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第3話
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「――というわけで、あなたは幸運でした」
青い肌の船医は穏やかな口調で説明を締めくくった。
大和は、未だ現実感の乏しい頭でその言葉を反芻する。まとめると、こうだ。俺、佐藤大和は、原因不明の理由で宇宙空間を漂流していたところを、このアストレア銀河帝国とやらの船に助けられた、らしい。
「はあ……」
気の抜けた返事しかできない。誘拐か、手の込んだドッキリか。あらゆる可能性を考えたが、目の前の青い肌の船医の存在が、それを否定している。彼はどこからどう見ても、人間ではなかった。
「さて。あなたの母星のデータが我々のデータベースに存在しないため、改めて詳細な健康診断を行いたいと思います。よろしいですかな?」
「え、あ、はい。お世話になります」
断る理由も、権利もない。大和は言われるがまま、ベッドから降りた。不思議なことに、あれだけの衝撃を受けたはずなのに、体はどこも痛くなかった。むしろ、いつもより少し軽く感じるくらいだ。
医務室の奥には、見たこともない形状の医療機器が並んでいた。
「ではまず、基本的な身体能力から測定しましょう。こちらへ」
船医に促され、大和は壁際に設置された機械の前に立つ。身長、体重といった基本的なデータが自動でスキャンされていく。
「ふむ……体組織の密度が非常に高いですが、特に異常は見られませんね。では次に、筋力を測定します。このグリップを、全力で握ってください」
船医が手渡してきたのは、地球のスポーツテストで使う握力計によく似た、金属製の器具だった。ただ、こちらのものは表面に微細な紋様が刻まれ、中央のクリスタルが淡く発光している。いかにもSF的なデザインだ。
「全力、ですか」
「はい。あなたの種族の平均的なデータを知りたいのです」
そう言われても、自分の握力が地球の成人男性としてどの程度なのか、大和は正確には知らない。確か、最後に測った時は50キログラムくらいだったか。ごく平均的な数値だ。
(まあ、言われた通りにやるしかないか)
大和はグリップを握り直し、ぐっと力を込めた。いつもペットボトルの固いキャップを開ける時くらいの感覚で。
その瞬間。
ピシリ、とグリップに微かな亀裂が入った。
「おや?」
船医が眉をひそめる。大和も「あれ?」と思ったが、力を緩める間もなかった。
ミシッ、ミシミシッ!
亀裂は瞬く間に全体に広がり、器具が悲鳴のような軋み音を上げる。そして――。
バキン!
小気味よい音を立てて、金属製のグリップは無残に砕け散った。破片が床に散らばり、中央のクリスタルだけが虚しく光を点滅させている。
「…………え?」
静まり返る医務室。
大和は、自分の手の中に残ったグリップの残骸と、床に飛び散った破片を交互に見て、顔面蒼白になった。
「す、すみません! あの、弁償します! い、いくらでしょうか!?」
咄嗟に飛び出したのは、社会人としての謝罪だった。高級そうな機械を壊してしまった。一体いくら請求されるのだろうか。ただでさえ助けてもらった身だというのに。
平身低頭で謝る大和を、船医は見ていなかった。彼はただ、床に散らばった測定器の残骸を、信じられないものを見るような目で、呆然と見つめているだけだった。その隣にいた看護師らしき異星人も、口を半開きにして硬直している。
この測定器は、帝国軍の兵士が使ってもびくともしない、特殊合金製なのだが。
そんな事実を、大和が知るはずもなかった。
青い肌の船医は穏やかな口調で説明を締めくくった。
大和は、未だ現実感の乏しい頭でその言葉を反芻する。まとめると、こうだ。俺、佐藤大和は、原因不明の理由で宇宙空間を漂流していたところを、このアストレア銀河帝国とやらの船に助けられた、らしい。
「はあ……」
気の抜けた返事しかできない。誘拐か、手の込んだドッキリか。あらゆる可能性を考えたが、目の前の青い肌の船医の存在が、それを否定している。彼はどこからどう見ても、人間ではなかった。
「さて。あなたの母星のデータが我々のデータベースに存在しないため、改めて詳細な健康診断を行いたいと思います。よろしいですかな?」
「え、あ、はい。お世話になります」
断る理由も、権利もない。大和は言われるがまま、ベッドから降りた。不思議なことに、あれだけの衝撃を受けたはずなのに、体はどこも痛くなかった。むしろ、いつもより少し軽く感じるくらいだ。
医務室の奥には、見たこともない形状の医療機器が並んでいた。
「ではまず、基本的な身体能力から測定しましょう。こちらへ」
船医に促され、大和は壁際に設置された機械の前に立つ。身長、体重といった基本的なデータが自動でスキャンされていく。
「ふむ……体組織の密度が非常に高いですが、特に異常は見られませんね。では次に、筋力を測定します。このグリップを、全力で握ってください」
船医が手渡してきたのは、地球のスポーツテストで使う握力計によく似た、金属製の器具だった。ただ、こちらのものは表面に微細な紋様が刻まれ、中央のクリスタルが淡く発光している。いかにもSF的なデザインだ。
「全力、ですか」
「はい。あなたの種族の平均的なデータを知りたいのです」
そう言われても、自分の握力が地球の成人男性としてどの程度なのか、大和は正確には知らない。確か、最後に測った時は50キログラムくらいだったか。ごく平均的な数値だ。
(まあ、言われた通りにやるしかないか)
大和はグリップを握り直し、ぐっと力を込めた。いつもペットボトルの固いキャップを開ける時くらいの感覚で。
その瞬間。
ピシリ、とグリップに微かな亀裂が入った。
「おや?」
船医が眉をひそめる。大和も「あれ?」と思ったが、力を緩める間もなかった。
ミシッ、ミシミシッ!
亀裂は瞬く間に全体に広がり、器具が悲鳴のような軋み音を上げる。そして――。
バキン!
小気味よい音を立てて、金属製のグリップは無残に砕け散った。破片が床に散らばり、中央のクリスタルだけが虚しく光を点滅させている。
「…………え?」
静まり返る医務室。
大和は、自分の手の中に残ったグリップの残骸と、床に飛び散った破片を交互に見て、顔面蒼白になった。
「す、すみません! あの、弁償します! い、いくらでしょうか!?」
咄嗟に飛び出したのは、社会人としての謝罪だった。高級そうな機械を壊してしまった。一体いくら請求されるのだろうか。ただでさえ助けてもらった身だというのに。
平身低頭で謝る大和を、船医は見ていなかった。彼はただ、床に散らばった測定器の残骸を、信じられないものを見るような目で、呆然と見つめているだけだった。その隣にいた看護師らしき異星人も、口を半開きにして硬直している。
この測定器は、帝国軍の兵士が使ってもびくともしない、特殊合金製なのだが。
そんな事実を、大和が知るはずもなかった。
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