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第14話
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クリスタルクラブ切断事件により、晩餐会は異様な雰囲気のまま幕を閉じた。
大和の存在は、貴族たちの間で「規格外」から「理解不能」へとランクアップし、畏敬の念はもはや畏怖のそれに近づきつつあった。
晩餐会の翌日。
大和は、皇帝陛下から直々に下賜されたという、皇宮の一角にある豪奢な屋敷で目を覚ました。広すぎるベッド、無駄に高い天井。落ち着かないことこの上ない。
「(日本の俺のワンルーム、今頃どうなってるかな……)」
ホームシックに浸っていると、控えめなノックの音と共に、侍従が入室を告げた。
「ヤマト様、近衛騎士団長ゼノ・グレイウォール様が、ご挨拶にとお見えです」
ゼノ。宇宙船『アルテミス』で世話になった、あの真面目な騎士団長だ。帝都に来てからまともに話す相手もいなかった大和は、少しだけ安堵の息を漏らした。
応接室に通されると、そこには既にゼノが直立不動で待っていた。彼は大和の姿を認めると、背筋を伸ばし、帝国式の最も丁寧な敬礼をする。
「ヤマト様、昨夜はごゆっくりお休みになれましたでしょうか」
「あ、ゼノさん。そんなに固くならないでください。船では本当に助かりました」
大和がにこやかに言うと、ゼノは「もったいないお言葉です」と顔を伏せた。その表情は、以前にも増して硬い。
「本日は、ヤマト様を我が近衛騎士団の『名誉騎士団長』としてお迎えするにあたり、騎士たちへのご紹介をさせていただきたく、参上いたしました」
「め、名誉騎士団長!?」
またしても、とんでもない役職が降ってきた。断る暇もなく、話はどんどん進んでいく。流されやすい性格の大和は、もはや抵抗する気力もなかった。
ゼノに案内され、大和は皇宮に隣接する広大な練兵場へと向かった。
そこには、銀色に輝く甲冑を身に纏った百名ほどの騎士たちが、一糸乱れぬ隊列を組んで待ち構えていた。彼らこそ、帝国の精鋭中の精鋭、皇族の守護を担う近衛騎士団だった。
その視線は、決して友好的なものではなかった。
あるのは、鋭い猜疑心と、剥き出しの敵愾心。
彼らにとって、騎士とは血の滲むような訓練と、戦場での実績によってのみ得られる名誉ある称号だ。どこの馬の骨とも知れない異邦人が、海賊を退けたという、にわかには信じがたい武勇伝だけで、自分たちの上に立つ。それが許せないのは、騎士としての誇りがあるからこそだった。
ゼノが壇上に立ち、大和を「救国の英雄、ヤマト・サトウ様である」と紹介しても、騎士たちの雰囲気は変わらない。むしろ、冷ややかな視線はより一層強くなった。
一人の、特に体格の良い騎士が前に進み出た。副団長のガレイドだ。
「ゼノ団長、失礼ながら申し上げます。我々はこの方を英雄とは認められません。その力が本物であるというのなら、是非とも我々にご指南いただきたい!」
その言葉は、騎士団全体の総意だった。
「そうだ、そうだ!」「お手合わせを!」と、声が上がる。完全に喧嘩を売られている状況だ。
ゼノが「貴様ら、無礼であろう!」と一喝するが、彼らの勢いは止まらない。
大和は、困り果てて頭を掻いた。
(ご指南って……俺、ただのサラリーマンなんだけどな……)
しかし、ここで引き下がれば、ゼノの顔に泥を塗ることになる。そして何より、この男たちのプライドを無下にするのは、同じ男として気が引けた。
「……分かりました。お手合わせ、お受けします」
大和がそう告げた瞬間、練兵場の空気がシンと静まり返った。
騎士たちの目に、好戦的な光が宿る。
ゼノは、隣で青い顔をしていた。
「ヤマト様、お気をつけください。彼らは手加減を知りませぬぞ……!」
その心配が、どちらに対するものなのか。
