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第14話 エルフの少女
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村の入り口で繰り広げられる攻防は、熾烈を極めていた。数に勝るオークの猛攻に、村人たちの築いた貧弱なバリケードは、もはや崩壊寸前だった。男たちの怒号と、オークの野蛮な雄叫び、そして金属と木がぶつかり合う鈍い音が、村中に響き渡っている。
アレンは教会の前で、次々と運び込まれてくる負傷者たちを必死に治療し続けていた。彼の治癒魔法はまさに奇跡的で、どれほど深い傷を負った者でも、数秒後には再び武器を手に前線へ復帰していく。アレン一人の存在が、この絶望的な戦況をかろうじて支えていた。
しかし、彼の顔色は次第に悪くなっていた。魔力はまだ余裕がある。だが、精神的な消耗が激しかった。目の前で仲間たちが傷つき、血を流す光景を見続けるのは、彼の心を容赦なくすり減らしていく。
(このままじゃ、ジリ貧だ……!)
いくら負傷者を治療しても、オークの数は減らない。村人たちの体力も、無限ではない。この戦いが長引けば、いずれ限界が訪れるのは目に見えていた。
その時だった。
村の脇にある森の中から、何かが飛び出してくるのが見えた。
それは、二人の大人と、一人の子供だった。尖った耳、しなやかな体躯。森の民、エルフだ。彼らはボロボロの衣服を身につけ、その顔には恐怖と疲労の色が濃く浮かんでいた。
「誰か!助けて!」
先頭を走っていた男性のエルフが、悲痛な叫び声を上げた。
彼らの背後から、森の木々を薙ぎ倒しながら、一体の巨大なオークが姿を現した。それは、これまで村を襲っていたオークたちよりも遥かに大きく、その肌は傷だらけで、片目には深い刀傷が走っている。手にした棍棒には、禍々しい文様が刻まれていた。
あれが、この群れのリーダー、オーク・ジェネラルだ。
「グルオオオオ!」
オーク・ジェネラルは咆哮を上げ、逃げるエルフたちに狙いを定めて棍棒を振りかぶった。
村人たちもその危機に気づき、何人かが助けようと駆け出す。だが、間に合わない。
「お父さん!お母さん!」
エルフの少女が、恐怖に引きつった声で叫んだ。
彼女の両親であろう男女のエルフは、咄嗟に少女を庇うようにして、その前に立ちはだかった。自分たちの命を盾にして、娘を守ろうとしたのだ。
その光景が、アレンの目に焼き付いた。
それは、ほんの一瞬の出来事だった。
振り下ろされた棍棒が、まず男性のエルフの頭を叩き潰した。次に、その勢いのまま、隣にいた女性エルフの体を薙ぎ払う。二人は悲鳴を上げる間もなく、くしゃりと音を立てて地面に崩れ落ちた。
血飛沫が舞い、まだ温かい肉片が、呆然と立ち尽くす少女の頬を汚した。
「――あ」
少女の口から、声にならない声が漏れた。
彼女の大きく見開かれた翠色の瞳が、すぐ目の前で肉塊と化した両親の姿を映している。信じられない、という表情。理解が、追いついていない。
村の誰もが、そのあまりにも惨たらしい光景に息を呑んだ。
アレンも、その場で凍りついていた。人の死。それも、子供の目の前で、両親が無残に殺される瞬間を、彼は初めて目の当たりにした。胃の腑から、冷たいものがせり上がってくる。
「……あ……ああ……」
少女の震える唇から、ようやく嗚咽が漏れ始めた。彼女は崩れ落ちた両親の亡骸に駆け寄ろうとするが、恐怖で足が動かない。ただ、その場にへたり込み、小さな体を震わせるだけだった。
「グルル……」
オーク・ジェネラルは、エルフの少女を一瞥すると、興味を失ったかのように鼻を鳴らした。そして、その血走った目を、村人たちの方へと向ける。邪魔者を排除し、いよいよ本格的な蹂躙を始めようとしていた。
バリケードを突破した他のオークたちも、リーダーの後に続こうと村の中へなだれ込んでくる。
