「働きたくない…」と本気で祈ったら怠惰の神が降臨。【フルオート】で身の回りを快適にしていたら、インフラを整備した救国の英雄になっていた

夏見ナイ

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第六十五話 静かなる要塞

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アリアは、俺の家から自らの宿営地へと戻った。その手にはまだ抹茶アイスの冷たさと、神の慈悲(と彼女が信じる)甘い味が残っているかのようだった。彼女の顔から以前の憂慮の色は完全に消え失せ、代わりに鋼のような決意が宿っていた。

「全員、聞け!」

彼女は待機していた『聖騎士団』の騎士たちと、不安げに集まってきた村長のバルガスたちの前に立ち、凛とした声で告げた。

「国父様が動かれる。我らが土地に迫る不浄なる者どもを、その大いなる御力をもって払いのけられるとのことだ」

その言葉に、騎士たちの間に緊張が走る。村人たちは何のことか分からず、ざわめき始めた。

「皆の者、何も恐れることはない。国父様がおられる限り、この地は絶対の安全が約束されている。我々がすべきことはただ一つ。あの方の御業の邪魔にならぬよう冷静に行動し、その奇跡の瞬間を静かに見守ることだけだ」

アリアの言葉には不思議な説得力があった。それは彼女自身がレイジの力を微塵も疑っていないからだった。その絶対的な信頼は、人々の不安を鎮め、代わりに敬虔な期待感を抱かせるには十分すぎた。

「皆、家に戻り、静かに祈りを捧げよ。歴史の転換点が今、訪れようとしている」

バルガスはアリアの言葉に深く頷くと、村人たちを促してそれぞれの家へと戻っていった。村は、嵐の前の静けさというにはあまりにも穏やかな、不思議な静寂に包まれた。

その頃、俺は。
ベッドの上で、本格的な【安眠妨害絶対阻止プロジェクト】を開始していた。

「まずは防御からだな」

俺は脳内に構築された完璧な三次元地図を呼び出した。そしてこの村全体を覆う、新たな防御システムの設計に取り掛かる。今までの【絶対安寧空間創造システム】は、あくまで個人のプライバシーを守るためのもの。軍隊という規模の『害虫』を防ぐには、それ相応の壁が必要だ。

俺が設計したのは、物理的な壁と魔法的な結界を組み合わせた多層防御システムだった。

第一層、【認識阻害フィールド】。
村全体を巨大な不可視のドームで覆う。これは畑の聖域結界の応用だが、機能は全く異なる。外部からこの村を見た場合、ただの寂れた何の価値もない廃村にしか見えなくなる幻術だ。敵の攻撃目標そのものを曖昧にさせるのが目的だ。

第二層、【物理防壁オートウォール】。
認識阻害を突破してくる敵に備え、村の周囲の地面下に超硬度の黒曜石でできた壁を格納しておく。敵の接近を感知した瞬間にこの壁が音もなくせり上がり、村を物理的に完全に隔離する。高さは五十メートル。どんな兵器でも、これを乗り越えるのは不可能だろう。

第三層、【自動迎撃魔法陣(カウンターシステム)】。
壁を攻撃してくる愚か者には、お返しが必要だ。壁の表面には無数の不可視の魔法陣が刻み込まれている。敵から放たれた魔法や物理的な攻撃エネルギーを吸収し、それを増幅して寸分の狂いもなく攻撃主へと撃ち返す。自らの攻撃で自らが滅びる。実にエコなシステムだ。

「……よし。これで俺の安眠は、物理的には守られた」

俺は設計を完了させ、静かにスキルを発動させた。

「【絶対防衛要塞システム】、構築開始」

その瞬間。
リノとアリアは、同時にこの土地で起き始めた異変に気づいた。

「……空間が歪んでいる?」

リノはラボの窓から外を眺め、目を剥いた。村の風景そのものは何も変わらない。だが彼女の魔術師の目には、村全体を覆うように巨大なレンズのような魔力の層が形成されていくのが見えていた。光の屈折率が微妙に変化している。

「すごい……。これはただの幻術じゃない。因果律そのものに干渉して、『ここには価値あるものは存在しない』という『事実』を世界に上書きしているのか……。マスターの魔法はもはや物理法則を超えている」

アリアは、地面が微かに、本当に微かに振動しているのを感じ取っていた。
彼女が地面に手を触れると、その下で何か巨大なものが静かに、そして規則正しく配置されていく気配を感じた。

(……大地が作り変えられていく。この村はもはやただの村ではない。国父様の手によって、難攻不落の『要塞』へと生まれ変わりつつあるのだ)

彼女はごくりと喉を鳴らした。

そして防御の次は攻撃だ。
俺は家の地下深くにある【素材生成ゴーレム】に、新たな命令を下した。

『これより、【量産型戦闘ゴーレム・イレイザー】の生産を開始する。目標数、一万体。二十四時間体制で最大効率にて生産せよ』

街道建設や収穫に使っていた、あの牧歌的なゴーレムたちではない。
俺が設計した【イレイザー】は、ただ敵を効率的に『消去(イレース)』するためだけに存在する殺戮機械だ。

その姿は、獣のようにしなやかな四肢を持つ黒豹に似ていた。しかしその頭部には、単眼の赤いカメラアイが不気味に輝いている。両腕には高周波で振動する超硬度のブレードを装備。背中には小型の魔力キャノンを搭載。その動きは音もなく、そして予測不可能。

静かで、冷徹で、そして圧倒的に強い。
俺の安眠を妨げる害虫を駆除するには、これ以上ない性能だった。

家の地下深く。誰にも知られることなく、地獄の生産ラインが稼働を始めた。
一体、また一体と、漆黒の殺戮兵器が静かに産声を上げていく。

リノは、その膨大な魔力の流れを感知していた。
「……地下で何かが生まれている。それも、おびただしい数が。この魔力の質……生命を育むものではない。これは、死をもたらすための……」
彼女はこれから生まれるであろうものの正体を想像し、顔面を蒼白にさせた。

アリアは、大地から立ち上る微かだが禍々しい気配を感じ取っていた。
「……国父様の静かなる怒り。この地を汚そうとする愚か者たちに鉄槌を下すための神の軍団が、今、生まれようとしている」

それぞれの勘違いが極限まで高まっていく。

そして、全ての準備を終えた俺は。

脳内に表示される防衛システムの構築進捗率と、戦闘ゴーレムの生産数が順調に増えていくのを確認し、深く満足した。

「……よし。あとは全部、自動(オート)でやってくれる」

俺は大きな欠伸を一つすると、ふかふかの羽毛布団に再び体を沈めた。
外の世界で何が起ころうと、もう関係ない。
俺の完璧な要塞と無敵の軍団が、俺の安眠を守ってくれるのだから。

「……おやすみ」

俺は静かに呟き、深い深い眠りに落ちていった。

開戦を目前にして、神は眠りについた。
その絶対的な静けさと余裕の姿に、アリアとリノは逆にこれから始まるであろう一方的な蹂虙劇を確信し、静かに、そして敬虔な気持ちでその時を待つのだった。
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