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第73話:商業地区の解放
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中央広場での勝利は、王都中に燻っていた反ヴァルザーの気運に火をつけた。
俺たちが偽りの反逆者ではなく、真の王家を守る者たちであること。そして、俺たちには何か人知を超えた『加護』があること。
その噂は民衆の口コミによって、瞬く間に王都の隅々まで広がっていった。
恐怖に支配されていた人々の心に、小さな、しかし確かな希望の灯がともり始めたのだ。
「次なる目標は、商業地区だ」
アジトに戻った俺たちは、休む間もなく次の作戦会議を開いていた。
バルガスが王都の地図を指し示しながら、力強く言う。
「商業地区は王都の胃袋であり、血管だ。ここを我々が押さえれば、物資の流れを掌握し、ヴァルザーの軍勢の補給路を断つことができる。戦略的に最も重要な拠点だ」
「だが、敵もそれは分かっているはずだぜ」
フレアが腕を組んで付け加えた。
「中央広場での失態を取り返すために、今頃は倍以上の兵力を集めて待ち構えてるに違いねえ」
彼女の言う通り、商業地区にはヴァルザー派の中でも特に忠誠心の高い部隊が配置されているという情報が入ってきていた。その数は二百を超えるという。
対する俺たちの戦力は、レジスタンスの生き残りと、中央広場での勝利を見て俺たちに合流してくれた元騎士たちを合わせても、五十にも満たない。
戦力差は絶望的だった。
「だからこそ、アッシュ殿の力が必要になる」
バルガスは俺の顔をじっと見た。
「再び、あの奇跡を見せてくれるな?」
その問いに、俺は静かに頷いた。
「もちろんです。俺がいる限り、仲間を死なせはしない」
作戦はシンプルだった。
俺たち主力が、商業地区のメインストリートを正面から堂々と進軍する。
俺の『幸運』を最大限に活用し、敵の攻撃を無力化しながら敵陣の真ん中をこじ開けるのだ。
それは、常識的に考えれば自殺行為に等しい作戦だった。
だが、俺たちには常識を覆す力があった。
翌日の正午。
俺たちは商業地区の入り口に、その姿を現した。
道の両側には多くの商店が立ち並んでいるが、今は全ての店が固くシャッターを下ろし、通りは静まり返っている。
その通りの向こう側。バリケードが築かれ、二百を超えるヴァルザー派の兵士たちが槍衾を作り、弓を構えて俺たちを待ち受けていた。
その光景は、まさに鉄壁の要塞だった。
「来たか、反逆者どもめ!」
敵の指揮官らしき男が、憎々しげに叫んだ。
「昨日のような奇跡が二度も続くと思うなよ! 今日こそ貴様らを神々の元へ送ってやる! 全員、放て!」
その号令と共に、無数の矢が空を黒く染めるほどに放たれた。
それはもはや矢の雨ではなく、鉄の豪雨だった。
避けられるはずがない。
だが、俺は動かなかった。
ただ、静かに願う。
(仲間たちを、守れ)
その瞬間、ありえないことが起きた。
俺たちの頭上、建物の屋根に設置されていた大きな店の看板が、突風によって根本からへし折れたのだ。
巨大な木の看板は回転しながら落下し、まるで巨大な盾のように俺たちの頭上を覆い尽くした。
ガガガガガガッ!
