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第81話 土下座
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「……みんなを……助けて……!」
リリアの魂からの叫びのような懇願が、クレリア村の穏やかな空気を切り裂いた。彼女は地面に額をこすりつけたまま嗚咽を漏らし続けている。その小さな背中はあまりにもか弱く、痛々しかった。
周囲にいた村人たちや子供たちは、何が起きているのか理解できず、ただ遠巻きにその異様な光景を見つめているだけだった。
リーナは、アレンの服の裾を強く握りしめ、不安そうな瞳で泣き崩れるリリアを見上げていた。
ソフィアもどう対応すべきか分からず、眉をひそめてアレンの横顔を窺った。
彼女が知るアレンは、常に穏やかで優しかった。たとえ敵であっても必要以上の苦しみを与えることを良しとしない男。そんな彼が、かつての仲間であったというこの女性のあまりにも悲痛な姿を見て、心を動かされないはずがない。
きっと彼は彼女を助けるだろう。ソフィアはそう思っていた。
だが、アレンの反応は彼女の予想とは全く違うものだった。
彼は何も言わなかった。
ただ、静かに、氷のように冷たい目で地面にひれ伏すリリアを見下ろしているだけだった。
その瞳には、かつて彼女が知っていた気弱で優しいアレンの面影はひとかけらも残っていなかった。
「アレン……お願い……!」
リリアは彼の沈黙を肯定と勘違いしたのか、必死に言葉を続けた。
「あなたの力なら……『辺境の聖者』であるあなたの奇跡の力なら……できるはず……!」
「ガリウス様も、ティナも、ジェイクさんも……みんな死んでしまったの……!でも、あなたならみんなを生き返らせることが……!」
その言葉を聞いた瞬間、アレンの瞳の奥で何かがパキリと音を立てて砕けた。
彼が、ゆっくりと口を開いた。
その声は、冬の湖の底から響いてくるかのように低く、そして冷たかった。
「……生き返らせる?」
彼は、その言葉をまるで生まれて初めて聞く外国語のように、ゆっくりと繰り返した。
「君は、今、何と言った?」
その声に含まれた絶対零度の響きに、リリアはびくりと体を震わせ、恐る恐る顔を上げた。
そして彼女は見た。
アレンの、その冷たい瞳の奥に燃える、静かで、しかし全てを焼き尽くすかのような激しい怒りの炎を。
「……面白いことを言うんだな、君は」
アレンの唇が歪んだ。それは笑みと呼ぶには、あまりにも冷酷な形をしていた。
「死んだ人間を生き返らせろ、と。まるで道端に落ちている石ころでも拾ってこいとでも言うような口ぶりで、君は神の領域を侵せと俺に命令するのか」
「ち、違う……!命令なんかじゃ……!」
「違わない」
アレンは彼女の言葉を容赦なく切り捨てた。
「君は俺を誰だと思っている?君たちの都合のいい便利な道具か?かつて俺が傷を負ったガリウスを癒したように。今度は死んだ仲間を俺に癒させようというのか。君たちの後始末を、俺にさせようというのか」
その言葉の一つ一つが、鋭い氷の刃となってリリアの心を抉っていく。
「……俺がどんな思いでここまで来たと思っている」
アレンの声がわずかに震えた。
「君たちに追放され、全てを失い、死の淵を彷徨った。ギルドで笑い者にされ、尊厳を踏みにじられた。それでも俺は歯を食いしばって生きてきた。新しい仲間と出会い、守るべきものを見つけ、ようやく自分の居場所を手に入れたんだ」
彼は隣で不安そうに自分を見上げるリーナの頭を優しく撫でた。
「俺のこの力は、もう君たちのためにはない。この俺の大切な家族を、仲間を、そして俺を信じてくれる人々を守るためにある。君たちのような、仲間を平気で裏切り見捨てるような連中のために使う奇跡は、もうひとかけらも残ってはいないんだ」
それは、完全な、そして決定的な拒絶の言葉だった。
リリアの顔から血の気が引いていく。
彼女が最後の希望だと信じていた光が、今、目の前で無慈悲に消え去ろうとしていた。
「ま……待って……」
彼女は何かを言おうとした。謝罪の言葉か、あるいはそれでもなお懇願の言葉か。
だが、その言葉が紡がれることはなかった。
彼女とアレンの間に、二つの影が立ちはだかったからだ。
一人は厳しい表情で腕を組むソフィア。
そしてもう一人。いつの間にか音もなく現れていた、冷たい金色の瞳を持つカイだった。
彼らは、まるでアレンを守る盾のようにリリアの前に立ち、その道を塞いだ。