この時のゼノ自身にも、まだ分かっていなかった。```
大和の存在は、貴族たちの間で「規格外」から「理解不能」へとランクアップし、畏敬の念はもはや畏怖のそれに近づきつつあった。
晩餐会の翌日。
大和は、皇帝陛下から直々に下賜されたという、皇宮の一角にある豪奢な屋敷で目を覚ました。広すぎるベッド、無駄に高い天井。落ち着かないことこの上ない。
「(日本の俺のワンルーム、今頃どうなってるかな……)」
ホームシックに浸っていると、控えめなノックの音と共に、侍従が入室を告げた。
「ヤマト様、近衛騎士団長ゼノ・グレイウォール様が、ご挨拶にとお見えです」
ゼノ。宇宙船『アルテミス』で世話になった、あの真面目な騎士団長だ。帝都に来てからまともに話す相手もいなかった大和は、少しだけ安堵の息を漏らした。
応接室に通されると、そこには既にゼノが直立不動で待っていた。彼は大和の姿を認めると、背筋を伸ばし、帝国式の最も丁寧な敬礼をする。
「ヤマト様、昨夜はごゆっくりお休みになれましたでしょうか」
「あ、ゼノさん。そんなに固くならないでください。船では本当に助かりました」
大和がにこやかに言うと、ゼノは「もったいないお言葉です」と顔を伏せた。その表情は、以前にも増して硬い。
「本日は、ヤマト様を我が近衛騎士団の『名誉騎士団長』としてお迎えするにあたり、騎士たちへのご紹介をさせていただきたく、参上いたしました」
「め、名誉騎士団長!?」
またしても、とんでもない役職が降ってきた。断る暇もなく、話はどんどん進んでいく。流されやすい性格の大和は、もはや抵抗する気力もなかった。
ゼノに案内され、大和は皇宮に隣接する広大な練兵場へと向かった。
そこには、銀色に輝く甲冑を身に纏った百名ほどの騎士たちが、一糸乱れぬ隊列を組んで待ち構えていた。彼らこそ、帝国の精鋭中の精鋭、皇族の守護を担う近衛騎士団だった。
その視線は、決して友好的なものではなかった。
あるのは、鋭い猜疑心と、剥き出しの敵愾心。
彼らにとって、騎士とは血の滲むような訓練と、戦場での実績によってのみ得られる名誉ある称号だ。どこの馬の骨とも知れない異邦人が、海賊を退けたという、にわかには信じがたい武勇伝だけで、自分たちの上に立つ。それが許せないのは、騎士としての誇りがあるからこそだった。
ゼノが壇上に立ち、大和を「救国の英雄、ヤマト・サトウ様である」と紹介しても、騎士たちの雰囲気は変わらない。むしろ、冷ややかな視線はより一層強くなった。
一人の、特に体格の良い騎士が前に進み出た。副団長のガレイドだ。
「ゼノ団長、失礼ながら申し上げます。我々はこの方を英雄とは認められません。その力が本物であるというのなら、是非とも我々にご指南いただきたい!」
その言葉は、騎士団全体の総意だった。
「そうだ、そうだ!」「お手合わせを!」と、声が上がる。完全に喧嘩を売られている状況だ。
ゼノが「貴様ら、無礼であろう!」と一喝するが、彼らの勢いは止まらない。
大和は、困り果てて頭を掻いた。
(ご指南って……俺、ただのサラリーマンなんだけどな……)
しかし、ここで引き下がれば、ゼノの顔に泥を塗ることになる。そして何より、この男たちのプライドを無下にするのは、同じ男として気が引けた。
「……分かりました。お手合わせ、お受けします」
大和がそう告げた瞬間、練兵場の空気がシンと静まり返った。
騎士たちの目に、好戦的な光が宿る。
ゼノは、隣で青い顔をしていた。
「ヤマト様、お気をつけください。彼らは手加減を知りませぬぞ……!」
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この時のゼノ自身にも、まだ分かっていなかった。```
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