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第八十話 出撃準備完了
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俺の脳内アラームが静かに鳴った。
設定時刻は夜明け前。最も深く眠れる至福の時間帯だ。だが、このアラームは俺自身が「最終確認」のためにセットしたものだった。
俺は億劫さに耐えながら、ゆっくりと意識を覚醒させた。
ベッドから体を起こすことはしない。ただ思考のスイッチを、睡眠モードから作戦管理モードへと切り替えるだけだ。
脳内にいくつものウィンドウが展開される。
それは俺が創り上げた【国家防衛プロジェクト】の現在の状況を示す、総合的なステータス画面だった。
【第一フェーズ:情報掌握】……完了。
帝国軍十万の全兵力の位置、状態を完全に把握。敵の通信網へのハッキング(魔法的な意味で)も完了し、彼らの指揮系統はもはや俺の手の内にある。
【第二フェーズ:環境制御】……完了。
平野部は戦略的に湿地帯と化し、敵の機動力を大幅に削いでいる。濃霧による視界不良、断続的な音響攻撃と幻覚投影により、敵兵の士気は既に壊滅状態に近い。
【第三フェーズ:戦場構築】……待機中。
『賢者の道』に仕掛けられた陥没・隆起トラップはいつでも起動可能。敵の退路を断つか、あるいは隊列を分断するか。その選択権は全て俺にある。
【第四フェーズ:直接介入】……完了。
地下で待機していた一万体の【戦闘ゴーレム・イレイザー】は、全て地上への展開を完了。帝国軍を巨大な円陣で、音もなく、しかし確実に包囲している。
そして、ウィンドウの中央にはひときわ大きく、最終的なプロジェクトのステータスが表示されていた。
《【国家防衛プロジェクト】:全システム、オンライン。最終命令を待機中》
《推定される結果:敵軍の戦闘能力、99.9%を無力化。我が方の被害、ゼロ》
《プロジェクト完了までの予測時間:約30分》
「……ふむ。完璧だ」
俺は、その完璧すぎるシミュレーション結果に満足げに頷いた。
これなら俺が朝食のパンを食べ終わる頃には、全てが終わっているだろう。騒音も振動も最小限に抑えられるはずだ。
俺の安らかな眠りのために。
そして、その後も続く完璧な怠惰な日常のために。
全ての準備は整った。
俺は思考のコンソールに、最後の命令を打ち込む準備を始めた。
それは、この静かなる戦争の始まりの合図。そして、終わりの合図でもあった。
その頃。
俺の家の外では、三者三様の夜明けを迎えていた。
アリアは黒曜石の壁の上で、夜通し東の空を睨み続けていた。
彼女の顔に疲労の色はなかった。むしろ歴史の転換点に立ち会う者だけが持つ、神聖な高揚感がその全身から溢れていた。
彼女の目には遠くの平野で蠢く、帝国軍の巨大な影が見えていた。そして、その周囲をさらに巨大な見えざる神の軍勢が、静かに取り囲んでいる気配も感じ取っていた。
(……始まる)
彼女は静かに剣の柄を握りしめた。
(国父様の神罰が。世界の理を乱す愚かな者たちへの、静かなる鉄槌が今、振り下ろされる)
彼女の心は恐怖ではなく、むしろ歓喜に打ち震えていた。
ラボの中ではリノが、水晶玉に映し出される圧倒的な光景にもはや言葉を失っていた。
ディスプレイには、俺の脳内ステータス画面とほぼ同じものが映し出されている。一万のゴーレム軍団が完璧な包囲網を形成し、獲物(帝国軍)を追い詰めていく様。
「……美しい」
彼女の口から漏れたのは、ただそれだけだった。
それはもはや戦争ではない。
一つの巨大な生命体が、自らの体内に侵入した異物を免疫システムによって静かに、そして効率的に排除していく、生命の神秘そのものだった。
「マスター……。あなたこそがこの世界の『法則』そのものだ」
彼女はペンを走らせるのも忘れ、ただその神々しいまでのシステムアートに見入っていた。
そして、遥か彼方、帝国軍の本陣。
総司令官ドルガンは悪夢にうなされ、飛び起きた。
冷や汗が全身を濡らしている。
(……逃げなければ)
彼の本能が絶叫していた。
理由はない。だが、このまま夜明けを迎えれば何か取り返しのつかないことが起きる。
彼の百戦錬磨の戦士としての勘がそう告げていた。
彼はテントを飛び出した。
東の空がわずかに白み始めている。
「全軍! 全軍に告ぐ! 今すぐ撤退の準備を……」
彼が半狂乱で叫び始めた、その時。
世界から音が消えた。
いや、違う。
一つの巨大で荘厳な『音』が、世界を支配したのだ。
それは鐘の音のようでもあり、地鳴りのようでもあった。
全ての兵士の魂の奥深くに直接響き渡るような、神の息吹。
そして彼らは見た。
地平線の彼方から漆黒の津波が、音もなくこちらへと迫ってくるのを。
それは一万の死の天使の軍団だった。
ドルガンは、その光景を前に全てを悟った。
「……ああ。我々は神の眠りを妨げてしまったのだな」
彼の顔から恐怖が消えた。
後に残されたのは、絶対的な存在を前にした諦念と、そしてどこか安らかな表情だけだった。
俺はベッドの上で、最後のエンターキーを思考の中で静かに押した。
『【国家防-衛プロジェクト】、最終フェーズ、実行(Execute)』
その瞬間。
俺は満足げに頷いた。
「出撃準備完了、だな」
そして、ふかふかの枕に再び頭を沈めた。
「さてと。あとはよろしく頼む」
世界を揺るガす最終命令を下した男は、その結果を見届けることもなく、再び平和で心地よい眠りの世界へと旅立っていった。
