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第四十話 水平展開② 商業区画の自動建設
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領主バナザールが残していった金貨の山。それは俺の怠惰な生活を経済的な不安から完全に解放してくれた。もはや金策について考える必要はない。俺は心置きなく、ベッドの上で至福の時間を過ごしていた。
だが、新たな問題は俺が作った道を通ってやってきた。
『賢者の道』の完成は、この静かな村の人の流れを激変させた。特に金に鼻の利く商人たちが、隊商を組んで大挙して押し寄せるようになったのだ。
彼らの目的は、俺の畑で採れる「賢者の野菜」や、噂に聞く「奇跡のポーション」。そして、この村を拠点とした新たな商売の確立だった。
その結果、村は未曾有の活況を呈した。しかし、それは俺にとって悪夢の始まりでもあった。
ガラガラガラ……。
ヒヒーン!
「おい! そこの野菜を全部買わせてもらうぜ!」
「こっちの宿はもう満杯だ! どこか泊まれる場所はねえのか!」
村は、一日中騒音に包まれるようになった。荷馬車が石畳を走る音、馬のいななき、商人たちの怒鳴り声のような交渉の声。それらが混じり合い、不協和音となって俺の家の窓を揺らす。
俺の家は村の外れにある。だが、多くの商人が「賢者の家」を一目見ようと、わざわざ家の前までやってくるようになった。彼らは家の周りをうろつき、大声で噂話をする。中には、無断で敷地に入ろうとする不届き者まで現れた。
【安眠守護システム】は、明確な敵意を持つ者しか排除しない。ただの好奇心や商魂は、スルーしてしまうのだ。
「……うるさい」
ベッドの中で、俺は呻いた。
完璧だったはずの静寂が、無残にも打ち砕かれていく。これでは安眠どころか、昼寝すらままならない。睡眠の質は、明らかに低下していた。
このままではいけない。俺の怠惰な生活が、その根底から脅かされている。
俺はベッドの上で、この騒音問題に対する解決策を模索し始めた。
商人たちを力ずくで追い出すか?
アリアの騎士団に頼んで、村への立ち入りを禁止させるか?
いや、どちらも駄目だ。
彼らを追い出せば、村の経済は再び停滞するだろう。そうなれば、俺の元に届けられる供物の質も落ちるかもしれない。それは困る。それに、アリアにあれこれ指図するのも、コミュニケーションが発生するので面倒くさい。
ならば、どうするか。
問題は、商人たちが村の中にまで入り込み、無秩序に活動していることだ。彼らの活動範囲を、俺の生活圏から物理的に引き離せばいい。
彼らが集まり、商売をし、宿泊するための専用の場所。それを、この村の俺の家から最も遠い場所に『用意』してやれば、全ては解決する。
「……そうか。町を作ればいいのか」
俺の脳内に、いつもの答えが閃いた。
商人たちのための、商人たちによる、商人たちのための町。それを俺が作ってやればいい。
俺は早速、その壮大な都市開発計画の設計に取り掛かった。
場所は村の東側、新しく作った街道が森を抜けた先の開けた平野。俺の家とは、村を挟んで正反対の位置だ。ここなら、どれだけ騒いでも俺の耳には届かないだろう。
どんな施設が必要か。商人たちの動線をシミュレーションする。
まず、大規模な【取引所】。商品を陳列し、安全に交渉や売買ができる屋根付きの広場だ。
次に、【宿泊施設】。簡素だが清潔なベッドと、最低限のプライバシーが確保された個室を持つ大規模な宿屋。
そして、【食堂と酒場】。長旅で疲れた彼らの胃袋を満たすための、大きな厨房とホールを備えた施設。
さらに、【巨大倉庫】。商品を一時的に保管するための、頑丈で湿気のない倉庫群。
最後に、【馬車宿(キャラバンサライ)】。馬に水や飼葉を与え、馬車を整備するための広大な駐車場と厩舎。
これらの施設を、機能的に、そして美しく配置する。中央に広場を置き、それを取り囲むように各施設を建設。道は全て石畳で舗装し、井戸や公衆トイレも完備する。
