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第13話
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皇帝陛下への謁見という、人生最大級の緊張を強いられたイベントの直後。
大和が休む間もなく連れてこられたのは、皇宮の一角にある大晩餐会ホールだった。目が眩むほど高い天井からは、星々を模した巨大なシャンデリアが吊り下げられ、磨き上げられた床は貴族たちのきらびやかな衣装を映し出している。
「ヤマト様、こちらのお席へ」
エリアーナにエスコートされ、大和は主賓席へと案内された。皇帝陛下と皇女殿下の隣という、恐らく帝国で最も名誉ある席だ。居並ぶ大貴族たちの視線が一斉に突き刺さり、大和の胃は再びキリキリと痛み始める。
(勘弁してくれ……。ただの食事会じゃないのか、これは)
晩餐会が始まると、オーケストラの優雅な演奏と共に、最初の料理が運ばれてきた。
銀色のプレートに乗せられていたのは、人の頭ほどの大きさがある、虹色に輝く甲殻類の料理だった。
「これは、辺境の深海でのみ獲れる『クリスタルクラブ』にございます。その身の美味は比類なく、帝国でも祝いの席でしか供されない逸品ですわ」
エリアーナが嬉しそうに説明してくれる。確かに、香ばしいソースの匂いが食欲をそそる。だが、一つ問題があった。このクリスタルクラブ、その名の通り、甲羅がまるで水晶のように硬質化しているのだ。
周囲の貴族たちは、おもむろにテーブルに用意された専用の小型カッターを取り出していた。レーザーか超音波でも発するのだろうか、いかにも切れ味の鋭そうな特殊な器具だ。
しかし、そんな帝国の常識など知る由もない大和は、ごく自然に、テーブルに並べられた銀色のナイフとフォークを手に取った。
「(へえ、綺麗なカニだな。日本のタラバガニみたいなものか)」
彼の素朴な行動は、周囲の貴族たちの注目を集めた。
「おい、見ろ。英雄殿はナイフで召し上がるおつもりだ」
「無謀な。クリスタルクラブの甲羅は、並の金属など刃が立たぬぞ」
「異邦の方故、作法をご存じないのだろう。恥をかかれる前に誰かお教えすべきでは?」
囁かれる声。侮蔑と、好奇と、そして一抹の期待。
ゼノは隣の席で「ヤマト様のことだ、何か我々の知らぬ流儀があるに違いない」と固唾を飲んで見守り、エリアーナは「ヤマト様がなさることなら、きっと素晴らしいことに決まっているわ」とキラキラした瞳で彼を見つめている。
そんな周囲の思惑をよそに、大和はただ、美味しそうな料理を前にしていた。
地球で少し焼きすぎたトーストを切るくらいの感覚で、ナイフの刃を甲羅に当てる。そして、すっと、ごく自然に力を込めた。
サクッ。
まるで熟したメロンでも切るかのような、軽やかな手応え。
虹色の甲羅は全く抵抗を見せず、滑らかに切り分けられていく。大和はそのまま食べやすい大きさに切り分けると、フォークでその白い身をすくい上げ、口へと運んだ。
「ん、うまい」
プリプリとした食感と、濃厚な旨味が口の中に広がる。思わず顔がほころんだ。
その瞬間、あれほど優雅に流れていた音楽が、ピタリと止んだ。
貴族たちは、まるで信じられない奇術でも見たかのように、目を剥いて硬直している。ある者は手にしていたカッターを落とし、ある者は開いた口が塞がらない。
「う、そだろ……」
「あの銀のナイフで……クリスタルクラブの甲羅を……?」
「バターのように切ったぞ、今……」
ホールは水を打ったように静まり返り、そこに大和がカニの身を咀嚼する音だけが、やけに大きく響いていた。
彼は、ちらりと手にしたナイフに目をやる。
「このナイフ、すごい切れ味だなあ。どこのメーカーだろう」
