Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第38話 潜入、貴族の屋敷

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その夜、月明かりがアークライトの街を青白く照らし出す頃、【黎明の翼】の三人は行動を開始した。目的地は、街の貴族街の一角にそびえる、バルドル公爵家の遠縁が所有するという壮麗な屋敷だ。昼間は優雅な佇まいを見せるその屋敷も、夜の闇の中では不気味な沈黙に包まれ、まるで巨大な獣が息を潜めているかのようだった。

「警備は、思った通り厳重だな」
屋敷を見下ろせる近くの建物の屋根の上で、ソフィアが低い声で呟いた。
高い塀の上には忍び返しが設置され、庭の要所要所には屈強な警備兵が巡回している。その動きには一切の無駄がなく、バルドルの私兵、あるいは『蛇の手』から派遣された手練れであることは明らかだった。

「正面から行けば、門を突破するだけで一苦労だろう」
ソフィアの言葉に、カイは静かに首を振った。

「正面から行く必要はない」
彼はそう言うと、まるで猫のようにしなやかな動きで屋根の縁まで進み、闇に包まれた屋敷を指さした。
「警備の巡回ルートには、わずかな隙間がある。北側の塀、あの大きな樫の木の影になる一角だ。そこなら、数秒間だけ誰の視界からも外れる」

彼の獣のような鋭い目は、人間には感知できない警備の死角を正確に見抜いていた。
「俺が先に侵入し、内部の警備を無力化する。あんたたちは、俺の合図があるまでここで待機しろ」
カイはそう言い残すと、返事も待たずに闇の中へと跳躍した。彼の体は夜の闇に完全に溶け込み、あっという間にその姿は見えなくなった。

「……相変わらず、人間離れしたやつだ」
ソフィアは、呆れたようにため息をついた。
アレンは、カイが消えた闇を見つめながら、静かに言った。
「信じて待とう。それが、俺たちの役割だ」

待つ時間は、ひどく長く感じられた。屋敷の中からは、何の物音も聞こえてこない。カイが失敗したのではないか、という不安がソフィアの心をよぎる。
しかし、十分ほど経った頃、屋敷の北側の塀の影から、フクロウの鳴き真似のような合図が、微かに二度聞こえてきた。
侵入成功の合図だ。

アレンとソフィアは、アイコンタクトを交わすと、音もなく屋根から飛び降り、カイが示した樫の木の影へと向かった。そこには、カイが用意したのだろう、塀を越えるための鉤縄が垂れ下がっていた。
二人は手際よく塀を越え、屋敷の庭へと侵入する。庭の中は、不気味なほど静まり返っていた。本来なら巡回しているはずの警備兵の姿は、どこにもない。カイが、すでに全員を無力化した後らしかった。

三人は、屋敷の裏手で合流した。
「警備は全て眠らせた。だが、屋敷の中にもまだ何人かいるはずだ。俺は書斎を探す。バルドルの秘密は、そこにある可能性が高い」
カイはそう言うと、再び闇に紛れて先行していく。

「さて、俺たちはどうするんだ?」
ソフィアがアレンに尋ねた。
「俺たちは、陽動だ。奴らの注意を引きつけ、カイが動きやすいようにする。ただし、派手にやりすぎるな。目的はあくまで、時間稼ぎだ」

アレンとソフィアは、屋敷の勝手口から内部へと侵入した。中は大理石の床が広がり、壁には高価な絵画が飾られている。だが、その豪華さとは裏腹に、どこか血生臭い匂いが漂っていた。

二人が廊下を進んでいると、前方の角から、鎧を着込んだ二人の兵士が現れた。
「何者だ!」
兵士たちは、侵入者である二人に気づき、即座に剣を抜いた。
ソフィアは、待ってましたとばかりに長剣を構える。
「アレン、援護を頼む!」
「任せろ!」

ソフィアが、弾丸のように飛び出した。彼女の剣は、アレンの支援を受けていないにも関わらず、凄まじい切れ味を見せる。兵士二人は、彼女の圧倒的な剣技の前に、なすすべもなく打ち倒された。

剣戟の音を聞きつけ、屋敷の奥からさらに多くの兵士たちが駆けつけてくる。
「侵入者だ!囲め!」
ソフィアは、背中をアレンに預ける形で立ち、四方から迫る敵を睨みつけた。
「ちょうどいい。まとめてかかってこい!」

壮絶な戦いが始まった。ソフィアは、まるで舞うように敵の剣をいなし、的確な一撃で相手の戦闘能力を奪っていく。アレンは、その後方で冷静に戦況を分析し、ソフィアが負った僅かな傷を瞬時に癒し、時には「右!」「後ろだ!」と的確な指示を送った。
二人の連携は、もはや熟練のパーティのそれだった。

一方、その頃。
カイは、誰にも気づかれることなく、屋敷の二階にある書斎へとたどり着いていた。
書斎の中は、高価な調度品で満たされているが、人の気配はない。彼は、獣のような鋭い感覚で、部屋の中に隠された仕掛けを探し始めた。
壁の本棚。暖炉の奥。デスクの裏側。
そして、彼はついに見つけた。一見、ただの装飾にしか見えない壁の紋章。そこに、わずかな魔力の流れを感じ取ったのだ。

カイが紋章に触れ、特定の順序で圧力をかけると、ゴゴゴ、と重い音を立てて、本棚が横にスライドした。
その奥には、地下へと続く、隠された階段が現れた。
階段の下からは、ひやりとした空気と共に、鉄と血、そして、獣の臭いが混じり合った、むせ返るような匂いが漂ってくる。

(……見つけた)

カイの金色の瞳が、鋭い光を放った。
バルドルの悪事の証拠は、この下にある。
彼は、階下で繰り広げられているであろう仲間たちの戦いを信じ、音もなく、暗い地下室へと続く階段を降りていった。

その頃、アレンとソフィアは、押し寄せる兵士たちを相手に、いまだ優勢を保っていた。
しかし、アレンは内心で焦りを感じ始めていた。敵の数が、予想以上に多い。このままでは、カイが証拠を見つける前に、こちらが消耗しきってしまう。

(もう少し、時間を稼がなければ……!)

アレンは、何か敵の意表を突く手はないかと思考を巡らせた。
そして、彼の脳裏に、故郷の村でリーナが見せてくれた、ある魔法が浮かび上がった。
エルフの少女が得意とする、幻を見せる魔法。その原理を、自分なりに応用できないか。

アレンは、ソフィアに叫んだ。
「ソフィア!一度、俺の近くまで下がれ!」
ソフィアは、アレンの意図を測りかねながらも、彼の指示に従い、敵の包囲を強引に突破してアレンの元へと戻った。

アレンは、迫りくる兵士たちに向かって、両手を突き出した。
彼の掌から放たれたのは、治癒の光ではなかった。
それは、虹色にきらめく、幻惑の光だった。

「《ミスディレクション・フィールド》!」

光は、霧のように広間全体に広がり、兵士たちの視覚と聴覚を狂わせ始めた。
「な、なんだ!?」
「敵が……二人になったぞ!いや、三人だ!」
「ソフィアの声が、右から聞こえる!?」

兵士たちは、存在しないアレンたちの幻影に惑わされ、互いに斬りかかり始めた。
それは、リーナの古代魔法と、アレンの回復魔法の応用知識が融合して生まれた、全く新しい支援魔法だった。
アレンの才能は、もはやヒーラーという枠を、完全に逸脱し始めていた。
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