そして、静かに、しかし有無を言わせぬ力強さで彼女に告げた。
「―――それ以上、アレンに近づくな」
リリアの魂からの叫びのような懇願が、クレリア村の穏やかな空気を切り裂いた。彼女は地面に額をこすりつけたまま嗚咽を漏らし続けている。その小さな背中はあまりにもか弱く、痛々しかった。
周囲にいた村人たちや子供たちは、何が起きているのか理解できず、ただ遠巻きにその異様な光景を見つめているだけだった。
リーナは、アレンの服の裾を強く握りしめ、不安そうな瞳で泣き崩れるリリアを見上げていた。
ソフィアもどう対応すべきか分からず、眉をひそめてアレンの横顔を窺った。
彼女が知るアレンは、常に穏やかで優しかった。たとえ敵であっても必要以上の苦しみを与えることを良しとしない男。そんな彼が、かつての仲間であったというこの女性のあまりにも悲痛な姿を見て、心を動かされないはずがない。
きっと彼は彼女を助けるだろう。ソフィアはそう思っていた。
だが、アレンの反応は彼女の予想とは全く違うものだった。
彼は何も言わなかった。
ただ、静かに、氷のように冷たい目で地面にひれ伏すリリアを見下ろしているだけだった。
その瞳には、かつて彼女が知っていた気弱で優しいアレンの面影はひとかけらも残っていなかった。
「アレン……お願い……!」
リリアは彼の沈黙を肯定と勘違いしたのか、必死に言葉を続けた。
「あなたの力なら……『辺境の聖者』であるあなたの奇跡の力なら……できるはず……!」
「ガリウス様も、ティナも、ジェイクさんも……みんな死んでしまったの……!でも、あなたならみんなを生き返らせることが……!」
その言葉を聞いた瞬間、アレンの瞳の奥で何かがパキリと音を立てて砕けた。
彼が、ゆっくりと口を開いた。
その声は、冬の湖の底から響いてくるかのように低く、そして冷たかった。
「……生き返らせる?」
彼は、その言葉をまるで生まれて初めて聞く外国語のように、ゆっくりと繰り返した。
「君は、今、何と言った?」
その声に含まれた絶対零度の響きに、リリアはびくりと体を震わせ、恐る恐る顔を上げた。
そして彼女は見た。
アレンの、その冷たい瞳の奥に燃える、静かで、しかし全てを焼き尽くすかのような激しい怒りの炎を。
「……面白いことを言うんだな、君は」
アレンの唇が歪んだ。それは笑みと呼ぶには、あまりにも冷酷な形をしていた。
「死んだ人間を生き返らせろ、と。まるで道端に落ちている石ころでも拾ってこいとでも言うような口ぶりで、君は神の領域を侵せと俺に命令するのか」
「ち、違う……!命令なんかじゃ……!」
「違わない」
アレンは彼女の言葉を容赦なく切り捨てた。
「君は俺を誰だと思っている?君たちの都合のいい便利な道具か?かつて俺が傷を負ったガリウスを癒したように。今度は死んだ仲間を俺に癒させようというのか。君たちの後始末を、俺にさせようというのか」
その言葉の一つ一つが、鋭い氷の刃となってリリアの心を抉っていく。
「……俺がどんな思いでここまで来たと思っている」
アレンの声がわずかに震えた。
「君たちに追放され、全てを失い、死の淵を彷徨った。ギルドで笑い者にされ、尊厳を踏みにじられた。それでも俺は歯を食いしばって生きてきた。新しい仲間と出会い、守るべきものを見つけ、ようやく自分の居場所を手に入れたんだ」
彼は隣で不安そうに自分を見上げるリーナの頭を優しく撫でた。
「俺のこの力は、もう君たちのためにはない。この俺の大切な家族を、仲間を、そして俺を信じてくれる人々を守るためにある。君たちのような、仲間を平気で裏切り見捨てるような連中のために使う奇跡は、もうひとかけらも残ってはいないんだ」
それは、完全な、そして決定的な拒絶の言葉だった。
リリアの顔から血の気が引いていく。
彼女が最後の希望だと信じていた光が、今、目の前で無慈悲に消え去ろうとしていた。
「ま……待って……」
彼女は何かを言おうとした。謝罪の言葉か、あるいはそれでもなお懇願の言葉か。
だが、その言葉が紡がれることはなかった。
彼女とアレンの間に、二つの影が立ちはだかったからだ。
一人は厳しい表情で腕を組むソフィア。
そしてもう一人。いつの間にか音もなく現れていた、冷たい金色の瞳を持つカイだった。
彼らは、まるでアレンを守る盾のようにリリアの前に立ち、その道を塞いだ。
そして、静かに、しかし有無を言わせぬ力強さで彼女に告げた。
「―――それ以上、アレンに近づくな」
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