降り注ぐ矢は、全てその即席の盾に突き刺さり、俺たちには一本たりとも届かなかった。
「……な、なんだと!?」
敵の指揮官が絶句する。
俺たちは埃を払いながら、無傷で看板の下から姿を現した。
「……さて、と。今度はこっちの番だぜ」
フレアが獰猛な笑みを浮かべて、ウォーハンマーを構えた。
「突撃いいいいいっ!」
バルガスの号令と共に、俺たちは敵陣へと向かって一斉に駆け出した。
俺を先頭に、楔形の陣形を組む。
「魔法部隊、撃て! 奴らを焼き払え!」
敵陣から数人の魔術師が前に出て、炎や氷の魔法を放ってきた。
だが、彼らの魔法はことごとく暴発した。
炎の魔法は術者のすぐ足元で爆発し、味方を巻き込む。
氷の魔法はあらぬ方向へと飛んでいき、バリケードを凍りつかせ、敵兵の足場を滑りやすくしてしまった。
俺たちは敵の攻撃が作り出す混乱の中を、まるでモーセが海を割るかのように突き進んでいく。
俺が前線にいる。
ただそれだけで、敵の全ての攻撃は無力化されるか、あるいは自滅を誘発する結果となっていた。
俺の存在そのものが、この戦場における絶対的な『安全地帯』となっていたのだ。
「ひ、退くな! 槍で食い止めろ!」
指揮官が必死に叫ぶ。
槍兵たちが震える手で槍を構え、俺たちの突撃を食い止めようとする。
だが、彼らが槍を突き出そうとした瞬間。
どこからか飛んできた石ころが、隊列の先頭にいた兵士の足元に転がった。
その兵士は、見事に石につまずき、前のめりに倒れる。
その拍子に、彼の槍が隣の兵士の尻を突いた。
「ぎゃあっ!」
尻を突かれた兵士は驚いて飛び上がり、その衝撃でさらに隣の兵士を突き飛ばす。
完璧な連携を誇るはずだった槍衾は、まるでコメディのようにあっけなく内側から崩壊していった。
その光景を、シャッターの隙間から商業地区の商人たちが固唾を飲んで見守っていた。
彼らは最初はヴァルザーの軍勢の力に恐怖していた。
だが、目の前で繰り広げられるあまりにも一方的で、あまりにも不可解な光景に、彼らの心は揺れ動き始めていた。
これは、戦いではない。
これは、天罰だ。
神が真の王の側に味方し、反逆者たちに裁きを下しているのだ。
誰もがそう感じ始めていた。
やがて、一人の恰幅のいい商人が意を決したように、店のシャッターを勢いよく開けた。
「もう見てられるか!」
彼は店の棚から固くて重そうなパンを掴むと、それをヴァルザー派の兵士に向かって力いっぱい投げつけた。
「国を乱す悪党どもめ! この街から出ていけ!」
その行動が引き金だった。
次々と他の商店のシャッターも開かれていく。
商人たちが野菜を投げつけ、樽を転がし、ありとあらゆるものを武器にして兵士たちに襲いかかった。
民衆が蜂起したのだ。
「な、なんだ、こいつら!?」
兵士たちは完全に不意を突かれた。
レジスタンスからの攻撃と市民からの反乱。
前後から挟み撃ちにされた彼らは完全に戦意を喪失し、武器を捨てて逃げ出し始めた。
商業地区は解放された。
それも、俺たちの力だけでなく、そこに住む民衆一人一人の勇気によって。
解放された通りには歓喜の声が響き渡った。
商人たちは俺たちの手を握り、涙を流して感謝した。そして、彼らの店の食料や物資を惜しみなく俺たちに提供してくれた。
俺たちの反乱軍は、この勝利によって強力な補給拠点と、そして何よりも民衆という心強い味方を得ることができたのだ。
俺は歓声に包まれながら、静かに空を見上げた。
ヴァルザーの築いた砂上の楼閣が、また一つ大きく崩れ落ちた。
この勢いのまま、俺たちは王都を解放する。
俺の決意は民衆の熱気を浴びて、さらに固く、強くなっていた。
俺たちが偽りの反逆者ではなく、真の王家を守る者たちであること。そして、俺たちには何か人知を超えた『加護』があること。
その噂は民衆の口コミによって、瞬く間に王都の隅々まで広がっていった。
恐怖に支配されていた人々の心に、小さな、しかし確かな希望の灯がともり始めたのだ。
「次なる目標は、商業地区だ」
アジトに戻った俺たちは、休む間もなく次の作戦会議を開いていた。
バルガスが王都の地図を指し示しながら、力強く言う。
「商業地区は王都の胃袋であり、血管だ。ここを我々が押さえれば、物資の流れを掌握し、ヴァルザーの軍勢の補給路を断つことができる。戦略的に最も重要な拠点だ」
「だが、敵もそれは分かっているはずだぜ」
フレアが腕を組んで付け加えた。
「中央広場での失態を取り返すために、今頃は倍以上の兵力を集めて待ち構えてるに違いねえ」
彼女の言う通り、商業地区にはヴァルザー派の中でも特に忠誠心の高い部隊が配置されているという情報が入ってきていた。その数は二百を超えるという。
対する俺たちの戦力は、レジスタンスの生き残りと、中央広場での勝利を見て俺たちに合流してくれた元騎士たちを合わせても、五十にも満たない。
戦力差は絶望的だった。
「だからこそ、アッシュ殿の力が必要になる」
バルガスは俺の顔をじっと見た。
「再び、あの奇跡を見せてくれるな?」
その問いに、俺は静かに頷いた。
「もちろんです。俺がいる限り、仲間を死なせはしない」
