80 / 101
第七十九話 垂直展開③ ゴーレム軍団
しおりを挟む
夜の闇よりなお暗い漆黒の軍団が、大地から溢れ出した。
その数、一万。
月明かりを浴びて、その滑らかな黒曜石のような体がぬらりとした光を放つ。赤い単眼だけが無機質な光を宿し、前方に広がる獲物の群れを静かに捉えていた。
彼らは雄叫びを上げることも、鬨の声をあげることもない。
ただ、絶対的な静寂の中、主の命令を待つ完璧な殺戮機械の群れ。
アリアは壁の上から、その光景に言葉を失っていた。
これが国父様の静かなる怒りの顕現。
神の軍団。
彼女の隣では、いつの間にかラボから出てきていたリノが震える声で呟いていた。
「……すごい。一体一体の魔力効率が、理論上の限界値を突破している。自己修復機能まで搭載されているのか。これは軍隊ではない。一つの意志を持った災害だ」
帝国軍の兵士たちも、その異様な光景に気づいた。
突撃の勢いが鈍る。
「……な、なんだ、あれは」
「魔物か!? 地獄の門が開いたのか!」
彼らの前に現れたのは、剣も槍も持たない獣のような姿をした、謎の黒い軍団。
そのあまりの静けさが、逆に彼らの恐怖を増幅させた。
そして。
俺の最後の命令が下された。
『駆除、開始』
その思考をトリガーに、一万の【イレイザー】が同時に動き出した。
それはもはや進軍ではなかった。
音もなく風のように、闇の中を滑るように疾駆する。
十万の帝国軍が形成する分厚い隊列の隙間を、まるで水が流れるかのように浸透していく。
帝国軍の兵士たちは、何が起きたのか理解できなかった。
気づいた時には漆黒の獣が、すぐ隣を走り抜けていた。
そして次の瞬間には、自分の手にした剣が、鎧が、紙のように切り裂かれていた。
「……え?」
兵士は自分の手元を見た。そこには柄だけになった剣が虚しく握られている。
体の鎧はまるで芸術品のように細かく切り刻まれていたが、その下の肉体には傷一つついていなかった。
キィン! ギャリリッ!
そんな金属が切り裂かれる音だけが、戦場のあちこちで響き渡る。
イレイザーたちは人間には目もくれない。ただ、彼らが持つ『戦う力』の象徴である武具だけを、超振動ブレードで的確に、そして無慈悲に破壊していく。
抵抗しようとした者は、背中の魔力キャノンから放たれる衝撃弾で優しく気絶させられるだけ。
殺意がない。
憎悪もない。
ただ淡々と、そして効率的に敵の戦力を『解体』していく。
その光景は、帝国軍の兵士たちにとって斬り殺されることよりも遥かに恐ろしいものだった。
自分たちは敵としてすら認識されていない。
ただ、駆除されるべき『害虫』として処理されている。
その絶対的な格の違いが、彼らの心を根底からへし折っていった。
「……ひ、ひぃぃぃ」
「戦えるか! こんなものと!」
「化け物だ! こいつらは化け物だ!」
戦意は完全に崩壊した。
兵士たちは武器を捨て、丸裸にされ、赤子のようにその場にへたり込んで泣き叫ぶことしかできなかった。
総司令官ドルガンは、本陣でその地獄絵図を呆然と眺めていた。
彼の自慢の、大陸最強と謳われた軍団が、まるで子供の砂遊びのようにいとも容易く無力化されていく。
彼の隣で副官が震える声で言った。
「……か、閣下。も、もう無理です。我々は勝てませぬ」
ドルガンは何も答えなかった。
彼の脳裏に、あの赤い複眼と『タチサレ』という声が再び蘇っていた。
あの時逃げ出すべきだったのだ。
神の領域に足を踏み入れるべきではなかったのだ。
彼の膝ががくりと折れた。
彼は泥だらけの地面に両手をついた。
百戦錬磨の猛将が、生まれて初めて完全な敗北を認めた瞬間だった。
その一部始終を。
俺はベッドの上で、脳内モニターを通して眺めていた。
(……よしよし。順調に武装解除が進んでいるな。これなら騒音も最小限で済みそうだ)
俺はまるで工場の生産ラインの進捗を確認するかのように、冷静に、そしてどこか退屈そうにその光景を見ていた。
(それにしても一万体は少し多すぎたか。ほとんどの奴らはただうろついているだけで仕事が終わってしまいそうだ。まあ、いい。大は小を兼ねるというからな)
俺は満足げに頷くと、モニターのウィンドウを最小化した。
結果はもう見えている。
あとは彼らが、おとなしく帰ってくれるのを待つだけだ。
そして俺の静かな日常が、完全に戻ってくる。
俺は大きな欠伸を一つすると、再び心地よい眠りの世界へと意識を沈めていった。
神の軍団による、一方的な蹂躙劇。
その総指揮官は、その結末を見届けることすらなくいびきをかいて寝ていた。
これ以上ないほどの、完璧な、そして究極の『舐めプ』だった。
その数、一万。
月明かりを浴びて、その滑らかな黒曜石のような体がぬらりとした光を放つ。赤い単眼だけが無機質な光を宿し、前方に広がる獲物の群れを静かに捉えていた。
彼らは雄叫びを上げることも、鬨の声をあげることもない。
ただ、絶対的な静寂の中、主の命令を待つ完璧な殺戮機械の群れ。
アリアは壁の上から、その光景に言葉を失っていた。
これが国父様の静かなる怒りの顕現。
神の軍団。
彼女の隣では、いつの間にかラボから出てきていたリノが震える声で呟いていた。
「……すごい。一体一体の魔力効率が、理論上の限界値を突破している。自己修復機能まで搭載されているのか。これは軍隊ではない。一つの意志を持った災害だ」
帝国軍の兵士たちも、その異様な光景に気づいた。
突撃の勢いが鈍る。
「……な、なんだ、あれは」
「魔物か!? 地獄の門が開いたのか!」
彼らの前に現れたのは、剣も槍も持たない獣のような姿をした、謎の黒い軍団。
そのあまりの静けさが、逆に彼らの恐怖を増幅させた。
そして。
俺の最後の命令が下された。
『駆除、開始』
その思考をトリガーに、一万の【イレイザー】が同時に動き出した。
それはもはや進軍ではなかった。
音もなく風のように、闇の中を滑るように疾駆する。
十万の帝国軍が形成する分厚い隊列の隙間を、まるで水が流れるかのように浸透していく。
帝国軍の兵士たちは、何が起きたのか理解できなかった。
気づいた時には漆黒の獣が、すぐ隣を走り抜けていた。
そして次の瞬間には、自分の手にした剣が、鎧が、紙のように切り裂かれていた。
「……え?」
兵士は自分の手元を見た。そこには柄だけになった剣が虚しく握られている。
体の鎧はまるで芸術品のように細かく切り刻まれていたが、その下の肉体には傷一つついていなかった。
キィン! ギャリリッ!
