「働きたくない…」と本気で祈ったら怠惰の神が降臨。【フルオート】で身の回りを快適にしていたら、インフラを整備した救国の英雄になっていた

夏見ナイ

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第三十七話 一晩で出来た王都への道

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アリアは、気を失ったリノを宿屋のベッドに運び込んだ。王宮一の天才魔術師が、情報量の過多で失神する。前代未聞の事態だった。アリアはリノの傍らに付き添いながら、窓の外に広がる闇を見つめていた。

闇の向こう、村の外れでは、今この瞬間も、人知を超えた軍団が活動を続けている。ガション、ガション、という重々しい、しかしどこかリズミカルな稼働音が、夜風に乗って微かにここまで届いてくる。

それは、世界の姿を塗り替える音だった。

(あの方は、一体、何をされようとしているのか)

アリアは、レイジの家の方向を見つめた。あの家の中では、全ての元凶である男が、おそらく何食わぬ顔で眠りについているのだろう。

その圧倒的な現実感のなさに、アリアはもはや、恐怖すら感じなくなっていた。ただ、自分が歴史の目撃者であるという、厳粛な事実だけが、重くのしかかっていた。

彼女は、夜が明けるまで、一睡もすることなく、その音を聞き続けていた。

夜明け。

村が朝の光に包まれ始める頃、あの稼働音は、ぱたりと止んだ。まるで、最初から何もなかったかのように。

最初に異変に気づいたのは、早朝、村の門で見張りをしていた騎士だった。

彼は、いつものように東の空が白み始めるのを眺めていた。だが、その視界の端に、何か違和感を覚えた。

村から東へと続く、細く頼りない獣道。昨日までそこにあったはずのそれが、見当たらない。

代わりに、そこには。

「……な」

騎士は、自分の目を疑った。

村の門から、地平線の彼方まで。

一本の、広大で、滑らかで、そして美しい石畳の道が、まっすぐに伸びていた。

朝日を浴びて、その表面は鈍い銀色に輝いている。道の両脇には、等間隔に側溝が掘られ、完璧な直線を描いている。それは、道というより、巨大な城の回廊か、あるいは神殿へと続く参道のように、荘厳で、圧倒的な存在感を放っていた。

「……ば、かな」

騎士は、震える足で門の外へ出た。そして、恐る恐る、その石畳の上に足を乗せた。

硬い。そして、驚くほど滑らかだ。まるで、一枚岩を削り出したかのよう。

彼は、道の先を見た。道は、丘を越え、森を抜け、どこまでも、どこまでも、真っ直гуに続いていた。その先にあるのは、王都だ。

「……う、そだろ」

騎士は、その場にへたり込んだ。

一夜にして。

たった一晩で、王都までの道が、完成している。

その絶叫にも似た報告は、瞬く間に村中を駆け巡った。

村人たちは、寝間着のまま家の外へ飛び出し、村の門へと殺到した。そして、誰もが、目の前の光景に言葉を失った。

「道が……」
「王都までの、道が……」

人々は、まるで蜃気楼でも見るかのように、そのありえない光景を、ただ呆然と見つめていた。

アリアもまた、報告を受けて現場へと駆けつけた。彼女も、その光景を前にして、しばらくの間、呼吸を忘れていた。

(……これが、答えか)

測量。設計。資材と労働力の創造。あの、人知を超えた準備の数々が、全て、この一つの結果のためにあったのだ。

彼女は、ふらふらと道の上に歩み出た。

「アリア様!」

部下の制止も、耳に入らない。

彼女は、道の真ん中に立ち、その先を見つめた。

(あの方は、ただ道を作ったのではない。この国に、新たな『血脈』を創られたのだ。経済を、文化を、そして人の心を繋ぐ、太く、力強い大動脈を)

その偉業のあまりのスケールに、アリアはもはや、ひれ伏したい衝動に駆られた。

村長のバルガスは、村人たちの先頭で、その道に向かって深く、深く頭を下げていた。その目からは、大粒の涙がとめどなく溢れていた。

「賢者様……。ああ、賢者様……。我々は、またしても、貴方様の深遠なるお考えを、何一つ理解しておりませんでした。貴方様は、この村だけでなく、この国そのものの未来を、見据えておられたのですね……!」

その言葉に、村人たちも次々と道端に膝をつき、祈りを捧げ始めた。

その頃。

全ての騒ぎの中心で。

俺は、完璧な目覚めを堪能していた。

(よし。第一工区の建設は完了したようだな。ゴーレムたちの報告によれば、トラブルもなく、完璧に仕上がったらしい)

俺はベッドの中で、脳内に送られてくる完成報告書を確認し、満足げに頷いた。

(……それにしても、外がやけに騒らしいな。道ができたのが、そんなに嬉しいのか。まあ、いい。これで、いつでも王都に『星降りの塩』を買いに行ける。いや、買いに行かせる、か)

俺は、これから始まる、さらにグレードアップした食生活に思いを馳せ、怠惰な笑みを浮かべた。

一夜にして王国の大動脈を創り変えたという、歴史的な偉業を成し遂げたという自覚は、俺には一欠片もなかった。

ただ、美味しい調味料が手に入る。

俺の頭の中は、そのことでいっぱいだった。
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