もはや、これまでだった。村人たちの顔に、絶望の色が浮かぶ。
「いや……いやぁ……」
少女のしゃくり上げる声が、戦場の喧騒の中で、やけにクリアにアレンの耳に届いた。
その声が、アレンの中の何かを激しく揺さぶった。
(助けられなかった……)
目の前で、命が失われた。自分には、それを救う力があったかもしれないのに。もし、自分がもっと早く気づいていれば。もし、自分に攻撃魔法の一つでも使えれば。
後悔と無力感が、嵐のように彼の心を荒れ狂わせる。
(もう、誰も死なせたくない)
(あの子を、一人にしたくない)
強い思いが、彼の魂の奥底から湧き上がってきた。
それは、かつてパーティを追放された時の絶望とは全く違う、誰かを守りたいという、熱く、そして純粋な願いだった。
アレンの脳裏に、あのスキルが浮かび上がった。
【完全蘇生】
禁忌の力。人前で使えば、何が起こるか分からない。異端者として、化物として、この村からさえも追われることになるかもしれない。
だが。
アレンは、泣きじゃくるエルフの少女を見つめた。
彼女の孤独と絶望が、痛いほど伝わってくる。その姿が、かつて全てを失った自分と重なった。
(もし、あの時の俺に、こんな力があったなら)
もし、両親が死んだ時にこの力があったなら。
もし、パーティにいた頃にこの力があったなら。
もう、後悔はしたくない。
目の前で悲しみに暮れる、たった一人の少女。
彼女を救えるのは、世界中で自分しかいない。
アレンの中で、覚悟が決まった。
たとえ、この力が世界からどれだけ疎まれようとも。たとえ、自分が人ならざる者と蔑まれようとも。
今、この瞬間、この力を使うべきだ。
彼は、ゆっくりと立ち上がった。その瞳には、先程までの怯えや戸惑いはなく、鋼のような強い意志の光が宿っていた。
彼はオーク・ジェネラルと、泣き崩れる少女の間に割って入るように、一歩、また一歩と足を踏み出した。
村人たちが、アレンの常軌を逸した行動に息を呑む。
「アレン!?何を!?」
バルトロの制止の声が飛ぶ。
だが、アレンは止まらない。
彼は、自分の人生を懸けた、最大の賭けに出ようとしていた。
アレンは教会の前で、次々と運び込まれてくる負傷者たちを必死に治療し続けていた。彼の治癒魔法はまさに奇跡的で、どれほど深い傷を負った者でも、数秒後には再び武器を手に前線へ復帰していく。アレン一人の存在が、この絶望的な戦況をかろうじて支えていた。
しかし、彼の顔色は次第に悪くなっていた。魔力はまだ余裕がある。だが、精神的な消耗が激しかった。目の前で仲間たちが傷つき、血を流す光景を見続けるのは、彼の心を容赦なくすり減らしていく。
(このままじゃ、ジリ貧だ……!)
いくら負傷者を治療しても、オークの数は減らない。村人たちの体力も、無限ではない。この戦いが長引けば、いずれ限界が訪れるのは目に見えていた。
その時だった。
村の脇にある森の中から、何かが飛び出してくるのが見えた。
それは、二人の大人と、一人の子供だった。尖った耳、しなやかな体躯。森の民、エルフだ。彼らはボロボロの衣服を身につけ、その顔には恐怖と疲労の色が濃く浮かんでいた。
「誰か!助けて!」
先頭を走っていた男性のエルフが、悲痛な叫び声を上げた。
彼らの背後から、森の木々を薙ぎ倒しながら、一体の巨大なオークが姿を現した。それは、これまで村を襲っていたオークたちよりも遥かに大きく、その肌は傷だらけで、片目には深い刀傷が走っている。手にした棍棒には、禍々しい文様が刻まれていた。
あれが、この群れのリーダー、オーク・ジェネラルだ。
「グルオオオオ!」
オーク・ジェネラルは咆哮を上げ、逃げるエルフたちに狙いを定めて棍棒を振りかぶった。
村人たちもその危機に気づき、何人かが助けようと駆け出す。だが、間に合わない。
「お父さん!お母さん!」
エルフの少女が、恐怖に引きつった声で叫んだ。