そんな金属が切り裂かれる音だけが、戦場のあちこちで響き渡る。
イレイザーたちは人間には目もくれない。ただ、彼らが持つ『戦う力』の象徴である武具だけを、超振動ブレードで的確に、そして無慈悲に破壊していく。
抵抗しようとした者は、背中の魔力キャノンから放たれる衝撃弾で優しく気絶させられるだけ。
殺意がない。
憎悪もない。
ただ淡々と、そして効率的に敵の戦力を『解体』していく。
その光景は、帝国軍の兵士たちにとって斬り殺されることよりも遥かに恐ろしいものだった。
自分たちは敵としてすら認識されていない。
ただ、駆除されるべき『害虫』として処理されている。
その絶対的な格の違いが、彼らの心を根底からへし折っていった。
「……ひ、ひぃぃぃ」
「戦えるか! こんなものと!」
「化け物だ! こいつらは化け物だ!」
戦意は完全に崩壊した。
兵士たちは武器を捨て、丸裸にされ、赤子のようにその場にへたり込んで泣き叫ぶことしかできなかった。
総司令官ドルガンは、本陣でその地獄絵図を呆然と眺めていた。
彼の自慢の、大陸最強と謳われた軍団が、まるで子供の砂遊びのようにいとも容易く無力化されていく。
彼の隣で副官が震える声で言った。
「……か、閣下。も、もう無理です。我々は勝てませぬ」
ドルガンは何も答えなかった。
彼の脳裏に、あの赤い複眼と『タチサレ』という声が再び蘇っていた。
あの時逃げ出すべきだったのだ。
神の領域に足を踏み入れるべきではなかったのだ。
彼の膝ががくりと折れた。
彼は泥だらけの地面に両手をついた。
百戦錬磨の猛将が、生まれて初めて完全な敗北を認めた瞬間だった。
その一部始終を。
俺はベッドの上で、脳内モニターを通して眺めていた。
(……よしよし。順調に武装解除が進んでいるな。これなら騒音も最小限で済みそうだ)
俺はまるで工場の生産ラインの進捗を確認するかのように、冷静に、そしてどこか退屈そうにその光景を見ていた。
(それにしても一万体は少し多すぎたか。ほとんどの奴らはただうろついているだけで仕事が終わってしまいそうだ。まあ、いい。大は小を兼ねるというからな)
俺は満足げに頷くと、モニターのウィンドウを最小化した。
結果はもう見えている。
あとは彼らが、おとなしく帰ってくれるのを待つだけだ。
そして俺の静かな日常が、完全に戻ってくる。
俺は大きな欠伸を一つすると、再び心地よい眠りの世界へと意識を沈めていった。
神の軍団による、一方的な蹂躙劇。
その総指揮官は、その結末を見届けることすらなくいびきをかいて寝ていた。
これ以上ないほどの、完璧な、そして究極の『舐めプ』だった。
56
あなたにおすすめの小説
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした
渡琉兎
ファンタジー
『第3回次世代ファンタジーカップ』にて【優秀賞】を受賞!
2024/02/21(水)1巻発売!
2024/07/22(月)2巻発売!(コミカライズ企画進行中発表!)
2024/12/16(月)3巻発売!
2025/04/14(月)4巻発売!
応援してくださった皆様、誠にありがとうございます!!
刊行情報が出たことに合わせて02/01にて改題しました!
旧題『ファンタジーを知らないおじさんの異世界スローライフ ~見た目は子供で中身は三十路のギルド専属鑑定士は、何やら規格外みたいです~』
=====
車に轢かれて死んでしまった佐鳥冬夜は、自分の死が女神の手違いだと知り涙する。
そんな女神からの提案で異世界へ転生することになったのだが、冬夜はファンタジー世界について全く知識を持たないおじさんだった。
女神から与えられるスキルも遠慮して鑑定スキルの上位ではなく、下位の鑑定眼を選択してしまう始末。
それでも冬夜は与えられた二度目の人生を、自分なりに生きていこうと転生先の世界――スフィアイズで自由を謳歌する。
※05/12(金)21:00更新時にHOTランキング1位達成!ありがとうございます!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
暗殺者から始まる異世界満喫生活
暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。
しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。
同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。
ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる