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第1話
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月曜日の朝は、いつも少しだけ憂鬱だ。
佐藤大和(さとう やまと)、二十八歳。都内の中堅システム開発会社に勤める彼の日常は、限りなく平凡という言葉で彩られている。満員電車に揺られ、定時までパソコンのモニターと睨めっこ。たまに理不尽な要求を突きつけてくるクライアントに内心で毒づきながらも、そつなく仕事をこなす。突出した才能はないが、致命的な欠点もない。社内での評価は「真面目だが、面白みには欠ける男」。まさに、可もなく不可もない社会人の典型だった。
「佐藤くん、この件、今日の夕方までにお願いできるかな」
「はい、分かりました」
上司の無茶振りにも笑顔で応じる。もちろん、心の中では今夜予定していたささやかな晩酌がお預けになることを嘆いていたが、それを顔に出すほど若くはない。大和にとって、仕事とは生活費を稼ぐための手段であり、そこに情熱や夢といった青臭い感情を挟む余地はなかった。
そんな彼の退屈な日常における、唯一の光。それが週末の天体観測だった。
金曜の夜、仕事を終えた大和は足早に帰路につく。アパートの一室には、彼の宝物である天体望遠鏡が静かにその出番を待っていた。学生時代にアルバイトで貯めた金で買った、決して高級品ではないが、手入れの行き届いた愛機だ。
その週末も、大和は車を走らせて郊外の小高い丘に来ていた。ここは街の明かりが届きにくく、満天の星を眺めるには絶好の場所だった。三脚を立て、鏡筒を慎重にセットする。肌を撫でる夜風が心地いい。
「さて、今夜は……オリオン大星雲でも狙ってみるか」
独り言を呟き、接眼レンズに目を当てる。微調整用のダイヤルをゆっくりと回すと、ぼやけていた光の点が徐々に焦点を結び、遥か彼方の宇宙がその姿を現した。鳥が翼を広げたような、淡く美しいガスの広がり。何千、何万光年も離れた場所で輝く星々の光が、今、自分の網膜に届いている。その事実が、大和の心をいつも不思議な感動で満たしてくれた。
仕事のストレスも、人間関係の悩みも、この壮大な宇宙の前ではちっぽけなものに思える。ここだけが、大和が心から自由になれる場所だった。
夢中で観測を続けて、どれくらいの時間が経っただろうか。ふと、望遠鏡の視野の隅に、これまで見たこともない強い光が入り込んできた。
「……なんだ? 人工衛星か?」
いや、違う。人工衛星の光はこんなに強くないし、動きも速すぎる。それはまるで、星そのものがこちらに向かって突進してくるかのような、異常な光量だった。
大和が驚いて接眼レンズから顔を上げた、その瞬間。
視界の全てが、純白の光で塗り潰された。音はなく、衝撃もない。ただ、暖かく、そして抗いようのない圧倒的な光が、彼の全身を包み込んでいく。まずい、と思った時にはもう遅い。身体の感覚が急速に薄れていき、立っているのか倒れているのかさえ分からなくなった。
最後に脳裏をよぎったのは、「あ、望遠鏡、倒れたらどうしよう」という、なんとも間抜けな心配事だった。
佐藤大和(さとう やまと)、二十八歳。都内の中堅システム開発会社に勤める彼の日常は、限りなく平凡という言葉で彩られている。満員電車に揺られ、定時までパソコンのモニターと睨めっこ。たまに理不尽な要求を突きつけてくるクライアントに内心で毒づきながらも、そつなく仕事をこなす。突出した才能はないが、致命的な欠点もない。社内での評価は「真面目だが、面白みには欠ける男」。まさに、可もなく不可もない社会人の典型だった。
「佐藤くん、この件、今日の夕方までにお願いできるかな」
「はい、分かりました」
上司の無茶振りにも笑顔で応じる。もちろん、心の中では今夜予定していたささやかな晩酌がお預けになることを嘆いていたが、それを顔に出すほど若くはない。大和にとって、仕事とは生活費を稼ぐための手段であり、そこに情熱や夢といった青臭い感情を挟む余地はなかった。
そんな彼の退屈な日常における、唯一の光。それが週末の天体観測だった。
金曜の夜、仕事を終えた大和は足早に帰路につく。アパートの一室には、彼の宝物である天体望遠鏡が静かにその出番を待っていた。学生時代にアルバイトで貯めた金で買った、決して高級品ではないが、手入れの行き届いた愛機だ。
その週末も、大和は車を走らせて郊外の小高い丘に来ていた。ここは街の明かりが届きにくく、満天の星を眺めるには絶好の場所だった。三脚を立て、鏡筒を慎重にセットする。肌を撫でる夜風が心地いい。
「さて、今夜は……オリオン大星雲でも狙ってみるか」
独り言を呟き、接眼レンズに目を当てる。微調整用のダイヤルをゆっくりと回すと、ぼやけていた光の点が徐々に焦点を結び、遥か彼方の宇宙がその姿を現した。鳥が翼を広げたような、淡く美しいガスの広がり。何千、何万光年も離れた場所で輝く星々の光が、今、自分の網膜に届いている。その事実が、大和の心をいつも不思議な感動で満たしてくれた。
仕事のストレスも、人間関係の悩みも、この壮大な宇宙の前ではちっぽけなものに思える。ここだけが、大和が心から自由になれる場所だった。
夢中で観測を続けて、どれくらいの時間が経っただろうか。ふと、望遠鏡の視野の隅に、これまで見たこともない強い光が入り込んできた。
「……なんだ? 人工衛星か?」
いや、違う。人工衛星の光はこんなに強くないし、動きも速すぎる。それはまるで、星そのものがこちらに向かって突進してくるかのような、異常な光量だった。
大和が驚いて接眼レンズから顔を上げた、その瞬間。
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最後に脳裏をよぎったのは、「あ、望遠鏡、倒れたらどうしよう」という、なんとも間抜けな心配事だった。
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