お前のような地味な女は不要だと婚約破棄されたので、持て余していた聖女の力で隣国のクールな皇子様を救ったら、ベタ惚れされました

夏見ナイ

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第63話:見苦しい懇願

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ュレイの冷酷な拒絶と侮蔑に満ちた言葉。
それはセドリックに残されていたなけなしの王族としてのプライドを完全に粉砕した。
彼の頭の中は真っ白になった。
どうすればいい。このまま手ぶらで帰れば、待っているのは国の崩壊と兄や臣下たちからの非難だけだ。自分の未来は完全に閉ざされてしまう。

その絶望が彼の理性のタガを外した。
セドリックは使節団の列から衝動的に飛び出すと、リリアーナの前に進み出た。そしてあろうことか、その場に両膝をついたのだ。
謁見の間にいる全ての者が息をのんだ。一国の王子が他国の、それも皇太子の前で土下座するなど前代未聞の醜態だった。

「リリアーナ!」
セドリックは床に額をこすりつけんばかりの勢いで叫んだ。
「頼む! 戻ってきてくれ! 君の力が必要なんだ!」
その声はもはや王子の威厳など微塵も感じさせない、ただの哀れな男の悲鳴だった。

「国が……国が滅びてしまう! 民が病と魔物に苦しんでいる! この通りだ、どうか我々を見捨てないでくれ!」
彼はリリアーナの同情心に訴えかけようと必死だった。かつての彼女はいつも他人の顔色を窺い、誰かに請われれば断れない気の弱い女だった。その記憶だけが彼の最後の頼みの綱だった。

リリアーナは目の前で土下座する男を静かに見下ろしていた。
その瞳に憐憫の色はなかった。
確かに民が苦しんでいるという言葉に胸は痛んだ。罪のない人々が愚かな指導者のせいで苦しんでいる。それは悲しいことだ。
しかし、だからといって自分が戻るという選択肢はもはや彼女の中には存在しなかった。

彼女の居場所はもうそこではない。
彼女の世界はもうこの男とは交わらない。

セドリックはリリアーナが何も答えないことに焦りを募らせた。
「君がいなくなってから全てがおかしくなったんだ! 私が悪かった! 君の価値に気づかなかった私が愚かだった! だから許してくれとは言わない! ただ国を、民を救うと思って……!」
見苦しい自己弁護と薄っぺらい懇願。
その言葉の一つ一つが、リリアーナの中に残っていた彼に対する最後の情さえも綺麗に消し去っていった。

その時だった。
玉座からゆっくりと立ち上がったアシュレイがリリアーナの隣に立った。
そして彼女の肩を、まるで宝物を抱きしめるかのように優しく、しかし力強く抱き寄せた。

「……まだ分からないのか」

アシュレイの声は静かだった。だがその静けさの奥には、地獄の底から響いてくるような絶対零度の怒りが込められていた。
彼の青い瞳は床に這いつくばるセドリックを、虫けらを見るかのように見下している。

「彼女はお前が捨てた女ではない。彼女は帝国の聖女だ。そして……」

アシュレイはそこで一度言葉を切った。
そしてリリアーナの髪に、慈しむようにそっと口づけを落とす。その親密な光景にセドリックは息をのんだ。

「彼女は私の未来の皇妃だ」

その言葉は雷鳴のように謁見の間に響き渡った。
セドリックの顔から血の気が完全に引いた。未来の皇妃。自分が足蹴にした石ころが、大陸最強の帝国の次代の母となる。
その事実は彼の心を完膚なきまでに叩きのめした。

アシュレイの腕の中でリリアーナは顔を上げた。
そしてセドリックに向かって、初めてはっきりと自分の意志を告げた。その声はかつてのか細い少女のものではなく、一人の自立した女性の凛とした響きを持っていた。

「セドリック殿下。お言葉ですが、お断りいたします」
「なっ……!」
「わたくしはもうバークレイ王国の人間ではございません。わたくしの居場所はここです。アシュレイ様の、お隣です」

彼女の瞳には揺るぎない決意が宿っていた。
その瞳ははっきりとセドリックに告げていた。
あなたは私の過去。
そしてこの方こそが、私の未来なのだ、と。
その絶対的な拒絶の言葉は、セドリックの最後の希望を無慈悲に打ち砕いた。
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