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第76話 絶望の生還
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リリアが次に目を覚ました時、最初に感じたのは清潔なシーツの感触と消毒薬の匂いだった。薄暗いダンジョンの底ではない。柔らかなベッドの上。窓の外からは鳥のさえずりと、街の喧騒が聞こえてくる。
(……私は……)
朦朧とする頭で、ゆっくりと体を起こす。全身が鉛のように重く、ひどい倦怠感があった。だが、体に負っていたはずの傷は綺麗に治癒されているようだった。
「……お目覚めですか、リリア様」
穏やかな声に振り返ると、そこに立っていたのは白い神官服に身を包んだ初老の男性だった。アークライトの神殿で最も高位の神官長だ。
「ここはアークライトの神殿にある特別治療室です。あなたはダンジョンの入り口で倒れているところを、ギルドの調査隊に発見されたのですよ」
神官長は優しい声で語りかけた。
「三日三晩、眠り続けておいででした。ですが、もうご安心なさい。あなたの命に別状はありません」
その言葉は、普通なら安堵をもたらすはずだった。
だが、リリアの心には何の感情も湧き上がってこなかった。
命に、別状はない。
その事実が、彼女にとっては最も残酷な宣告に聞こえた。
「……他の皆は……?」
彼女はか細い、掠れた声で尋ねた。
ガリウス様は? ティナは? ジェイクさんは?
心のどこかで、まだ奇跡を信じていたかった。自分が見たのは、ひどい悪夢だったのだと。
神官長は悲痛な面持ちで、ゆっくりと首を横に振った。
「……残念ながら。あなた以外の三名は遺体となって発見されました。ギルドの公式発表では、【熾天の剣】はダンジョン攻略に失敗し、全滅、と……」
その言葉が、リリアの中に残っていた最後の淡い希望を無慈悲に打ち砕いた。
やはり、夢ではなかった。
仲間は全員死んだ。
自分だけが生き残ってしまった。
「……そうですか……」
リリアはそれだけを呟くと、再びベッドに横たわり壁の方へと寝返りを打った。
神官長が何か慰めの言葉をかけようとしたが、彼女の背中が明確な拒絶を示していた。
彼は深いため息をつくと、静かに部屋を出ていった。
一人残された部屋で、リリアは目を固く閉じた。
だが、瞼を閉じればあの地獄のような光景が鮮明に蘇ってくる。
仲間に見捨てられ、杭に貫かれるガリウス。
自分を庇い、瓦礫の下敷きになったティナ。
狂気に満ちた目で仲間を殺したガリウス。
憎しみに燃え、仲間を裏切ったジェイク。
(やめて……)
彼女は頭を抱えた。
記憶が彼女を責め立てる。
なぜ、自分はもっと早く彼らを止められなかったのか。
なぜ、自分はアレンが追放される時、何も言えなかったのか。
もし、あの時自分が勇気を出していれば。
全ては、自分の弱さが招いた悲劇なのではないか。
罪悪感が毒のように彼女の心を蝕んでいく。
彼女はもう何も考えたくなかった。
ただ眠りたかった。永遠に覚めることのない、深い眠りに。
だが、眠りは彼女に安らぎを与えてはくれなかった。毎晩のように仲間たちが無残に死んでいく悪夢にうなされるだけだった。
ギルドマスターのダリウスが一度だけ見舞いに来た。
彼はベッドの脇に立ち、眠るリリアの顔を複雑な表情で見下ろしていた。
「……すまんな。俺がもっと早く、あいつらを止めていれば……」
彼はそう呟くと、一輪の花をサイドテーブルに置き、静かに去っていった。
リリアの生還は街中に様々な憶測を呼んだ。
『悲劇の聖女』として彼女に同情する者。
『仲間を見捨てて一人だけ逃げ帰った卑怯者』と罵る者。
だが、そんな外野の声はもはや彼女の耳には届いていなかった。
彼女はただ、空っぽの抜け殻のようにベッドの上で日々を過ごしていた。
食事もほとんど喉を通らない。
神官たちが必死に彼女を励まそうとしたが、彼女の心は固く閉ざされたままだった。
絶望の生還。
それは彼女にとって、死ぬよりも辛い無限の地獄の始まりだった。
光を失った聖女は、ただ暗闇の中で自分の罪と向き合い続けるしかなかった。
救いのない日々が、ただ淡々と過ぎていくだけだった。
(……私は……)
朦朧とする頭で、ゆっくりと体を起こす。全身が鉛のように重く、ひどい倦怠感があった。だが、体に負っていたはずの傷は綺麗に治癒されているようだった。
「……お目覚めですか、リリア様」
穏やかな声に振り返ると、そこに立っていたのは白い神官服に身を包んだ初老の男性だった。アークライトの神殿で最も高位の神官長だ。
「ここはアークライトの神殿にある特別治療室です。あなたはダンジョンの入り口で倒れているところを、ギルドの調査隊に発見されたのですよ」
神官長は優しい声で語りかけた。
「三日三晩、眠り続けておいででした。ですが、もうご安心なさい。あなたの命に別状はありません」
その言葉は、普通なら安堵をもたらすはずだった。
だが、リリアの心には何の感情も湧き上がってこなかった。
命に、別状はない。
その事実が、彼女にとっては最も残酷な宣告に聞こえた。
「……他の皆は……?」
彼女はか細い、掠れた声で尋ねた。
ガリウス様は? ティナは? ジェイクさんは?
