お前のような地味な女は不要だと婚約破棄されたので、持て余していた聖女の力で隣国のクールな皇子様を救ったら、ベタ惚れされました

夏見ナイ

文字の大きさ
13 / 99

第13話:力の解放

しおりを挟む
リリアーナの指先が、銀髪の騎士の額に触れた。
その瞬間、彼女の中で何かが弾けた。

それは意志ではなかった。決意でもなかった。
ただ、堰を切ったように、抑えつけていた力が奔流となって溢れ出したのだ。

「あっ……!」

声にならない悲鳴が喉から漏れる。
全身から、まばゆい銀色の光がほとばしった。それは聖女の奇跡と呼ばれるような穏やかな光ではない。制御を失った激流。全てを飲み込み、焼き尽くさんばかりの暴力的なまでの輝きだった。

リリアーナの体が、内側から引き裂かれるような激痛に襲われる。
魂ごと、ごっそりと何かを吸い上げられていく感覚。自らの生命力が、光となって指先から彼へと注ぎ込まれていく。幼い頃、マリアンヌを傷つけた時とは比べ物にならないほどの、凄まじいエネルギーの流出だった。

視界が白く染まり、意識が明滅する。
怖い。
また間違えてしまうかもしれない。この人を癒やすどころか、命を奪ってしまうかもしれない。
トラウマが冷たい楔となって、思考を縛り付ける。

しかし、指先に伝わる彼の肌の冷たさが、弱々しい呼吸が、リリアーナを現実に引き戻した。
この人は、死にかけている。
私がここでやめれば、この人は確実に死ぬ。

だったら、やるしかない。

リリアーナは奥歯を食いしばり、朦朧とする意識を必死で繋ぎ止めた。
もう自分の命がどうなってもいい。ただ、この人が助かってほしい。
その一心だけが、彼女を支える唯一の柱だった。

彼女から放たれる銀の光は、瀕死の騎士を完全に包み込んだ。
すると、驚くべき変化が起きた。
彼の体を蝕んでいた黒い魔瘴が、光に触れたそばから霧散していく。まるで、闇が光に浄化されるように、シュウシュウと音を立てて消えていくのだ。肌に浮かび上がっていた不気味な黒い痣も、見る見るうちに薄れていった。

何よりの変化は、彼の表情だった。
苦痛に歪んでいた顔が、少しずつ、ほんの少しずつ穏やかになっていく。固く結ばれていた唇が微かに緩み、苦しげだった呼吸も、深く静かなものへと変わっていく。

リリアーナは、その変化を確かに感じ取っていた。
自分の力が、今度こそ、誰かを救っている。
呪いでしかなかったこの力が、初めて、命を繋ぐために使われている。

その事実に、胸の奥から熱いものがこみ上げてきた。
それは喜びとも安堵とも違う、もっと根源的な感情だった。生まれて初めて、自分がこの世界に存在していて良いのだと、許されたような感覚。

どれほどの時間が経っただろう。
やがて、リリアーナの体から溢れ出ていた光が、勢いを失い始めた。彼女の生命力が、限界まで搾り取られたのだ。
視界は完全に白黒になり、耳は何も聞こえない。指先の感覚ももうない。

体から力が抜け、彼女の体はぐらりと傾いだ。
意識が途切れる、その最後の瞬間。
リリアーナの瞳に映ったのは、穏やかな寝息を立てる銀髪の騎士の寝顔だった。
そのあまりの美しさに、彼女は微かに微笑んだ気がした。

そして、彼女の意識は深い闇の中へと、静かに沈んでいった。
開けた森の中に、傷ついた二人が倒れている。ただ、夜の静寂だけが、彼らを包んでいた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?

藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。 目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。 前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。 前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない! そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

〖完結〗私の事を愛さなくても結構ですが、私の子を冷遇するのは許しません!

藍川みいな
恋愛
「セシディには出て行ってもらう。」 ジオード様はいきなり愛人を連れて来て、いきなり出て行けとおっしゃいました。 それだけではなく、息子のアレクシスを連れて行く事は許さないと… ジオード様はアレクシスが生まれてから一度だって可愛がってくれた事はありませんし、ジオード様が連れて来た愛人が、アレクシスを愛してくれるとは思えません… アレクシスを守る為に、使用人になる事にします! 使用人になったセシディを、愛人は毎日いじめ、ジオードは目の前でアレクシスを叱りつける。 そんな状況から救ってくれたのは、姉のシンディでした。 迎えに来てくれた姉と共に、アレクシスを連れて行く… 「シモーヌは追い出すから、セシディとアレクシスを連れていかないでくれ!!」 はあ!? 旦那様は今更、何を仰っているのでしょう? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全11話で完結になります。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

〖完結〗記憶を失った令嬢は、冷酷と噂される公爵様に拾われる。

藍川みいな
恋愛
伯爵令嬢のリリスは、ハンナという双子の妹がいた。 リリスはレイリック・ドルタ侯爵に見初められ、婚約をしたのだが、 「お姉様、私、ドルタ侯爵が気に入ったの。だから、私に譲ってくださらない?」 ハンナは姉の婚約者を、欲しがった。 見た目は瓜二つだが、リリスとハンナの性格は正反対。 「レイリック様は、私の婚約者よ。悪いけど、諦めて。」 断った私にハンナは毒を飲ませ、森に捨てた… 目を覚ました私は記憶を失い、冷酷と噂されている公爵、アンディ・ホリード様のお邸のベッドの上でした。 そして私が記憶を取り戻したのは、ハンナとレイリック様の結婚式だった。 設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全19話で完結になります。

「醜い」と婚約破棄された銀鱗の令嬢、氷の悪竜辺境伯に嫁いだら、呪いを癒やす聖女として溺愛されました

黒崎隼人
恋愛
「醜い銀の鱗を持つ呪われた女など、王妃にはふさわしくない!」 衆人環視の夜会で、婚約者の王太子にそう罵られ、アナベルは捨てられた。 実家である公爵家からも疎まれ、孤独に生きてきた彼女に下されたのは、「氷の悪竜」と恐れられる辺境伯・レオニールのもとへ嫁げという非情な王命だった。 彼の体に触れた者は黒い呪いに蝕まれ、死に至るという。それは事実上の死刑宣告。 全てを諦め、死に場所を求めて辺境の地へと赴いたアナベルだったが、そこで待っていたのは冷徹な魔王――ではなく、不器用で誠実な、ひとりの青年だった。 さらに、アナベルが忌み嫌っていた「銀の鱗」には、レオニールの呪いを癒やす聖なる力が秘められていて……?

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

〖完結〗冤罪で断罪された侯爵令嬢は、やり直しを希望します。

藍川みいな
恋愛
「これより、サンドラ・バークの刑を執行する!」 妹を殺そうとした罪で有罪となった私は、死刑を言い渡されました。ですが、私は何もしていない。 全ては、妹のカレンが仕組んだことでした。 刑が執行され、死んだはずの私は、何故か自分の部屋のベッドの上で目を覚ましたのです。 どうやら時が、一年前に戻ったようです。 もう一度やり直す機会をもらった私は、二度と断罪されないように前とは違う選択をする。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全14話で完結になります。

処理中です...