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第79話 贖罪の旅路
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アークライトの街を出てから、リリアの旅は困難を極めた。彼女の体力はまだ完全には回復しておらず、数時間歩くだけで息が切れ目眩がした。聖女としてこれまでろくに一人旅などしたこともない。野営のやり方も、魔物からの身の隠し方も、何も知らなかった。
夜は洞穴や大木の陰で、寒さと恐怖に震えながら過ごした。昼間は街道をゆく商人や旅人に紛れ、ひたすらに西を目指して歩いた。
彼女の美しい顔は旅の汚れと疲労で見る影もなく、その姿は落ちぶれた巡礼者のようだった。
道中、様々な街や村に立ち寄った。そして、その先々で彼女はアレンと【黎明の翼】の噂を耳にすることになった。
とある宿場町で。
酒場の隅でスープを啜っていると、隣のテーブルに座った商人たちが楽しそうに話していた。
「いやはや、驚きましたな。【黎明の翼】御一行が我々のキャラバンを盗賊団から救ってくださったのですよ!」
「おお、それは本当かね!あの英雄様たちに!」
「ええ!リーダーのアレン様は我々が負った傷を瞬く間に癒してくださいました。まるで本物の聖者様のようでしたよ。報酬もほとんど受け取られなかった。『困っている人を助けるのは当たり前のことですから』と、穏やかに笑っておられた……」
リリアは、その話を聞きながら胸が締め付けられるような思いだった。
アレンは昔と少しも変わっていない。困っている人を見過ごせない、あの不器-用な優しさ。
それに比べて自分は……。
彼女はスープの味がしなくなった。
とある農村で。
井戸で水を分けてもらっていると、村の老婆が皺くちゃの顔で幸せそうに語ってくれた。
「この村はね、去年ひどい日照りに見舞われて作物が全滅しかけたんじゃよ。じゃが、どこからともなく現れたヒーラー様が、たった一人でこの枯れた大地に恵みの雨を降らせてくださったんじゃ」
「そのヒー-ラー様というのが……」
「そうじゃよ。『辺境の聖者』、アレン様じゃ。あの方はこの村の救い主じゃよ。村の子供たちにも優しく魔法を見せてくださってな。特にリーナちゃんというエルフの女の子には、まるで本当のお兄さんのようじゃった……」
リリアはリーナという名前に胸騒ぎを覚えた。
アレンの周りには、もう新しい彼を心から慕ってくれる人々がいる。
彼が守るべき新しい家族がいる。
その中に自分の居場所はもうないのかもしれない。
旅を続けるうちに、リリアは理解していった。
アレンと【黎明の翼】が人々からどれだけ愛され、尊敬されているかを。
彼らはただ強いだけの冒険者ではない。その強さを常に弱き者を守るために使っている。彼らが通った後には、必ず感謝と笑顔の花が咲くのだ。
それはかつて自分たち【熾天の剣】が追い求めていた、英雄の姿そのものだった。
だが、自分たちはいつしかその道を外れてしまった。名声に溺れ、力を過信し、弱き者を顧みなくなった。
そして、その最も純粋な心を持っていたアレンを、自分たちの手で切り捨ててしまった。
その罪の重さを、彼女は旅の先々でまざまざと見せつけられた。
それは彼女にとって、まさに贖罪の旅路だった。
道端の石に蹴つまづき、泥水の中に倒れ込む。膝が擦りむけ、血が滲んだ。
かつてならすぐにヒールで治しただろう傷。だが、今の彼女にはその力さえも使う気力が湧かなかった。
痛みが自分への罰のように感じられた。
一月以上が過ぎた。
彼女は心身ともに限界を迎えながらも、ついに目的の地、クレリア村へと続く道にたどり着いた。
そこは噂に聞いていた通りの、のどかで平和な村だった。
黄金色の麦畑が風に揺れ、子供たちの楽しげな笑い声が聞こえてくる。
リリアは村の入り口の木陰に身を隠し、中を窺った。
村の中央にある広場で、村人たちが何かのお祭りの準備をしているようだった。
そして、その中心に彼がいた。
アレンだった。
彼は以前よりも少しだけたくましくなった体で、村の男たちと一緒に飾り付けを手伝っていた。その周りには村の子供たちが子犬のようにじゃれついている。
「アレン兄ちゃん、もっと高く!」
「ははは、分かったよ。でも、あんまり無茶を言うなよ」
彼は子供たち一人一人の頭を優しく撫でてやっている。その笑顔はリリアが知っているどの時の彼よりも、穏やかで幸せそうに見えた。
そして、彼の隣には一人の可愛らしいエルフの少女が、片時も離れずに寄り添っていた。あれがリーナという子なのだろう。彼女は心からの信頼を込めた瞳でアレンを見上げている。
その光景は、まるで一枚の完璧な絵画のようだった。
そこにはリリアの入り込む隙間など、どこにもなかった。
彼女は悟った。
自分はとんでもない過ちを犯しに来たのだと。
この彼がようやく手に入れた穏やかで幸せな日常を、自分の身勝手な願いで壊しに来てしまったのだと。
足がすくんで動かない。
今すぐこの場から立ち去るべきだ。
そう頭では分かっている。
だが、彼女の足はまるで地面に根が生えたかのように動かなかった。
会いたい。
一目だけでも会って謝りたい。
そして、もし許されるなら、あの最後の願いを……。
彼女の心は二つに引き裂かれそうになっていた。
