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第77話 失われた全て
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リリアが神殿で意識を取り戻してから、一週間が過ぎた。彼女の体の傷は神官たちの手厚い看護によって癒えていったが、心の傷はむしろ日を追うごとに深くなるばかりだった。
その日、アークライトの冒険者ギルドの掲示板に、一枚の公式な告知が貼り出された。それは、多くの冒険者たちが固唾を飲んで見守る中で、ギルドの職員によって掲示された。
『Sランクパーティ【熾天の剣】解散に関する公式通知』
告知には、淡々とした事務的な言葉で、ダンジョン《奈落の口》での悲劇とそれに伴うパーティの解散が記されていた。
ガリウス、ティナ、ジェイクの三名は、ダンジョン内にて死亡。
唯一の生存者である聖女リリアは、心身ともに深い傷を負い、無期限の活動休止。
これをもって、【熾天の剣】は本日付で正式に解散とする――。
大陸最強と謳われ、数多の伝説を打ち立ててきたパーティの、あまりにもあっけなく、そして悲劇的な結末。
掲示板を見つめる冒険者たちの間には、重い沈黙が流れた。昨日まで彼らを嘲笑していた者たちも、この厳粛な事実の前では言葉を失っていた。
一つの時代が終わったのだ。
その知らせは、療養中のリリアの元へも神官長によって届けられた。
神官長は、これ以上彼女を傷つけたくはないという思いから、言葉を選びながらゆっくりと告げた。
「……リリア様。ギルドが、正式に【熾天の剣】の解散を……」
だが、リリアの反応は彼の予想とは違っていた。
彼女は、その言葉を聞いても涙を見せることも、取り乱すこともなかった。
ただ、虚ろな目で窓の外を眺めながら、ぽつりと呟いた。
「……そうですか」
その声には、何の感情もこもっていなかった。
まるで他人事のようだった。
彼女は、もう何も感じなくなってしまっていたのだ。
仲間を失った。
自分が帰るべき場所だったパーティを失った。
聖女としての、冒険者としての、自分の存在意義そのものだったものを全て失った。
そのあまりにも巨大な喪失感が、彼女の感情を麻痺させていた。
悲しいという感覚さえない。
ただ、胸にぽっかりと巨大な空洞が開いているだけ。冷たい風が、その空洞をひゅうひゅうと吹き抜けていく。
「リリア様、お気を確かに……」
神官長が心配そうに声をかける。
だが、リリアはもう何も聞いていなかった。
彼女の記憶が過去へと飛んでいた。
まだ皆が生きていた頃の、輝かしい日々。
ガリウスの傲慢だが頼りになる背中。
ティナの皮肉屋だが本当は優しい笑顔。
ジェイクの悪態をつきながらも、いつも危険な役目を引き受けてくれた姿。
そして、いつも輪の外で、それでも必死に皆のために尽くしてくれていたアレンの、少し困ったような優しい微笑み。
それらは、もうどこにもない。
二度と戻らない。
全て失われてしまった。
(……私のせいだ)
再び、その思いが彼女の心を支配する。
もし、自分がもっと強かったなら。
もし、自分が仲間たちの心の亀裂にもっと早く気づけていたなら。
もし、自分がアレンを繋ぎ止めることができていたなら。
(……アレン)
その名を思い浮かべた瞬間、彼女の麻痺していた心に、ほんのわずかな針で刺すような痛みが走った。
彼だけが生きている。
自分たちが失った栄光の、さらにその先で彼は今も輝き続けている。
なぜ、こんなことになってしまったのだろう。
自分と彼の運命は、どこで、どうして、こんなにも違ってしまったのだろう。
リリアは、ベッドからゆっくりと体を起こした。
そして、おぼつかない足取りで、部屋の隅に置かれていた自分の荷物の元へと向かった。そこには、ダンジョンから回収された彼女のわずかな私物が入っていた。
彼女は、その中から一枚の古びた新聞の切り抜きを取り出した。
それは、彼女が倒れる前に偶然手に入れたものだった。
そこには、【黎明の翼】が王都のキメラを討伐したという記事が大きく掲載されていた。
そして、その中央には少し困ったように、しかし穏やかに微笑むアレンの写真が載っていた。
リリアは、その写真を震える指でそっと撫でた。
あの頃と何も変わらない、優しい笑顔。
だが、その瞳の奥に宿る光は、彼女が知っていた頃の気弱なヒーラーのものではなかった。
それは、幾多の死線を乗り越え、多くのものを背負う覚悟を決めた英雄の光だった。
彼女は、その写真を見つめながら、ただ静かに涙を流した。
感情を失っていたはずの彼女の瞳から、熱い雫が次から次へと溢れ出してくる。
それは、失われた全てを悼む悲しみの涙だった。
【熾天の剣】の解散。
それはリリアにとって、過去との完全な決別を意味していた。
