「働きたくない…」と本気で祈ったら怠惰の神が降臨。【フルオート】で身の回りを快適にしていたら、インフラを整備した救国の英雄になっていた

夏見ナイ

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第七十三話 安眠妨害、絶対阻止

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俺がコーヒーゼリーの完璧な味わいに感動し、次なるデザート『炭酸飲料』の開発構想に夢中になっていた、その時だった。

ズン……。

かすかな、しかし確かな振動が俺のベッドを揺らした。
同時に遠くから、腹の底に響くような鈍い音が聞こえてきた。

(……なんだ?)

俺はスプーンを口に運びかけたまま、眉をひそめた。
地震か? いや、違う。もっと人工的で不快な振動だ。

ズズン……!

今度は先ほどよりも強い揺れ。窓ガラスがカタカタと音を立てる。
外がにわかに騒がしくなってきた。アリアの騎士たちの、緊迫した声が聞こえる。

「敵襲! 帝国軍の長距離攻撃だ!」
「まさか、ここまで届くとは!」

長距離攻撃。
その単語が俺の意識に引っかかった。

俺は面倒くさそうに、脳内の監視システムを起動した。
【広域気象観測システム】を軍事偵察モードに切り替え、この地方全体の様子を空から俯瞰する。

そこには驚くべき光景が広がっていた。

帝国軍の遥か後方。国境線近くに巨大な魔法陣がいくつも展開されている。その中心から巨大な火球や氷の槍が、放物線を描いてこちらへと飛んできていた。
その着弾地点は俺の村からはまだ数キロ離れた森や平野だ。だが、その一発一発が小さなクレーターを作るほどの、凄まじい破壊力を持っていた。

(……なるほど。威嚇射撃か。あるいは、俺の防衛システムを誘き出すための観測射撃か)

どちらにせよ、迷惑なことこの上ない。

ズゥゥゥン……!!

今度はこれまでで最大の振動。家の壁がミシリと軋んだ。
俺の完璧なコーヒーゼリーが、皿の上でぷるんと揺れる。

俺の額に青筋が浮かんだ。

うるさい。

とにかく、うるさいのだ。
この地響き。この衝撃音。
これでは昼寝もままならない。

そして何より。

俺の神聖なるデザートタイムを、邪魔しやがった。

それは俺の中で、決して越えてはならない一線を帝国軍が踏み越えた瞬間だった。

俺の怠惰な生活において、睡眠と食事は二つの神聖な柱だ。
その両方を同時に脅かすなど。
万死に値する。

俺の中で何かが、プツリと切れた。

(……面倒だ、とか言っている場合じゃないな)

俺の瞳からいつもの眠たげな光が、すうっと消えた。
代わりに宿ったのは、絶対零度の氷のような光。

俺はベッドから、ゆっくりと半身を起こした。
その、俺の人生において数えるほどしかない『本気』の動作を、部屋の隅で見ていたリノは息を呑んだ。

「……マスター?」

彼女は俺の体から放たれ始めた、今までとは比較にならないほど冷たく、そして強大な魔力の気配に、肌が粟立つのを感じていた。

それは何かを創造する魔力ではない。
何かを解析するのでもない。

ただ純粋な『怒り』と、『排除』の意志に満ちた破壊の魔力。

「リノ」

俺が低い声で呼んだ。

「は、はい!」

「あの馬鹿どもは、どこまで来ている」

「は、はい! 現在、先鋒部隊がこの村からおよそ十キロの地点まで接近中! 後続部隊、および長距離攻撃部隊は、さらにその後方、国境付近に展開しております!」

リノは水晶玉に映る軍事マップを、早口で読み上げた。

「……そうか」

俺は静かに頷いた。

十キロ。
指先一つ動かすには少し遠い。
だが、俺の『庭』の中であることに変わりはない。

俺は宣言した。
それはリノに言ったのか、アリアに言ったのか、あるいは遥か彼方の帝国軍に言ったのか。
あるいは、ただ自分自身に言っただけなのかもしれない。

「戦争? うるさそうだな」

俺は吐き捨てるように言った。

「爆発音とかで起こされたら、最悪だ」

「だから、終わらせる。今、ここで。全てを」

俺は目を閉じた。
そして俺がこの世界に来てから作り上げてきた、全てのシステムのその全てにアクセスした。

村を守る【絶対防衛要塞システム】。
道を創った【建設ゴーレム】の軍団。
天候を予測した【気象観測ドローン】。
水を制した【総合治水システム】。
そして、地下で静かに眠る一万体の【戦闘ゴーレム・イレイザー】。

それら全てを、一つの巨大なネットワークとして再構築する。

目的はただ一つ。

『俺の安眠を妨害する、全ての害虫を、この地上から完全に駆除する』

「……安眠妨害、絶対阻止」

俺は静かに、そして冷徹に呟いた。

その瞬間。
俺の家から世界そのものを揺るがすかのような、凄まじい魔力の奔流が解き放たれた。

アリアは家の外で、その神の怒りのような魔力に打たれ、思わず膝をついた。
「……国父様が、お怒りだ」
彼女は震えながら、天を仰いだ。

リノはラボの中で、全ての計測器が振り切れるのを恍惚とした表情で見つめていた。
「……始まった。神の、鉄槌が」

遥か彼方。
帝国軍総司令官ドルガンは、進軍する自軍の兵士たちを見ながら不吉な予感に身を震わせていた。

(……静かすぎる)

そうだ。あの呪われた土地が、これほど静かなはずがない。

彼の第六感が全力で警鐘を鳴らしていた。
逃げろ、と。

だが、もう遅い。

俺の究極の自己都合による、一方的な反撃が今、始まろうとしていた。
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