Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第8話 ギルドでの屈辱

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アレンの意識が浮上した時、最初に感じたのは湿った土の匂いと、頬を撫でる生暖かい風だった。ゆっくりと瞼を開くと、夕焼けに染まった空が目に映る。どうやら、ダンジョンの入り口近くで気を失ってから、半日ほどが経過したらしい。

「……っ」

体を起こそうとして、全身に走る激痛に顔を歪めた。特に左足の傷は、応急処置のヒールだけでは到底足りず、ズキズキと熱を持っている。飢えと渇きも限界に達していた。それでも、不思議と体は少しだけ軽くなっている。気絶していた間に、最低限の体力が回復したのだろう。

(街へ……行かないと)

ここで夜を迎えれば、今度こそ夜行性のモンスターの餌食になる。アレンは近くに落ちていた手頃な木の枝を拾い、それを杖代わりにして、ふらつく体で立ち上がった。
目指すは、ダンジョンから最も近い冒険者の街、アークライト。そこまで行けば、ひとまず安全は確保できる。

道程は、地獄だった。
引きずる足は一歩進むごとに激痛を訴え、空腹で胃がキリキリと痛む。道端に生えていた食べられそうな草の実を口にしたが、腹の足しにはならなかった。何度か、意識が遠のきそうになるのを、歯を食いしばって耐える。

(なぜ、俺がこんな目に……)

何度もその問いが頭をよぎる。しかし、答えは出ない。ただ、ガリウスの冷たい目、ティナの侮蔑の笑み、ジェイクの嘲笑、そして何もしてくれなかったリリアの俯く姿が、幻覚のように何度も目の前にちらついては消えた。その度に、胸に鈍い痛みが走る。

どれほど歩いただろうか。陽が完全に落ち、夜の闇が世界を覆い尽くす頃、アレンの視界の先に、ぽつりぽつりと街の灯りが見えてきた。
アークライトだ。
その光を見た瞬間、アレンの膝から力が抜けた。彼はその場に崩れ落ちそうになるのを、杖にした枝に全体重を預けてなんとか堪える。あと少し。あと少しだ。

彼は最後の気力を振り絞り、街の門をくぐった。衛兵が彼のボロボロの姿を見て訝しげな顔をしたが、冒険者風の人間が傷だらけで帰ってくるのは珍しいことではない。特に咎められることもなく、アレンは街の中へ入ることができた。

彼の足が向かったのは、街の中央に位置する冒険者ギルドだった。
パーティを脱退するには、正式な手続きが必要だ。それを済ませなければ、いつまでも自分は【熾天の剣】の所属ということになってしまう。一刻も早く、あのパーティとの繋がりを断ち切りたかった。

ギルドの建物は、夜だというのに煌々と明かりが灯り、中からは大勢の冒険者たちの喧騒が漏れ聞こえてくる。酒を酌み交わす者、依頼の成功を自慢し合う者、仲間と次の計画を練る者。その活気に満ちた光景が、今の彼にはひどく遠い世界のものに感じられた。

アレンは一度深く息を吸い、重い扉を押して中へ入った。
その瞬間、ギルド内の喧騒が、ほんの一瞬だけ静まった。全ての視線が、入り口に立つ異様な姿の男に注がれる。
薄汚れた衣服はところどころ破れ、髪は土と汗で汚れ、足を引きずり、顔には疲労と絶望の色が深く刻まれている。そんな男が、有名なSランクパーティの紋章を身につけていないことに、誰もがすぐに気づいた。

「……なんだ、あいつ」
「どっかのダンジョンで失敗したのか?ひでえ様だな」

ひそひそとした囁き声が、アレンの耳に届く。彼はその視線と囁きを無視するように、まっすぐ受付カウンターへと向かった。

「……すみません」

カウンターにいたのは、栗色の髪をした若い女性職員だった。彼女はアレンの姿に驚きながらも、職業スマイルを浮かべて対応する。

「はい、どのようなご用件でしょうか?」

「パーティの……脱退手続きをお願いします」

アレンは震える声でそう告げた。女性職員はにこやかな表情のまま、手元の書類に視線を落とす。

「かしこまりました。お名前と、所属パーティ名を教えていただけますか?」

「アレンです。パーティは……【熾天の剣】です」

その名前が出た瞬間、女性職員の顔から笑顔が消え、驚きに見開かれた目がアレンの顔をまじまじと見た。周囲で聞き耳を立てていた冒険者たちの間にも、どよめきが広がる。

「え……?【熾天の剣】の……アレン様、でいらっしゃいますか?」

職員は信じられないといった様子で、登録情報を確認する。そこには確かに、アレンの名前が記されていた。

「は、はい……間違いありません。それで、あの……何があったのでしょうか?そのお怪我は……他のメンバーの方々はご無事なのでしょうか?」

職員の声には、純粋な心配の色が浮かんでいた。だが、その善意の眼差しが、今はアレンの心を抉る。追放された、などとどうして言えるだろうか。

「……一身上の都合です。他のメンバーは、無事です」

アレンは俯き、それだけを答えるのが精一杯だった。
その態度と、彼のあまりにも惨めな姿から、職員も何かを察したようだった。彼女の目に、憐れみの色が浮かぶ。

「……さようでございますか。承知いたしました。では、こちらの書類にご署名を」

事務的な手続きが進められる間、周囲の噂話はさらに熱を帯びていた。もはや、ひそひそ話ですらない。誰もが興味津々で、このSランクパーティの内情を探ろうとしていた。

「おい、マジかよ。【熾天の剣】を抜けるって」
「あのヒーラーだろ?ヒールしか使えないって有名な」
「ああ、聖女リリア様のお情けでパーティに入れてもらってたっていう……」
「ついに追い出されたんじゃねえか?そりゃあんな無能、Sランクパーティのお荷物でしかねえもんな」
「うわ、だっせえ。追放されてこのザマかよ。ウケる」

悪意に満ちた言葉。嘲笑。侮蔑。
それらが、四方八方から無数の針のように突き刺さってくる。アレンは唇を強く噛みしめ、血の味が滲むのも構わずに耐えた。ここで感情を爆発させれば、彼らの思う壺だ。自分はさらに惨めな笑い者になるだけだ。

「……アレン様、手続きは以上で完了となります」

憐れみの目を隠そうともしない職員から、脱退証明の書類を受け取る。薄っぺらいその紙切れが、ひどく重く感じられた。

「お疲れ様でした。あの、お体、お大事になさってください……」

職員の最後の言葉に、アレンは何も答えなかった。ただ、小さく頭を下げると、踵を返す。
背中には、まだ好奇と嘲りの視線が突き刺さっている。
彼は一歩一歩、ギルドの出口へと向かった。その短い距離が、永遠のように長く感じられた。

扉に手をかけ、外の冷たい夜気に触れた瞬間、アレンはほとんど駆け出すようにしてギルドを飛び出した。
人通りのない裏路地へ逃げ込み、汚れた壁に背中を預けて、その場にずるずると座り込む。

そこで、ようやく彼の堪忍袋の緒が切れた。

「う……うぅ……っ」

嗚咽が漏れる。止めようとしても、次から次へと込み上げてくる。
悔しい。悲しい。情けない。
様々な感情がごちゃ混ぜになって、熱い涙となって頬を伝った。
誰も見ていない暗闇の中で、アレンは子供のように声を殺して泣き続けた。
冒険者アレンが、完全に心を折られた夜だった。
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