「働きたくない…」と本気で祈ったら怠惰の神が降臨。【フルオート】で身の回りを快適にしていたら、インフラを整備した救国の英雄になっていた

夏見ナイ

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第八十一話 開戦の狼煙

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夜明けの薄明かりが東の空を染め始めた。
それはアルテア王国にとって運命の日。そしてガルニア帝国十万の軍勢にとっては、悪夢の始まりを告げる光だった。

総司令官ドルガンは、地平線の彼方から迫り来る漆黒の津波を呆然と見つめていた。
それは一万の死の影。音もなく殺気もなく、ただ絶対的な殲滅の意志だけを乗せて大地を滑るように進んでくる。

「……来た」

彼の喉から乾いた声が漏れた。
本能が絶叫している。逃げろ、と。だが、彼の足は恐怖で地面に縫い付けられたかのように動かなかった。

「て、敵襲! 敵襲だ!」
見張りの兵士が半狂乱で叫ぶ。
だが、その声は十万の軍勢が発する混乱のノイズの中に虚しくかき消された。

精神攻撃によって既に統制を失いかけていた兵士たちは、目の前に現れた人知を超えた軍団を前に完全にパニックに陥った。
「な、なんだ、あれは!」
「悪魔の軍勢だ!」
「もうおしまいだ! 逃げろ!」

もはや軍隊ではなかった。ただの恐怖に駆られた烏合の衆。
ドルガンは自慢の精鋭部隊が、戦う前に崩壊していく様をただ見ていることしかできなかった。

その頃、王都アルテアは悲壮な決意に満ちていた。
城門の前には近衛騎士団長グレイグ率いる、王国の最後の希望である五千の騎士たちが整然と隊列を組んでいた。彼らの顔には死地へと向かう者の覚悟が刻まれている。

国王オルデウスが城壁の上から、彼らに向かって声を張り上げた。
「我が誇り高き騎士たちよ! 敵は十万! 我らは五千! まさに蟷螂の斧であろう!」

その声は魔法によって増幅され、王都全体に響き渡る。

「だが我らは退かぬ! この国の民を、歴史を、そして我らが誇りを守るため、この身が砕けるまで戦い抜く! 我らの背後には民がいる! そして東の地には、我らが国父様がおわす!」

王の言葉に騎士たちの士気が奮い立つ。市民たちは城壁の上から涙を流し、彼らに声援を送っていた。

「行け! 帝国の野蛮人どもにアルテアの魂を見せてやれ!」
グレイグは剣を抜き放ち、天に掲げた。
「全軍、出撃! 国父様が奇跡を起こされる、その時まで! 我らがこの国を支えるのだ!」

「「「おおおおおっ!」」」

五千の騎士たちの雄叫びが大地を揺るがす。
重い城門がギギギ、と音を立てて開かれ始めた。
王国の存亡を懸けた絶望的な戦いが、今、始まろうとしていた。

その、瞬間だった。

世界が光った。

東の空。
遥か彼方の辺境の地。
そこから巨大な黄金色の光の柱が、天を貫いたのだ。

その光はあまりにも強く、あまりにも神々しく、王都にいる者たちですら誰もがその異常事態に気づいた。

「……な、なんだ、あれは」
グレイグは馬上で動きを止め、東の空を凝視した。
城壁の上のオルデウスも大臣たちも、そして王都の全ての民が、まるで奇跡の顕現を見るかのようにその光に見入っていた。

光は一瞬で収まった。
だが次の瞬間、大地が揺れた。

ズズズズズ……。

それは地震ではなかった。
遥か東の地から、何か巨大なものが一斉に動き出したかのような地鳴りのような振動。

出撃しようとしていた騎士団は完全に動きを止めていた。
何が起きているのか誰にも分からない。
ただ人知を超えた、とてつもない何かが始まった。
そのことだけは、誰もが肌で感じ取っていた。

戦場では地獄の演奏会が始まっていた。

漆黒のゴーレム軍団【イレイザー】は、混乱する帝国軍の隊列に音もなく突入した。
彼らは殺さない。ただ、破壊する。

一体のイレイザーが重装歩兵の横を駆け抜ける。その腕の超振動ブレードが残像を描く。
次の瞬間、歩兵が身につけていた分厚い鋼鉄の鎧は、まるでパズルのように数十のパーツに分解され、地面に散ばばった。兵士は下着姿のまま呆然と立ち尽くす。

別のイレイザーが騎馬隊の中を疾駆する。
馬上の騎士が持つ槍も剣も兜も、全てが一瞬で切り裂かれ、ただの鉄屑と化す。馬は傷つけない。ただ、乗り手だけを無力化する。

「うわああああ!」
「武器が! 鎧が!」

兵士たちの悲鳴が戦場のあちからで上がる。
彼らは生まれて初めて、戦う術を完全に奪われるという恐怖を味わっていた。

ドルガンは本陣で、その悪夢のような光景を震えながら見ていた。
「……なんだ、こいつらは。なぜ殺さない。なぜただ、我々の牙を、爪を、剥ぎ取っていくだけなのだ……」

それは戦いではなかった。
ただの一方的な『解体作業』だった。

そして追い打ちをかけるように、大地が牙を剥いた。

ズドン!

帝国軍の退路となっていた『賢者の道』が、突如として巨大な壁となってせり上がった。
【建設ゴーレム】たちが地下から道を隆起させ、巨大な防壁を創り上げたのだ。

「た、退路が!」
「断たれた! 我々は袋の鼠だ!」

兵士たちの最後の希望だった逃げ道は、絶望の壁へと姿を変えた。
さらに彼らが立つ平野そのものが、彼らを喰らおうとしていた。

地面が突如として陥没する。
そこは俺が治水のために意図的に創り上げた、隠し遊水地だった。
ぬかるみに足を取られ、身動きが取れなくなる兵士たち。

隊列は分断され、指揮系統は完全に麻痺した。
十万の軍勢はもはや統制の取れた組織ではなく、ただ怯える個人の集まりと化していた。

その完璧に計算され尽くした静かなる蹂躙劇。
その全てを俺はベッドの上で夢うつつに感じ取っていた。

(……うん。順調、順調。これなら朝食までには静かになるだろう)

俺の脳内モニターには『害虫駆除、進捗率30%』という無機質な文字が、淡々と表示されているだけだった。

開戦の狼煙は上がった。
だが、それは戦いの始まりを告げるものではなかった。
ただ、一方的な、そしてあまりにも静かな終焉の始まりを告げるものだった。
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