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第七十四話 水平展開⑤ 国家防衛プロジェクト
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俺の怒りは静かだった。
それは燃え盛る炎ではなく、全てを凍てつかせる絶対零度の氷。俺の完璧な怠惰を汚す不純物を、原子レベルで分解し、消滅させるための冷徹な意志。
ベッドの上で俺は目を閉じたまま、壮大な駆除計画の最終設計を完了させた。
これは戦争ではない。
国家防衛プロジェクトだ。
ただし、守るべき『国家』とはアルテア王国ではない。俺の安眠という名の、至高の王国だ。
俺はこれまで培ってきた全ての技術を、このプロジェクトのために水平展開し、統合する。家事、農業、土木、治水。それら全てのシステムを今、この瞬間だけ『軍事』という名のフィルターを通して再構築する。
第一段階、【完全なる情報掌握】。
敵を知ること。それが全ての始まりだ。
成層圏に浮かぶ【広域気象観測システム・テンペストアイ】の全能力を、対地監視に振り向ける。大気の流れを読む繊細なセンサーは、地上を進む十万の軍勢の、その一人一人の兵士の体温、心拍数、装備の金属反応までをも完璧に識別する。
彼らの配置、規模、進軍ルート、指揮系統、兵站線の位置。
帝国軍の全てが俺の脳内に、リアルタイムで寸分の狂いもなく映し出されていく。
彼らは自分たちが神の掌の上で、丸裸にされていることなど知る由もない。
第二段階、【環境制御による進軍妨害】。
敵をこちらの土俵に引きずり込む。
俺が作った【総合治水システム】を攻撃的に転用する。ダムのゲートを微細に操作し、川の流れを意図的に変化させる。地下放水路の水門を開き、帝国軍が進軍する平野部を一夜にして歩行困難な湿地帯へと変える。
さらに【気象観測システム】を応用し、局地的な気象操作を行う。彼らの頭上にだけ濃密な霧を発生させ、視界を奪う。あるいは進軍ルートの気温をわずかに上昇させ、兵士たちの体力をじわじわと奪っていく。
物理的な攻撃ではない。ただ彼らを苛立たせ、疲れさせ、統制を乱すための静かなる環境攻撃だ。
第三段階、【インフラを利用した戦場構築】。
俺が創り上げた『賢者の道』。それは今や帝国軍の主要な進軍ルートとなっている。
ならば、その道そのものを罠に変える。
街道の地下に無数の【建設ゴーレム】を待機させる。命令一下、彼らは街道の一部を陥没させ、あるいは壁となってせり上がり、敵の隊列を分断し、孤立させる。
美しい街道は一瞬にして、巨大な迷宮、あるいは蟻地獄へと姿を変えるのだ。
そして最終段階、【殲滅】。
いや、俺が望むのは殺戮ではない。ただの『無力化』だ。
地下のプラントで静かにその時を待つ、一万体の【量産型戦闘ゴーレム・イレイザー】。彼らを、分断され、混乱した帝国軍の只中に音もなく投入する。
彼らの任務は殺すことではない。ただ、帝国兵が持つ全ての『戦う力』と『戦う意志』を奪い去ること。武器を破壊し、鎧を切り裂き、その圧倒的な力の差を見せつけることで、彼らの心を完全に折る。
「……ふふ」
俺の口元に冷たい笑みが浮かんだ。
完璧だ。
血は一滴も流れない。
爆発音も極力抑えられるだろう。
俺の安眠を妨げることなく、害虫を駆除するための完璧なシナリオ。
俺は静かに、そして力強く、そのプロジェクトの実行を命じた。
「【国家防衛プロジェクト】、全フェーズ、同時起動」
その瞬間。
俺の体からこの世界に来て最大の魔力が、奔流となって解き放たれた。
それはもはや川でも、大河でもない。
世界そのものを飲み込む、巨大な海のうねりだった。
リノはラボの中で、そのありえない魔力の奔流を前にペンを落とした。
「……星が、動く」
彼女の目には成層圏のドローンたちが、巨大な星座のように陣形を組み替え、地上に睨みを利かせるのが見えていた。
アリアは家の前で、大地が微かに、しかし確実に脈動を始めたのを感じていた。
「……大地が、目覚める」
彼女の足元、地下深くで無数のゴーレムたちが主の命令を待ちわびて、その機体を震わせている気配を感じ取っていた。
遥か彼方、進軍を続ける帝国軍。
彼らの頭上で空がにわかに翳り始めたことに、まだ誰も気づいていない。
彼らが踏みしめる大地が、間もなく牙を剥くであろう巨大な獣の背中であることに、気づく者は一人もいなかった。
俺は膨大な魔力を消費した、心地よい疲労感に包まれていた。