まさに、一夜にして生まれる商業のためだけの人工都市だ。
「……よし。設計完了」
俺は脳内の完璧な青写真に満足し、スキルを発動させるための魔力を練り始めた。
その夜。村人たちが寝静まった頃。
村の東の平野で、再び静かな奇跡が始まった。
【素材生成ゴーレム・マテリアルクリエイター】が、建材となる規格化された石材や木材を次々と生産。それを、無数の【建設ゴーレム】たちが設計図通りに寸分の狂いもなく組み上げていく。
土台が築かれ、壁が立ち上がり、屋根が架けられていく。その光景は、まるで早送りの映像を見ているかのようだった。
家の中では、リノがその現象を敏感に感じ取っていた。
「……また、始まった。今度は土木作業? いや、建築……? しかも、この規模。マスターは、一体……」
彼女はラボにこもり、遠隔で感知される魔力の流れを必死に羊皮紙に書き写していた。
宿屋では、アリアが窓の外に広がる闇を見つめていた。
「……この魔力。あの方はまた何かを始められた。今度は、何を創り出されるというのだ」
彼女は、これから起きるであろう新たな奇跡に、畏怖と期待の入り混じった表情を浮かべていた。
そして、夜明け。
村に滞在していた商人たちは、日の出と共に次の商売の準備を始めようと、村の東門から外へ出た。
そして、彼らは言葉を失った。
目の前に、昨日までただの荒野だったはずの場所に、一つの『町』が出現していたのだ。
真新しい石畳の道。堂々とした取引所。何棟も連なる宿屋と倉庫。その全てが、まるで何十年も前からそこにあったかのように、完璧な調和をもって存在していた。
「……な、なんだ、あれは」
「夢か? 昨日の夜、俺たちは飲みすぎたのか?」
商人たちは狐につままれたような顔で、そのありえない光景を、ただ呆然と見つめていた。
その頃。
ようやく静寂を取り戻した家のベッドで。
俺は、ここ数日では考えられないほど深く、そして安らかな眠りを貪っていた。
(……ふぅ。これで、ようやく静かになる。よく眠れそうだ)
俺の安眠を求める究極の面倒くさがりが生み出した新たな奇跡。それが、この国の商業の歴史を再び根底から塗り替えることになることを、もちろん俺はまだ知らなかった。
だが、新たな問題は俺が作った道を通ってやってきた。
『賢者の道』の完成は、この静かな村の人の流れを激変させた。特に金に鼻の利く商人たちが、隊商を組んで大挙して押し寄せるようになったのだ。
彼らの目的は、俺の畑で採れる「賢者の野菜」や、噂に聞く「奇跡のポーション」。そして、この村を拠点とした新たな商売の確立だった。
その結果、村は未曾有の活況を呈した。しかし、それは俺にとって悪夢の始まりでもあった。
ガラガラガラ……。
ヒヒーン!
「おい! そこの野菜を全部買わせてもらうぜ!」
「こっちの宿はもう満杯だ! どこか泊まれる場所はねえのか!」
村は、一日中騒音に包まれるようになった。荷馬車が石畳を走る音、馬のいななき、商人たちの怒鳴り声のような交渉の声。それらが混じり合い、不協和音となって俺の家の窓を揺らす。
俺の家は村の外れにある。だが、多くの商人が「賢者の家」を一目見ようと、わざわざ家の前までやってくるようになった。彼らは家の周りをうろつき、大声で噂話をする。中には、無断で敷地に入ろうとする不届き者まで現れた。
【安眠守護システム】は、明確な敵意を持つ者しか排除しない。ただの好奇心や商魂は、スルーしてしまうのだ。
「……うるさい」
ベッドの中で、俺は呻いた。
完璧だったはずの静寂が、無残にも打ち砕かれていく。これでは安眠どころか、昼寝すらままならない。睡眠の質は、明らかに低下していた。
このままではいけない。俺の怠惰な生活が、その根底から脅かされている。
俺はベッドの上で、この騒音問題に対する解決策を模索し始めた。
商人たちを力ずくで追い出すか?
アリアの騎士団に頼んで、村への立ち入りを禁止させるか?