作戦はシンプルだった。
俺たち主力が、商業地区のメインストリートを正面から堂々と進軍する。
俺の『幸運』を最大限に活用し、敵の攻撃を無力化しながら敵陣の真ん中をこじ開けるのだ。
それは、常識的に考えれば自殺行為に等しい作戦だった。
だが、俺たちには常識を覆す力があった。
翌日の正午。
俺たちは商業地区の入り口に、その姿を現した。
道の両側には多くの商店が立ち並んでいるが、今は全ての店が固くシャッターを下ろし、通りは静まり返っている。
その通りの向こう側。バリケードが築かれ、二百を超えるヴァルザー派の兵士たちが槍衾を作り、弓を構えて俺たちを待ち受けていた。
その光景は、まさに鉄壁の要塞だった。
「来たか、反逆者どもめ!」
敵の指揮官らしき男が、憎々しげに叫んだ。
「昨日のような奇跡が二度も続くと思うなよ! 今日こそ貴様らを神々の元へ送ってやる! 全員、放て!」
その号令と共に、無数の矢が空を黒く染めるほどに放たれた。
それはもはや矢の雨ではなく、鉄の豪雨だった。
避けられるはずがない。
だが、俺は動かなかった。
ただ、静かに願う。
(仲間たちを、守れ)
その瞬間、ありえないことが起きた。
俺たちの頭上、建物の屋根に設置されていた大きな店の看板が、突風によって根本からへし折れたのだ。
巨大な木の看板は回転しながら落下し、まるで巨大な盾のように俺たちの頭上を覆い尽くした。
ガガガガガガッ!
降り注ぐ矢は、全てその即席の盾に突き刺さり、俺たちには一本たりとも届かなかった。
「……な、なんだと!?」
敵の指揮官が絶句する。
俺たちは埃を払いながら、無傷で看板の下から姿を現した。
「……さて、と。今度はこっちの番だぜ」
フレアが獰猛な笑みを浮かべて、ウォーハンマーを構えた。
「突撃いいいいいっ!」
バルガスの号令と共に、俺たちは敵陣へと向かって一斉に駆け出した。
俺を先頭に、楔形の陣形を組む。
「魔法部隊、撃て! 奴らを焼き払え!」
敵陣から数人の魔術師が前に出て、炎や氷の魔法を放ってきた。
だが、彼らの魔法はことごとく暴発した。
炎の魔法は術者のすぐ足元で爆発し、味方を巻き込む。
氷の魔法はあらぬ方向へと飛んでいき、バリケードを凍りつかせ、敵兵の足場を滑りやすくしてしまった。
俺たちは敵の攻撃が作り出す混乱の中を、まるでモーセが海を割るかのように突き進んでいく。
俺が前線にいる。
ただそれだけで、敵の全ての攻撃は無力化されるか、あるいは自滅を誘発する結果となっていた。
俺の存在そのものが、この戦場における絶対的な『安全地帯』となっていたのだ。
「ひ、退くな! 槍で食い止めろ!」
指揮官が必死に叫ぶ。
槍兵たちが震える手で槍を構え、俺たちの突撃を食い止めようとする。
だが、彼らが槍を突き出そうとした瞬間。
どこからか飛んできた石ころが、隊列の先頭にいた兵士の足元に転がった。
その兵士は、見事に石につまずき、前のめりに倒れる。
その拍子に、彼の槍が隣の兵士の尻を突いた。
「ぎゃあっ!」
尻を突かれた兵士は驚いて飛び上がり、その衝撃でさらに隣の兵士を突き飛ばす。
完璧な連携を誇るはずだった槍衾は、まるでコメディのようにあっけなく内側から崩壊していった。
その光景を、シャッターの隙間から商業地区の商人たちが固唾を飲んで見守っていた。
彼らは最初はヴァルザーの軍勢の力に恐怖していた。
だが、目の前で繰り広げられるあまりにも一方的で、あまりにも不可解な光景に、彼らの心は揺れ動き始めていた。
これは、戦いではない。
これは、天罰だ。
神が真の王の側に味方し、反逆者たちに裁きを下しているのだ。
誰もがそう感じ始めていた。
やがて、一人の恰幅のいい商人が意を決したように、店のシャッターを勢いよく開けた。
「もう見てられるか!」
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それも、俺たちの力だけでなく、そこに住む民衆一人一人の勇気によって。
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商人たちは俺たちの手を握り、涙を流して感謝した。そして、彼らの店の食料や物資を惜しみなく俺たちに提供してくれた。
俺たちの反乱軍は、この勝利によって強力な補給拠点と、そして何よりも民衆という心強い味方を得ることができたのだ。
俺は歓声に包まれながら、静かに空を見上げた。
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全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
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15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
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