彼女は全てを失った。
そして、その空っぽになった心に残ったのは、かつて自分が見捨ててしまった一人のヒーラーへの、消えることのない想いだけだった。
その日、アークライトの冒険者ギルドの掲示板に、一枚の公式な告知が貼り出された。それは、多くの冒険者たちが固唾を飲んで見守る中で、ギルドの職員によって掲示された。
『Sランクパーティ【熾天の剣】解散に関する公式通知』
告知には、淡々とした事務的な言葉で、ダンジョン《奈落の口》での悲劇とそれに伴うパーティの解散が記されていた。
ガリウス、ティナ、ジェイクの三名は、ダンジョン内にて死亡。
唯一の生存者である聖女リリアは、心身ともに深い傷を負い、無期限の活動休止。
これをもって、【熾天の剣】は本日付で正式に解散とする――。
大陸最強と謳われ、数多の伝説を打ち立ててきたパーティの、あまりにもあっけなく、そして悲劇的な結末。
掲示板を見つめる冒険者たちの間には、重い沈黙が流れた。昨日まで彼らを嘲笑していた者たちも、この厳粛な事実の前では言葉を失っていた。
一つの時代が終わったのだ。
その知らせは、療養中のリリアの元へも神官長によって届けられた。
神官長は、これ以上彼女を傷つけたくはないという思いから、言葉を選びながらゆっくりと告げた。
「……リリア様。ギルドが、正式に【熾天の剣】の解散を……」
だが、リリアの反応は彼の予想とは違っていた。
彼女は、その言葉を聞いても涙を見せることも、取り乱すこともなかった。
ただ、虚ろな目で窓の外を眺めながら、ぽつりと呟いた。
「……そうですか」
その声には、何の感情もこもっていなかった。
まるで他人事のようだった。
彼女は、もう何も感じなくなってしまっていたのだ。
仲間を失った。
自分が帰るべき場所だったパーティを失った。
聖女としての、冒険者としての、自分の存在意義そのものだったものを全て失った。
そのあまりにも巨大な喪失感が、彼女の感情を麻痺させていた。
悲しいという感覚さえない。
ただ、胸にぽっかりと巨大な空洞が開いているだけ。冷たい風が、その空洞をひゅうひゅうと吹き抜けていく。
「リリア様、お気を確かに……」
神官長が心配そうに声をかける。
だが、リリアはもう何も聞いていなかった。
彼女の記憶が過去へと飛んでいた。
まだ皆が生きていた頃の、輝かしい日々。
ガリウスの傲慢だが頼りになる背中。
ティナの皮肉屋だが本当は優しい笑顔。
ジェイクの悪態をつきながらも、いつも危険な役目を引き受けてくれた姿。
そして、いつも輪の外で、それでも必死に皆のために尽くしてくれていたアレンの、少し困ったような優しい微笑み。
それらは、もうどこにもない。
二度と戻らない。
全て失われてしまった。
(……私のせいだ)
再び、その思いが彼女の心を支配する。
もし、自分がもっと強かったなら。
もし、自分が仲間たちの心の亀裂にもっと早く気づけていたなら。
もし、自分がアレンを繋ぎ止めることができていたなら。
(……アレン)
その名を思い浮かべた瞬間、彼女の麻痺していた心に、ほんのわずかな針で刺すような痛みが走った。
彼だけが生きている。
自分たちが失った栄光の、さらにその先で彼は今も輝き続けている。
なぜ、こんなことになってしまったのだろう。
自分と彼の運命は、どこで、どうして、こんなにも違ってしまったのだろう。
リリアは、ベッドからゆっくりと体を起こした。
そして、おぼつかない足取りで、部屋の隅に置かれていた自分の荷物の元へと向かった。そこには、ダンジョンから回収された彼女のわずかな私物が入っていた。
彼女は、その中から一枚の古びた新聞の切り抜きを取り出した。
それは、彼女が倒れる前に偶然手に入れたものだった。
そこには、【黎明の翼】が王都のキメラを討伐したという記事が大きく掲載されていた。
そして、その中央には少し困ったように、しかし穏やかに微笑むアレンの写真が載っていた。
リリアは、その写真を震える指でそっと撫でた。
あの頃と何も変わらない、優しい笑顔。
だが、その瞳の奥に宿る光は、彼女が知っていた頃の気弱なヒーラーのものではなかった。
それは、幾多の死線を乗り越え、多くのものを背負う覚悟を決めた英雄の光だった。
彼女は、その写真を見つめながら、ただ静かに涙を流した。
感情を失っていたはずの彼女の瞳から、熱い雫が次から次へと溢れ出してくる。
それは、失われた全てを悼む悲しみの涙だった。
【熾天の剣】の解散。
それはリリアにとって、過去との完全な決別を意味していた。
彼女は全てを失った。
そして、その空っぽになった心に残ったのは、かつて自分が見捨ててしまった一人のヒーラーへの、消えることのない想いだけだった。
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