脳内には無数のウィンドウが立ち上がり、プロジェクトの各フェーズがパーフェクトに進行していく様をリアルタイムで表示している。
(……よし。あとは全部、自動(オート)でやってくれる)
俺は満足げに頷くと、ふかふかの羽毛布団に再び体を沈めた。
(さてと。あとは結果が出るまで、一眠りするとしますか)
これから始まる、歴史上最も一方的で、最も静かな『戦争』。
その総指揮官は全ての采配を終えると、開戦の号砲を聞くこともなく、いびきをかいて眠りについたのだった。
それは燃え盛る炎ではなく、全てを凍てつかせる絶対零度の氷。俺の完璧な怠惰を汚す不純物を、原子レベルで分解し、消滅させるための冷徹な意志。
ベッドの上で俺は目を閉じたまま、壮大な駆除計画の最終設計を完了させた。
これは戦争ではない。
国家防衛プロジェクトだ。
ただし、守るべき『国家』とはアルテア王国ではない。俺の安眠という名の、至高の王国だ。
俺はこれまで培ってきた全ての技術を、このプロジェクトのために水平展開し、統合する。家事、農業、土木、治水。それら全てのシステムを今、この瞬間だけ『軍事』という名のフィルターを通して再構築する。
第一段階、【完全なる情報掌握】。
敵を知ること。それが全ての始まりだ。
成層圏に浮かぶ【広域気象観測システム・テンペストアイ】の全能力を、対地監視に振り向ける。大気の流れを読む繊細なセンサーは、地上を進む十万の軍勢の、その一人一人の兵士の体温、心拍数、装備の金属反応までをも完璧に識別する。
彼らの配置、規模、進軍ルート、指揮系統、兵站線の位置。
帝国軍の全てが俺の脳内に、リアルタイムで寸分の狂いもなく映し出されていく。
彼らは自分たちが神の掌の上で、丸裸にされていることなど知る由もない。
第二段階、【環境制御による進軍妨害】。
敵をこちらの土俵に引きずり込む。
俺が作った【総合治水システム】を攻撃的に転用する。ダムのゲートを微細に操作し、川の流れを意図的に変化させる。地下放水路の水門を開き、帝国軍が進軍する平野部を一夜にして歩行困難な湿地帯へと変える。
さらに【気象観測システム】を応用し、局地的な気象操作を行う。彼らの頭上にだけ濃密な霧を発生させ、視界を奪う。あるいは進軍ルートの気温をわずかに上昇させ、兵士たちの体力をじわじわと奪っていく。
物理的な攻撃ではない。ただ彼らを苛立たせ、疲れさせ、統制を乱すための静かなる環境攻撃だ。
第三段階、【インフラを利用した戦場構築】。
俺が創り上げた『賢者の道』。それは今や帝国軍の主要な進軍ルートとなっている。
ならば、その道そのものを罠に変える。
街道の地下に無数の【建設ゴーレム】を待機させる。命令一下、彼らは街道の一部を陥没させ、あるいは壁となってせり上がり、敵の隊列を分断し、孤立させる。
美しい街道は一瞬にして、巨大な迷宮、あるいは蟻地獄へと姿を変えるのだ。
そして最終段階、【殲滅】。
いや、俺が望むのは殺戮ではない。ただの『無力化』だ。
地下のプラントで静かにその時を待つ、一万体の【量産型戦闘ゴーレム・イレイザー】。彼らを、分断され、混乱した帝国軍の只中に音もなく投入する。
彼らの任務は殺すことではない。ただ、帝国兵が持つ全ての『戦う力』と『戦う意志』を奪い去ること。武器を破壊し、鎧を切り裂き、その圧倒的な力の差を見せつけることで、彼らの心を完全に折る。
「……ふふ」
俺の口元に冷たい笑みが浮かんだ。
完璧だ。
血は一滴も流れない。
爆発音も極力抑えられるだろう。
俺の安眠を妨げることなく、害虫を駆除するための完璧なシナリオ。
俺は静かに、そして力強く、そのプロジェクトの実行を命じた。
「【国家防衛プロジェクト】、全フェーズ、同時起動」
その瞬間。
俺の体からこの世界に来て最大の魔力が、奔流となって解き放たれた。
それはもはや川でも、大河でもない。
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「……大地が、目覚める」
彼女の足元、地下深くで無数のゴーレムたちが主の命令を待ちわびて、その機体を震わせている気配を感じ取っていた。
遥か彼方、進軍を続ける帝国軍。
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彼らが踏みしめる大地が、間もなく牙を剥くであろう巨大な獣の背中であることに、気づく者は一人もいなかった。
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