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第10話
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海賊船が沈黙してから、どれくらいの時間が経っただろうか。
大破した隔壁の向こうに広がる静寂の宇宙と、船内に漂う焦げ臭い匂い。そのあまりにも非現実的な光景の中で、大和は一人、途方に暮れていた。
「ヤマト様……」
最初に沈黙を破ったのは、ゼノだった。
彼の声は微かに震え、その目は畏敬と、そしてほんの少しの恐怖に彩られていた。彼はもはや、大和を「遭難者」や「異星人」としては見ていなかった。人知を超えた、伝説の顕現として見ていた。
「いえ、あの方は……」
ゼノが何かを言いかけた時、通路の向こうから複数の足音が近づいてきた。現れたのは、侍女たちに付き添われた皇女エリアーナだった。彼女の顔は青ざめていたが、その瞳には恐怖ではなく、強い意志の光が宿っていた。
「ゼノ、状況は」
「はっ。皇女殿下、ご無事で何よりです。……海賊は、撃退いたしました」
「撃退……? あなたが?」
エリアーナの問いに、ゼノはゆっくりと首を横に振った。そして、まるで聖遺物でも指し示すかのように、静かに大和の方へ視線を向ける。
「いえ……全ては、ヤマト様のお力によるものです」
ゼノの口から語られたのは、にわかには信じがたい事実だった。
ビーム兵器を金属パイプで打ち返し、船の破片を投げつけただけで、武装した海賊船を沈黙させた、と。
侍女たちは息を呑み、エリアーナは大きく目を見開いた。彼女の視線が、きまり悪そうに頭を掻いている大和に注がれる。
この人が、たった一人で。
この船を、私を、守ってくれた。
エリアーナの胸に、熱いものがこみ上げてくる。それは、感謝や安堵だけではない。絶望的な状況を覆す圧倒的な力、そしてそれを振るいながらも、どこか憂いを帯びた表情で佇む彼の姿。その全てが、彼女の心を強く揺さぶった。
彼女は、ふらつく足で大和の前まで歩み寄ると、帝国の最も丁寧な礼法で、深く、深く頭を下げた。
「お顔を上げてください、皇女殿下! 俺はそんな、大したことは……」
慌てて制止する大和の言葉を遮り、エリアーナは毅然とした声で言った。
「ヤマト様。いいえ――救国の英雄、ヤマト様」
その言葉に、その場にいた全員が息を呑んだ。
「アストレア銀河帝国皇女、エリアーナ・フォン・アストレアの名において、あなたを帝国の英雄として、首都星アストリアへ正式に招待いたします。あなたのその大いなる力と勇気に、帝国は最大限の敬意と感謝を捧げなくてはなりません」
それは、命令でも要請でもない。皇女としての、心からの懇願だった。彼女の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。
「え、英雄? 帝都に招待?」
話がとんでもない方向へ飛躍している。大和の脳は完全にキャパシティオーバーだった。
彼の望みは、ただ一つ。故郷である地球へ帰ることだ。
「あの、皇女様。お気持ちは大変ありがたいのですが、俺はただ、自分の星に帰りたいだけで……」
そう、断るはずだった。
だが、涙ながらに自分を見上げる少女の、あまりにも真剣で、純粋な眼差しを前にして、その言葉を続けることができなかった。ここで断れば、この心優しき皇女を深く傷つけてしまうだろう。そう思うと、どうしても「嫌だ」とは言えなかった。
「……」
大和の沈黙を、肯定と受け取ったのだろう。エリアーナの表情が、ぱっと花が咲くように明るくなった。周囲の船員たちからも、安堵と歓喜の声が上がる。
「英雄ヤマト様、万歳!」
「我々の船に、伝説のテラノイドが!」
熱狂する船員たち。満面の笑みを浮かべる皇女。そして、そんな彼らを誇らしげに見守るゼノ。
その輪の中心で、大和は一人、冷や汗を流していた。
(……なんか、断れる雰囲気じゃないな、これ)
こうして、ただの平凡な会社員だった佐藤大和は、本人の意思とは全く無関係に、流されるまま、アストレア銀河帝国の首都星へと向かうことになったのだった。
地球への帰路は、ますます遠のいたように思えた。
大破した隔壁の向こうに広がる静寂の宇宙と、船内に漂う焦げ臭い匂い。そのあまりにも非現実的な光景の中で、大和は一人、途方に暮れていた。
「ヤマト様……」
最初に沈黙を破ったのは、ゼノだった。
彼の声は微かに震え、その目は畏敬と、そしてほんの少しの恐怖に彩られていた。彼はもはや、大和を「遭難者」や「異星人」としては見ていなかった。人知を超えた、伝説の顕現として見ていた。
「いえ、あの方は……」
ゼノが何かを言いかけた時、通路の向こうから複数の足音が近づいてきた。現れたのは、侍女たちに付き添われた皇女エリアーナだった。彼女の顔は青ざめていたが、その瞳には恐怖ではなく、強い意志の光が宿っていた。
「ゼノ、状況は」
「はっ。皇女殿下、ご無事で何よりです。……海賊は、撃退いたしました」
「撃退……? あなたが?」
エリアーナの問いに、ゼノはゆっくりと首を横に振った。そして、まるで聖遺物でも指し示すかのように、静かに大和の方へ視線を向ける。
「いえ……全ては、ヤマト様のお力によるものです」
ゼノの口から語られたのは、にわかには信じがたい事実だった。
ビーム兵器を金属パイプで打ち返し、船の破片を投げつけただけで、武装した海賊船を沈黙させた、と。
侍女たちは息を呑み、エリアーナは大きく目を見開いた。彼女の視線が、きまり悪そうに頭を掻いている大和に注がれる。
この人が、たった一人で。
この船を、私を、守ってくれた。
エリアーナの胸に、熱いものがこみ上げてくる。それは、感謝や安堵だけではない。絶望的な状況を覆す圧倒的な力、そしてそれを振るいながらも、どこか憂いを帯びた表情で佇む彼の姿。その全てが、彼女の心を強く揺さぶった。
彼女は、ふらつく足で大和の前まで歩み寄ると、帝国の最も丁寧な礼法で、深く、深く頭を下げた。
「お顔を上げてください、皇女殿下! 俺はそんな、大したことは……」
慌てて制止する大和の言葉を遮り、エリアーナは毅然とした声で言った。
「ヤマト様。いいえ――救国の英雄、ヤマト様」
その言葉に、その場にいた全員が息を呑んだ。
「アストレア銀河帝国皇女、エリアーナ・フォン・アストレアの名において、あなたを帝国の英雄として、首都星アストリアへ正式に招待いたします。あなたのその大いなる力と勇気に、帝国は最大限の敬意と感謝を捧げなくてはなりません」
それは、命令でも要請でもない。皇女としての、心からの懇願だった。彼女の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。
「え、英雄? 帝都に招待?」
話がとんでもない方向へ飛躍している。大和の脳は完全にキャパシティオーバーだった。
彼の望みは、ただ一つ。故郷である地球へ帰ることだ。
「あの、皇女様。お気持ちは大変ありがたいのですが、俺はただ、自分の星に帰りたいだけで……」
そう、断るはずだった。
だが、涙ながらに自分を見上げる少女の、あまりにも真剣で、純粋な眼差しを前にして、その言葉を続けることができなかった。ここで断れば、この心優しき皇女を深く傷つけてしまうだろう。そう思うと、どうしても「嫌だ」とは言えなかった。
「……」
大和の沈黙を、肯定と受け取ったのだろう。エリアーナの表情が、ぱっと花が咲くように明るくなった。周囲の船員たちからも、安堵と歓喜の声が上がる。
「英雄ヤマト様、万歳!」
「我々の船に、伝説のテラノイドが!」
熱狂する船員たち。満面の笑みを浮かべる皇女。そして、そんな彼らを誇らしげに見守るゼノ。
その輪の中心で、大和は一人、冷や汗を流していた。
(……なんか、断れる雰囲気じゃないな、これ)
こうして、ただの平凡な会社員だった佐藤大和は、本人の意思とは全く無関係に、流されるまま、アストレア銀河帝国の首都星へと向かうことになったのだった。
地球への帰路は、ますます遠のいたように思えた。
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