心のどこかで、まだ奇跡を信じていたかった。自分が見たのは、ひどい悪夢だったのだと。
神官長は悲痛な面持ちで、ゆっくりと首を横に振った。
「……残念ながら。あなた以外の三名は遺体となって発見されました。ギルドの公式発表では、【熾天の剣】はダンジョン攻略に失敗し、全滅、と……」
その言葉が、リリアの中に残っていた最後の淡い希望を無慈悲に打ち砕いた。
やはり、夢ではなかった。
仲間は全員死んだ。
自分だけが生き残ってしまった。
「……そうですか……」
リリアはそれだけを呟くと、再びベッドに横たわり壁の方へと寝返りを打った。
神官長が何か慰めの言葉をかけようとしたが、彼女の背中が明確な拒絶を示していた。
彼は深いため息をつくと、静かに部屋を出ていった。
一人残された部屋で、リリアは目を固く閉じた。
だが、瞼を閉じればあの地獄のような光景が鮮明に蘇ってくる。
仲間に見捨てられ、杭に貫かれるガリウス。
自分を庇い、瓦礫の下敷きになったティナ。
狂気に満ちた目で仲間を殺したガリウス。
憎しみに燃え、仲間を裏切ったジェイク。
(やめて……)
彼女は頭を抱えた。
記憶が彼女を責め立てる。
なぜ、自分はもっと早く彼らを止められなかったのか。
なぜ、自分はアレンが追放される時、何も言えなかったのか。
もし、あの時自分が勇気を出していれば。
全ては、自分の弱さが招いた悲劇なのではないか。
罪悪感が毒のように彼女の心を蝕んでいく。
彼女はもう何も考えたくなかった。
ただ眠りたかった。永遠に覚めることのない、深い眠りに。
だが、眠りは彼女に安らぎを与えてはくれなかった。毎晩のように仲間たちが無残に死んでいく悪夢にうなされるだけだった。
ギルドマスターのダリウスが一度だけ見舞いに来た。
彼はベッドの脇に立ち、眠るリリアの顔を複雑な表情で見下ろしていた。
「……すまんな。俺がもっと早く、あいつらを止めていれば……」
彼はそう呟くと、一輪の花をサイドテーブルに置き、静かに去っていった。
リリアの生還は街中に様々な憶測を呼んだ。
『悲劇の聖女』として彼女に同情する者。
『仲間を見捨てて一人だけ逃げ帰った卑怯者』と罵る者。
だが、そんな外野の声はもはや彼女の耳には届いていなかった。
彼女はただ、空っぽの抜け殻のようにベッドの上で日々を過ごしていた。
食事もほとんど喉を通らない。
神官たちが必死に彼女を励まそうとしたが、彼女の心は固く閉ざされたままだった。
絶望の生還。
それは彼女にとって、死ぬよりも辛い無限の地獄の始まりだった。
光を失った聖女は、ただ暗闇の中で自分の罪と向き合い続けるしかなかった。
救いのない日々が、ただ淡々と過ぎていくだけだった。
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