Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第16話 懐く少女

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オークの群れが去った後の村には、静寂と混乱が入り混じっていた。村人たちは倒されたオークの亡骸を片付け、壊されたバリケードを修理し、負傷者の手当てに追われていた。しかし、彼らの動きはどこか現実感を失ったように緩慢で、その視線は頻繁に一人の青年に向けられていた。

アレン。
彼は教会の前の広場で、リーナと名乗ったエルフの少女、そして蘇生した彼女の両親と共にいた。リーナはアレンの服の裾を小さな手でぎゅっと握りしめ、まるで親鳥の後を追う雛鳥のように、片時もそばを離れようとしなかった。

「あの……本当に、なんとお礼を言ったらいいか……」

リーナの父親、エルドランが深々と頭を下げた。彼の顔には、死の淵から生還したことへの戸惑いと、アレンに対する計り知れない感謝、そしてわずかな畏怖が浮かんでいた。

「あなたは、私たちの命の恩人です。このご恩は、決して忘れません」

母親のシルヴィアも、涙を浮かべながら何度も頷いた。
アレンは、そんな彼らにどう言葉を返すべきか分からず、ただ静かに首を横に振った。

「俺は、すべきことをしただけです」

その言葉は、彼の本心だった。彼らを救ったのは善意からというよりは、むしろ後悔したくないという、ある種のわがままからだった。そして、禁忌の力を使ったことへの重圧が、彼の心をまだ支配していた。

村人たちが、遠巻きにアレンたちを見ている。その目には、もはや親しみはない。あるのは、人知を超えた存在に対する畏れと、神聖なものを見るかのような崇拝の色だった。彼はもう、ただの「アレン」ではなくなってしまったのだ。この村においてさえも。

「……アレン様」

村長のバルトロが、おずおずと近づいてきた。その呼び方に、アレンは眉をひそめる。

「バルトロさん、やめてください。俺は『様』と呼ばれるような人間じゃありません」

「しかし……我々は、神の奇跡を目の当たりにしたのです。あなたは、我々村の救い主だ」

バルトロはそう言うと、アレンの前で深く膝をつこうとした。アレンは慌ててそれを止める。

「お願いですから、普通に接してください。俺は、何も変わっていません」

その言葉に、バルトロは複雑な表情でアレンを見上げた。何も変わっていない、と本人は言う。だが、彼の内にある力が、そして彼が成した奇跡が、彼と他の人々との間に見えない壁を作ってしまったのは事実だった。

その時、アレンの服を握っていたリーナが、おずおずと顔を上げた。彼女の翠色の大きな瞳は、まだ涙で濡れていたが、そこには恐怖ではなく、純粋な信頼と好奇の光が宿っていた。

「……あの」

リーナは小さな声で、アレンに話しかけた。

「あなたは、だれ……?」

そのあまりにも素朴な問いに、アレンは少しだけ表情を和らげた。

「俺はアレン。ただのヒーラーだよ」

「ひーらー?」

少女は不思議そうに首を傾げた。彼女にとって、ヒーラーという言葉と、先程アレンが見せた圧倒的な力とが、うまく結びつかないようだった。

「アレンは、かみさま……?」

「違うよ」

アレンはっきりと否定すると、少女の目線に合わせて屈み込んだ。

「俺は、神様なんかじゃない。ただの、アレンだ」

彼はそう言って、リーナの頭を優しく撫でた。その手は温かく、リーナは心地よさそうに目を細めた。父親と母親を失った恐怖。そして、二人を取り戻した奇跡的な安堵。その激しい感情の揺さぶりの中で、リーナの心は、その中心にいたアレンという存在に強く惹きつけられていた。
この人は、自分たちを救ってくれた。この人のそばにいれば、もう怖いことは起きない。幼い少女の心は、そう直感的に理解していた。

「……アレン」

リーナは、アレンの名を確かめるようにもう一度呼んだ。そして、はにかむように微笑むと、こう続けた。

「アレン兄……」

その呼び方に、アレンは少し驚いたが、嫌な気はしなかった。むしろ、その純真な響きが、彼のささくれだった心を優しく癒していくようだった。

「ありがとう、アレン兄」

リーナはそう言うと、アレンの首に小さな腕を回し、ぎゅっと抱きついた。その体はまだ微かに震えていたが、そこには確かな温もりがあった。
アレンは戸惑いながらも、その小さな背中をそっと撫でてやった。

天涯孤独だったエルフの少女。
彼女もまた、アレンと同じように、孤独と絶望の淵に立たされていた。そんな彼女が、今、自分を信じ、頼ってくれている。
その事実が、アレンの胸に温かい光を灯した。

この子を守りたい。
この村を、この穏やかな日々を守りたい。
そのために、この力があるのなら。

アレンの中で、新たな決意が芽生え始めていた。
もう、誰かに利用されるためでも、蔑まれるためでもない。大切なものを、自分の意志で守るために、この力を使おう。

その日から、リーナは宣言通り、アレンのそばを片時も離れなくなった。アレンが畑仕事を手伝えば、その傍らで花を摘み、アレンが薪割りをすれば、小さな枝を集めて手伝おうとする。食事の時も、寝る時も、いつもアレンの隣が彼女の定位置になった。
村人たちも、そんな二人の姿を微笑ましく見守るようになっていた。アレンへの畏敬の念は変わらないものの、無邪気なリーナが間に入ることで、以前のようなぎこちなさは少しずつ薄れていった。

リーナの両親、エルドランとシルヴィアも、オークの襲撃で森の住処を失ったため、しばらくこの村に滞在することになった。彼らはアレンに深い恩義を感じており、何かとアレンの世話を焼こうとした。

こうして、アレンの周りには、いつしか新しい絆が芽生え始めていた。
それは、かつてのパーティのような、打算や力関係で結ばれた偽りのものではない。心と心で結ばれた、温かく、そして確かな絆だった。
アレンは、追放されて初めて、本当の意味での『仲間』というものの温かさに触れたのかもしれない。
彼の新しい人生が、静かに、しかし確かに始まろうとしていた。
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