その純粋な呟きは、絶句する貴族たちの耳に「我にとっては、この程度の硬さ、ないに等しい」という、神の領域からの宣告のように聞こえていた。
大和が休む間もなく連れてこられたのは、皇宮の一角にある大晩餐会ホールだった。目が眩むほど高い天井からは、星々を模した巨大なシャンデリアが吊り下げられ、磨き上げられた床は貴族たちのきらびやかな衣装を映し出している。
「ヤマト様、こちらのお席へ」
エリアーナにエスコートされ、大和は主賓席へと案内された。皇帝陛下と皇女殿下の隣という、恐らく帝国で最も名誉ある席だ。居並ぶ大貴族たちの視線が一斉に突き刺さり、大和の胃は再びキリキリと痛み始める。
(勘弁してくれ……。ただの食事会じゃないのか、これは)
晩餐会が始まると、オーケストラの優雅な演奏と共に、最初の料理が運ばれてきた。
銀色のプレートに乗せられていたのは、人の頭ほどの大きさがある、虹色に輝く甲殻類の料理だった。
「これは、辺境の深海でのみ獲れる『クリスタルクラブ』にございます。その身の美味は比類なく、帝国でも祝いの席でしか供されない逸品ですわ」
エリアーナが嬉しそうに説明してくれる。確かに、香ばしいソースの匂いが食欲をそそる。だが、一つ問題があった。このクリスタルクラブ、その名の通り、甲羅がまるで水晶のように硬質化しているのだ。
周囲の貴族たちは、おもむろにテーブルに用意された専用の小型カッターを取り出していた。レーザーか超音波でも発するのだろうか、いかにも切れ味の鋭そうな特殊な器具だ。
しかし、そんな帝国の常識など知る由もない大和は、ごく自然に、テーブルに並べられた銀色のナイフとフォークを手に取った。
「(へえ、綺麗なカニだな。日本のタラバガニみたいなものか)」
彼の素朴な行動は、周囲の貴族たちの注目を集めた。
「おい、見ろ。英雄殿はナイフで召し上がるおつもりだ」
「無謀な。クリスタルクラブの甲羅は、並の金属など刃が立たぬぞ」
「異邦の方故、作法をご存じないのだろう。恥をかかれる前に誰かお教えすべきでは?」
囁かれる声。侮蔑と、好奇と、そして一抹の期待。
ゼノは隣の席で「ヤマト様のことだ、何か我々の知らぬ流儀があるに違いない」と固唾を飲んで見守り、エリアーナは「ヤマト様がなさることなら、きっと素晴らしいことに決まっているわ」とキラキラした瞳で彼を見つめている。
そんな周囲の思惑をよそに、大和はただ、美味しそうな料理を前にしていた。
地球で少し焼きすぎたトーストを切るくらいの感覚で、ナイフの刃を甲羅に当てる。そして、すっと、ごく自然に力を込めた。
サクッ。
まるで熟したメロンでも切るかのような、軽やかな手応え。
虹色の甲羅は全く抵抗を見せず、滑らかに切り分けられていく。大和はそのまま食べやすい大きさに切り分けると、フォークでその白い身をすくい上げ、口へと運んだ。
「ん、うまい」
プリプリとした食感と、濃厚な旨味が口の中に広がる。思わず顔がほころんだ。
その瞬間、あれほど優雅に流れていた音楽が、ピタリと止んだ。
貴族たちは、まるで信じられない奇術でも見たかのように、目を剥いて硬直している。ある者は手にしていたカッターを落とし、ある者は開いた口が塞がらない。
「う、そだろ……」
「あの銀のナイフで……クリスタルクラブの甲羅を……?」
「バターのように切ったぞ、今……」
ホールは水を打ったように静まり返り、そこに大和がカニの身を咀嚼する音だけが、やけに大きく響いていた。
彼は、ちらりと手にしたナイフに目をやる。
「このナイフ、すごい切れ味だなあ。どこのメーカーだろう」
その純粋な呟きは、絶句する貴族たちの耳に「我にとっては、この程度の硬さ、ないに等しい」という、神の領域からの宣告のように聞こえていた。
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