Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ

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第70話 古の災厄竜

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古の災厄竜が、ゆっくりと瞼を開いた。その瞳は溶岩そのものを固めたかのように赤く輝き、この世の全ての理を焼き尽くすかのような絶対的な威圧感を放っていた。千年の眠りから覚めた竜は、己の寝床に侵入した二匹の矮小な虫けらを、無感情に見下した。

「……ひっ」

ジェイクの喉から、引きつったような悲鳴が漏れた。目の前の存在が、自分たちの理解や常識を遥かに超越したものであることを本能が告げていた。足が震え、腰が抜けそうになるのを必死で堪える。
リリアもまた、その圧倒的な存在を前にして完全に思考を停止していた。彼女の瞳はただ恐怖に染まり、その場にへたり込んだまま動くことさえできない。

竜はまだ動かない。ただ、その巨大な頭をもたげ、鼻から硫黄の匂いがする熱い息を、ふぅ、と吐き出した。それだけで洞窟内の気温が数度上がり、ジェイクの頬を熱風が撫でた。

(……逃げろ)

ジェイクの頭の中を、その一言が支配した。
宝? 名誉? そんなものはどうでもいい。今はただ、この化け物の前から一秒でも早く逃げ出さなければならない。

彼は、へたり込んでいるリリアのことなど、もはや頭になかった。音を立てないように、ゆっくりと、一歩、また一歩と後ずさりを始めた。
竜はまだ彼に関心を示していない。眠りを妨げられたことへの不快感はあるようだが、積極的に攻撃してくる気配はなかった。
今なら、逃げられるかもしれない。

ジェイクはそろりそろりと、開いたままの石の扉へと向かう。
あと、数メートル。
あと、一歩。
彼が扉の外へと片足をかけた、その瞬間だった。

「―――どこへ、行く?」

竜の声がした。
それは口から発せられたものではない。地響きのような重く荘厳な声が、ジェイクの脳内に直接響き渡ったのだ。念話(テレパシー)。古の竜種だけが持つという、伝説の能力。

ジェイクの体は金縛りにあったかのように、完全に硬直した。
振り返ることができない。
だが、背後から感じるプレッシャーは先程とは比較にならないほど強大になっていた。
竜が本気になったのだ。

「我が眠りを妨げし、矮小なる者よ」
声は続いた。
「千年の間、我はここで世界の均衡を見守ってきた。汝らは、開けてはならぬ扉を開けた。その罪は、万死に値する」

「……あ……あ……」
ジェイクは意味のない喘ぎ声を漏らすだけだった。恐怖が、彼の声帯を麻痺させていた。

「だが、我は慈悲深い。今、この場より立ち去り、二度と我の前に姿を現さぬと誓うならば、命だけは見逃してやろう。ただし……」

竜の声に、わずかな愉悦の色が混じった。
「……そこにいる、もう一匹の虫けらを、ここに置いていくのならばな」

その言葉に、ジェイクはハッとした。
竜はリリアを、生贄として要求しているのだ。
彼女をここに残していけば、自分だけは助かる。

ジェイクの心の中で、わずかに残っていた人間性が最後の悲鳴を上げた。
(駄目だ……! リリアを見捨てるなんて……!)
だが、その良心の声は死への圧倒的な恐怖の前には、あまりにも無力だった。

(……仕方ない)
(俺が生き残るためには……)
(あいつはもう壊れかけの人形だ。ここに置いていっても、同じことだ)

彼は自分に言い訳を繰り返した。
そして彼は、人生で最も卑劣で、そして愚かな選択をした。

「……わ、分かりました……」
ジェイクは、震える声で竜の提案を受け入れた。
「彼女を、ここに……置いていきます……。だから、俺だけは……!」

「よかろう」
竜の声に、満足げな響きが混じる。
ジェイクにかかっていた金縛りが、ふっと解けた。

彼は一度も後ろを振り返らなかった。
涙目で自分を見つめるリリアの顔を見ることが、できなかったのだ。
彼は転がるようにして扉の外へと逃げ出し、そのまま暗い通路を全力で駆け抜けていった。

一人、最深部に残されたリリア。
彼女は自分が見捨てられたという事実を、まだ完全には理解できていなかった。
ただ、遠ざかっていくジェイクの足音を虚ろな目で聞いているだけだった。

竜は、その巨大な体でゆっくりとリリアに近づいてきた。
その鼻先が彼女の頬に触れる。熱い。まるで溶けた鉄に触れているかのようだ。

「さて、小さき聖女よ」
竜の声がリリアの頭の中に響いた。
「汝には、我が千年の退屈を、慰めてもらうとしようか」

その声には、冷たい残酷さと捕食者の持つ絶対的な愉悦が満ちていた。
リリアの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
それは仲間への絶望か、あるいは自分自身の運命への諦観か。

彼女は全てを失った。
仲間も、希望も、そして生きる意味さえも。
ただ伝説の獣の、気まぐれな玩具として、その短い生涯を終えようとしていた。
彼女の悲鳴が響き渡ることは、もうなかった。
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