これ以上ないほどの、完璧な、そして究極の『丸投げ』だった。
設定時刻は夜明け前。最も深く眠れる至福の時間帯だ。だが、このアラームは俺自身が「最終確認」のためにセットしたものだった。
俺は億劫さに耐えながら、ゆっくりと意識を覚醒させた。
ベッドから体を起こすことはしない。ただ思考のスイッチを、睡眠モードから作戦管理モードへと切り替えるだけだ。
脳内にいくつものウィンドウが展開される。
それは俺が創り上げた【国家防衛プロジェクト】の現在の状況を示す、総合的なステータス画面だった。
【第一フェーズ:情報掌握】……完了。
帝国軍十万の全兵力の位置、状態を完全に把握。敵の通信網へのハッキング(魔法的な意味で)も完了し、彼らの指揮系統はもはや俺の手の内にある。
【第二フェーズ:環境制御】……完了。
平野部は戦略的に湿地帯と化し、敵の機動力を大幅に削いでいる。濃霧による視界不良、断続的な音響攻撃と幻覚投影により、敵兵の士気は既に壊滅状態に近い。
【第三フェーズ:戦場構築】……待機中。
『賢者の道』に仕掛けられた陥没・隆起トラップはいつでも起動可能。敵の退路を断つか、あるいは隊列を分断するか。その選択権は全て俺にある。
【第四フェーズ:直接介入】……完了。
地下で待機していた一万体の【戦闘ゴーレム・イレイザー】は、全て地上への展開を完了。帝国軍を巨大な円陣で、音もなく、しかし確実に包囲している。
そして、ウィンドウの中央にはひときわ大きく、最終的なプロジェクトのステータスが表示されていた。
《【国家防衛プロジェクト】:全システム、オンライン。最終命令を待機中》
《推定される結果:敵軍の戦闘能力、99.9%を無力化。我が方の被害、ゼロ》
《プロジェクト完了までの予測時間:約30分》
「……ふむ。完璧だ」
俺は、その完璧すぎるシミュレーション結果に満足げに頷いた。
これなら俺が朝食のパンを食べ終わる頃には、全てが終わっているだろう。騒音も振動も最小限に抑えられるはずだ。
俺の安らかな眠りのために。
そして、その後も続く完璧な怠惰な日常のために。
全ての準備は整った。
俺は思考のコンソールに、最後の命令を打ち込む準備を始めた。
それは、この静かなる戦争の始まりの合図。そして、終わりの合図でもあった。
その頃。
俺の家の外では、三者三様の夜明けを迎えていた。
アリアは黒曜石の壁の上で、夜通し東の空を睨み続けていた。
彼女の顔に疲労の色はなかった。むしろ歴史の転換点に立ち会う者だけが持つ、神聖な高揚感がその全身から溢れていた。
彼女の目には遠くの平野で蠢く、帝国軍の巨大な影が見えていた。そして、その周囲をさらに巨大な見えざる神の軍勢が、静かに取り囲んでいる気配も感じ取っていた。
(……始まる)
彼女は静かに剣の柄を握りしめた。
(国父様の神罰が。世界の理を乱す愚かな者たちへの、静かなる鉄槌が今、振り下ろされる)
彼女の心は恐怖ではなく、むしろ歓喜に打ち震えていた。
ラボの中ではリノが、水晶玉に映し出される圧倒的な光景にもはや言葉を失っていた。
ディスプレイには、俺の脳内ステータス画面とほぼ同じものが映し出されている。一万のゴーレム軍団が完璧な包囲網を形成し、獲物(帝国軍)を追い詰めていく様。
「……美しい」
彼女の口から漏れたのは、ただそれだけだった。
それはもはや戦争ではない。
一つの巨大な生命体が、自らの体内に侵入した異物を免疫システムによって静かに、そして効率的に排除していく、生命の神秘そのものだった。
「マスター……。あなたこそがこの世界の『法則』そのものだ」
彼女はペンを走らせるのも忘れ、ただその神々しいまでのシステムアートに見入っていた。
そして、遥か彼方、帝国軍の本陣。
総司令官ドルガンは悪夢にうなされ、飛び起きた。
冷や汗が全身を濡らしている。
(……逃げなければ)
彼の本能が絶叫していた。
理由はない。だが、このまま夜明けを迎えれば何か取り返しのつかないことが起きる。
彼の百戦錬磨の戦士としての勘がそう告げていた。
彼はテントを飛び出した。
東の空がわずかに白み始めている。
「全軍! 全軍に告ぐ! 今すぐ撤退の準備を……」
彼が半狂乱で叫び始めた、その時。
世界から音が消えた。
いや、違う。
一つの巨大で荘厳な『音』が、世界を支配したのだ。
それは鐘の音のようでもあり、地鳴りのようでもあった。
全ての兵士の魂の奥深くに直接響き渡るような、神の息吹。
そして彼らは見た。
地平線の彼方から漆黒の津波が、音もなくこちらへと迫ってくるのを。
それは一万の死の天使の軍団だった。
ドルガンは、その光景を前に全てを悟った。
「……ああ。我々は神の眠りを妨げてしまったのだな」
彼の顔から恐怖が消えた。
後に残されたのは、絶対的な存在を前にした諦念と、そしてどこか安らかな表情だけだった。
俺はベッドの上で、最後のエンターキーを思考の中で静かに押した。
『【国家防-衛プロジェクト】、最終フェーズ、実行(Execute)』
その瞬間。
俺は満足げに頷いた。
「出撃準備完了、だな」
そして、ふかふかの枕に再び頭を沈めた。
「さてと。あとはよろしく頼む」
世界を揺るガす最終命令を下した男は、その結果を見届けることもなく、再び平和で心地よい眠りの世界へと旅立っていった。
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