、失神した彼女の体を抱きかかえる。
リノが気を失うほどの、計り知れない何かが、今、この場所で起きている。その事実だけが、アリアの背筋を凍らせた。
その頃。
全ての元凶である俺は、ベッドの上で、脳内に映し出されるゴーレムたちの稼働状況をモニタリングしていた。
(よしよし、順調だな。互いに助け合うように、簡単な協調AIも組み込んでおいたが、ちゃんと機能しているようだ。これなら、俺が寝ていても、勝手に問題を解決してくれるだろう)
俺は満足げに頷くと、心地よい疲労感に身を任せ、再び眠りの世界へと旅立っていった。
天才エルフが、自分の組んだ簡易AIを見て失神したことなど、もちろん知る由もなかった。
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