彼女の両親であろう男女のエルフは、咄嗟に少女を庇うようにして、その前に立ちはだかった。自分たちの命を盾にして、娘を守ろうとしたのだ。
その光景が、アレンの目に焼き付いた。
それは、ほんの一瞬の出来事だった。
振り下ろされた棍棒が、まず男性のエルフの頭を叩き潰した。次に、その勢いのまま、隣にいた女性エルフの体を薙ぎ払う。二人は悲鳴を上げる間もなく、くしゃりと音を立てて地面に崩れ落ちた。
血飛沫が舞い、まだ温かい肉片が、呆然と立ち尽くす少女の頬を汚した。
「――あ」
少女の口から、声にならない声が漏れた。
彼女の大きく見開かれた翠色の瞳が、すぐ目の前で肉塊と化した両親の姿を映している。信じられない、という表情。理解が、追いついていない。
村の誰もが、そのあまりにも惨たらしい光景に息を呑んだ。
アレンも、その場で凍りついていた。人の死。それも、子供の目の前で、両親が無残に殺される瞬間を、彼は初めて目の当たりにした。胃の腑から、冷たいものがせり上がってくる。
「……あ……ああ……」
少女の震える唇から、ようやく嗚咽が漏れ始めた。彼女は崩れ落ちた両親の亡骸に駆け寄ろうとするが、恐怖で足が動かない。ただ、その場にへたり込み、小さな体を震わせるだけだった。
「グルル……」
オーク・ジェネラルは、エルフの少女を一瞥すると、興味を失ったかのように鼻を鳴らした。そして、その血走った目を、村人たちの方へと向ける。邪魔者を排除し、いよいよ本格的な蹂躙を始めようとしていた。
バリケードを突破した他のオークたちも、リーダーの後に続こうと村の中へなだれ込んでくる。
もはや、これまでだった。村人たちの顔に、絶望の色が浮かぶ。
「いや……いやぁ……」
少女のしゃくり上げる声が、戦場の喧騒の中で、やけにクリアにアレンの耳に届いた。
その声が、アレンの中の何かを激しく揺さぶった。
(助けられなかった……)
目の前で、命が失われた。自分には、それを救う力があったかもしれないのに。もし、自分がもっと早く気づいていれば。もし、自分に攻撃魔法の一つでも使えれば。
後悔と無力感が、嵐のように彼の心を荒れ狂わせる。
(もう、誰も死なせたくない)
(あの子を、一人にしたくない)
強い思いが、彼の魂の奥底から湧き上がってきた。
それは、かつてパーティを追放された時の絶望とは全く違う、誰かを守りたいという、熱く、そして純粋な願いだった。
アレンの脳裏に、あのスキルが浮かび上がった。
【完全蘇生】
禁忌の力。人前で使えば、何が起こるか分からない。異端者として、化物として、この村からさえも追われることになるかもしれない。
だが。
アレンは、泣きじゃくるエルフの少女を見つめた。
彼女の孤独と絶望が、痛いほど伝わってくる。その姿が、かつて全てを失った自分と重なった。
(もし、あの時の俺に、こんな力があったなら)
もし、両親が死んだ時にこの力があったなら。
もし、パーティにいた頃にこの力があったなら。
もう、後悔はしたくない。
目の前で悲しみに暮れる、たった一人の少女。
彼女を救えるのは、世界中で自分しかいない。
アレンの中で、覚悟が決まった。
たとえ、この力が世界からどれだけ疎まれようとも。たとえ、自分が人ならざる者と蔑まれようとも。
今、この瞬間、この力を使うべきだ。
彼は、ゆっくりと立ち上がった。その瞳には、先程までの怯えや戸惑いはなく、鋼のような強い意志の光が宿っていた。
彼はオーク・ジェネラルと、泣き崩れる少女の間に割って入るように、一歩、また一歩と足を踏み出した。
村人たちが、アレンの常軌を逸した行動に息を呑む。
「アレン!?何を!?」
バルトロの制止の声が飛ぶ。
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彼は、自分の人生を懸けた、最大の賭けに出ようとしていた。
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