いや、どちらも駄目だ。
彼らを追い出せば、村の経済は再び停滞するだろう。そうなれば、俺の元に届けられる供物の質も落ちるかもしれない。それは困る。それに、アリアにあれこれ指図するのも、コミュニケーションが発生するので面倒くさい。
ならば、どうするか。
問題は、商人たちが村の中にまで入り込み、無秩序に活動していることだ。彼らの活動範囲を、俺の生活圏から物理的に引き離せばいい。
彼らが集まり、商売をし、宿泊するための専用の場所。それを、この村の俺の家から最も遠い場所に『用意』してやれば、全ては解決する。
「……そうか。町を作ればいいのか」
俺の脳内に、いつもの答えが閃いた。
商人たちのための、商人たちによる、商人たちのための町。それを俺が作ってやればいい。
俺は早速、その壮大な都市開発計画の設計に取り掛かった。
場所は村の東側、新しく作った街道が森を抜けた先の開けた平野。俺の家とは、村を挟んで正反対の位置だ。ここなら、どれだけ騒いでも俺の耳には届かないだろう。
どんな施設が必要か。商人たちの動線をシミュレーションする。
まず、大規模な【取引所】。商品を陳列し、安全に交渉や売買ができる屋根付きの広場だ。
次に、【宿泊施設】。簡素だが清潔なベッドと、最低限のプライバシーが確保された個室を持つ大規模な宿屋。
そして、【食堂と酒場】。長旅で疲れた彼らの胃袋を満たすための、大きな厨房とホールを備えた施設。
さらに、【巨大倉庫】。商品を一時的に保管するための、頑丈で湿気のない倉庫群。
最後に、【馬車宿(キャラバンサライ)】。馬に水や飼葉を与え、馬車を整備するための広大な駐車場と厩舎。
これらの施設を、機能的に、そして美しく配置する。中央に広場を置き、それを取り囲むように各施設を建設。道は全て石畳で舗装し、井戸や公衆トイレも完備する。
まさに、一夜にして生まれる商業のためだけの人工都市だ。
「……よし。設計完了」
俺は脳内の完璧な青写真に満足し、スキルを発動させるための魔力を練り始めた。
その夜。村人たちが寝静まった頃。
村の東の平野で、再び静かな奇跡が始まった。
【素材生成ゴーレム・マテリアルクリエイター】が、建材となる規格化された石材や木材を次々と生産。それを、無数の【建設ゴーレム】たちが設計図通りに寸分の狂いもなく組み上げていく。
土台が築かれ、壁が立ち上がり、屋根が架けられていく。その光景は、まるで早送りの映像を見ているかのようだった。
家の中では、リノがその現象を敏感に感じ取っていた。
「……また、始まった。今度は土木作業? いや、建築……? しかも、この規模。マスターは、一体……」
彼女はラボにこもり、遠隔で感知される魔力の流れを必死に羊皮紙に書き写していた。
宿屋では、アリアが窓の外に広がる闇を見つめていた。
「……この魔力。あの方はまた何かを始められた。今度は、何を創り出されるというのだ」
彼女は、これから起きるであろう新たな奇跡に、畏怖と期待の入り混じった表情を浮かべていた。
そして、夜明け。
村に滞在していた商人たちは、日の出と共に次の商売の準備を始めようと、村の東門から外へ出た。
そして、彼らは言葉を失った。
目の前に、昨日までただの荒野だったはずの場所に、一つの『町』が出現していたのだ。
真新しい石畳の道。堂々とした取引所。何棟も連なる宿屋と倉庫。その全てが、まるで何十年も前からそこにあったかのように、完璧な調和をもって存在していた。
「……な、なんだ、あれは」
「夢か? 昨日の夜、俺たちは飲みすぎたのか?」
商人たちは狐につままれたような顔で、そのありえない光景を、ただ呆然と見つめていた。
その頃。
ようやく静寂を取り戻した家のベッドで。
俺は、ここ数日では考えられないほど深く、そして安らかな眠りを貪っていた。
(……ふぅ。これで、ようやく静かになる。よく眠れそうだ)
俺の安眠を求める究極の面倒くさがりが生み出した新たな奇跡。それが、この国の商業の歴史を再び根底から塗り替えることになることを、もちろん俺はまだ知らなかった。
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