贖罪の旅路の果てに彼女が見つけたのは、救いなどではなかった。
ただ、自分がいかに取り返しのつかないことをしたかという、あまりにも残酷な現実だけだった。
夜は洞穴や大木の陰で、寒さと恐怖に震えながら過ごした。昼間は街道をゆく商人や旅人に紛れ、ひたすらに西を目指して歩いた。
彼女の美しい顔は旅の汚れと疲労で見る影もなく、その姿は落ちぶれた巡礼者のようだった。
道中、様々な街や村に立ち寄った。そして、その先々で彼女はアレンと【黎明の翼】の噂を耳にすることになった。
とある宿場町で。
酒場の隅でスープを啜っていると、隣のテーブルに座った商人たちが楽しそうに話していた。
「いやはや、驚きましたな。【黎明の翼】御一行が我々のキャラバンを盗賊団から救ってくださったのですよ!」
「おお、それは本当かね!あの英雄様たちに!」
「ええ!リーダーのアレン様は我々が負った傷を瞬く間に癒してくださいました。まるで本物の聖者様のようでしたよ。報酬もほとんど受け取られなかった。『困っている人を助けるのは当たり前のことですから』と、穏やかに笑っておられた……」
リリアは、その話を聞きながら胸が締め付けられるような思いだった。
アレンは昔と少しも変わっていない。困っている人を見過ごせない、あの不器-用な優しさ。
それに比べて自分は……。
彼女はスープの味がしなくなった。
とある農村で。
井戸で水を分けてもらっていると、村の老婆が皺くちゃの顔で幸せそうに語ってくれた。
「この村はね、去年ひどい日照りに見舞われて作物が全滅しかけたんじゃよ。じゃが、どこからともなく現れたヒーラー様が、たった一人でこの枯れた大地に恵みの雨を降らせてくださったんじゃ」
「そのヒー-ラー様というのが……」
「そうじゃよ。『辺境の聖者』、アレン様じゃ。あの方はこの村の救い主じゃよ。村の子供たちにも優しく魔法を見せてくださってな。特にリーナちゃんというエルフの女の子には、まるで本当のお兄さんのようじゃった……」
リリアはリーナという名前に胸騒ぎを覚えた。
アレンの周りには、もう新しい彼を心から慕ってくれる人々がいる。
彼が守るべき新しい家族がいる。
その中に自分の居場所はもうないのかもしれない。
旅を続けるうちに、リリアは理解していった。
アレンと【黎明の翼】が人々からどれだけ愛され、尊敬されているかを。
彼らはただ強いだけの冒険者ではない。その強さを常に弱き者を守るために使っている。彼らが通った後には、必ず感謝と笑顔の花が咲くのだ。
それはかつて自分たち【熾天の剣】が追い求めていた、英雄の姿そのものだった。
だが、自分たちはいつしかその道を外れてしまった。名声に溺れ、力を過信し、弱き者を顧みなくなった。
そして、その最も純粋な心を持っていたアレンを、自分たちの手で切り捨ててしまった。
その罪の重さを、彼女は旅の先々でまざまざと見せつけられた。
それは彼女にとって、まさに贖罪の旅路だった。
道端の石に蹴つまづき、泥水の中に倒れ込む。膝が擦りむけ、血が滲んだ。
かつてならすぐにヒールで治しただろう傷。だが、今の彼女にはその力さえも使う気力が湧かなかった。
痛みが自分への罰のように感じられた。
一月以上が過ぎた。
彼女は心身ともに限界を迎えながらも、ついに目的の地、クレリア村へと続く道にたどり着いた。
そこは噂に聞いていた通りの、のどかで平和な村だった。
黄金色の麦畑が風に揺れ、子供たちの楽しげな笑い声が聞こえてくる。
リリアは村の入り口の木陰に身を隠し、中を窺った。
村の中央にある広場で、村人たちが何かのお祭りの準備をしているようだった。
そして、その中心に彼がいた。
アレンだった。
彼は以前よりも少しだけたくましくなった体で、村の男たちと一緒に飾り付けを手伝っていた。その周りには村の子供たちが子犬のようにじゃれついている。
「アレン兄ちゃん、もっと高く!」
「ははは、分かったよ。でも、あんまり無茶を言うなよ」
彼は子供たち一人一人の頭を優しく撫でてやっている。その笑顔はリリアが知っているどの時の彼よりも、穏やかで幸せそうに見えた。
そして、彼の隣には一人の可愛らしいエルフの少女が、片時も離れずに寄り添っていた。あれがリーナという子なのだろう。彼女は心からの信頼を込めた瞳でアレンを見上げている。
その光景は、まるで一枚の完璧な絵画のようだった。
そこにはリリアの入り込む隙間など、どこにもなかった。
彼女は悟った。
自分はとんでもない過ちを犯しに来たのだと。
この彼がようやく手に入れた穏やかで幸せな日常を、自分の身勝手な願いで壊しに来てしまったのだと。
足がすくんで動かない。
今すぐこの場から立ち去るべきだ。
そう頭では分かっている。
だが、彼女の足はまるで地面に根が生えたかのように動かなかった。
会いたい。
一目だけでも会って謝りたい。
そして、もし許されるなら、あの最後の願いを……。
彼女の心は二つに引き裂かれそうになっていた。
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ただ、自分がいかに取り返しのつかないことをしたかという、あまりにも残酷な現実だけだった。
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