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第24話
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暗殺者たちが扉一枚に完敗したという報告を受けたヴァリウス公爵は、激昂のあまり、書斎の調度品を叩き割ったという。
もちろん、そんな裏の騒動など、大和の知るところではなかった。彼の日常は、相変わらず奇妙に平和なままだった。
そんなある日、皇宮がにわかに不穏な空気に包まれた。
帝国の食糧供給を一手に担う、複数の農業惑星で、原因不明の病害が同時に発生したというのだ。主要な穀物である『アスト麦』が、収穫を目前にして次々と枯れ、腐っていくという。
このままでは、帝国の食糧供給ラインは麻痺し、大規模な飢饉が起こりかねない。
事態を重く見た皇帝は、原因究明のため、専門の科学者チームと、護衛としてゼノ率いる近衛騎士団を、被害が最も深刻な農業惑星『デメテル』へと派遣することを決定した。
そして、その視察団に、なぜか大和も同行することになった。
発案者は、エリアーナだった。
「ヤマト様は、食において我々の及ばぬ深遠な知識をお持ちです。きっと、この未曾有の危機を救うための、新たなお知恵を授けてくださるに違いありませんわ!」
彼女の、確信に満ちた瞳。
「そうだ! ヤマト師匠がいれば百人力だ!」と盛り上がる騎士団。
「うむ。英雄殿の同行、心強い限りだ」と頷く皇帝。
(いや、俺はただ生姜焼きを焼いただけなんだが……)
大和の心の声は、誰にも届かない。もはや、この国では「ヤマトに相談すれば何でも解決する」という、謎の信仰が生まれつつあった。
こうして、大和は大型の視察船に乗り込み、惑星デメテルへと向かうことになった。
デメテルに到着して、大和が目にしたのは、悲惨な光景だった。見渡す限りの広大な畑が、茶色く枯れ果てている。本来ならば黄金色に輝くはずのアスト麦の穂は、どれも力なく項垂れ、根本からは腐敗臭が漂っていた。
「これは、ひどい……」
農夫たちは力なく地面に座り込み、天を仰いでいる。
科学者たちが土壌や枯れた麦を採取し、懸命に分析を進めるが、原因は一向に掴めない。未知のウイルスか、あるいは新種の細菌か。有効な手立てが見つからないまま、時間だけが過ぎていく。
大和は、専門家でもない自分に何ができるわけでもないと思いつつも、ゼノやエリアーナ(彼女も心配してついてきていた)と共に、枯れた畑を見て回っていた。
ふと、彼は農夫の一人が呟いた言葉を耳にした。
「何年も、何十年も、この土地でアスト麦だけを作り続けてきた。こんなことは初めてだ……」
その言葉に、大和はピクリと反応した。
(同じ土地で、同じ作物だけを……?)
地球の、それも日本の、小学生でも習う農業の基礎知識が、彼の脳裏をよぎった。
「あの、ちょっといいですか?」
大和は、困り果てた顔で分析データを睨んでいた科学者のリーダーに、おずおずと話しかけた。
「この畑って、ずっとアスト麦だけを作ってるんですか?」
「いかにも。それが何か?」
科学者は、素人の質問に怪訝な顔で答える。
「いや、俺の故郷の田舎だと、同じ畑で同じものばかり作ってると、土地の栄養が偏って、病気が出やすくなるって言うんですよね。『連作障害』って言うんですけど。だから、たまに全然違う種類の作物を作ったり、畑を休ませたりするって、じいちゃんが……」
大和は、子供の頃に祖父から聞いた話を、ただ思い出すままに口にしただけだった。
それは、地球ではあまりにも当たり前の、「輪作」や「土壌消毒」という概念。
しかし、その言葉を聞いた科学者たちの顔が、みるみるうちに変わっていった。
「土地の……栄養が、偏る……?」
「別の作物を……? まさか……そんな発想が……!」
彼らの目には、大和のその一言が、暗闇を貫く一条の光のように見えていた。
これまで、帝国の農業技術は、肥料と品種改良によって、単一作物の大量生産を極める方向でのみ進化してきた。土地そのものを休ませたり、別の作物で「癒す」などという考え方は、彼らの知識体系には存在しなかったのだ。
科学者のリーダーは、震える手で大和の肩を掴んだ。
「英雄殿……! あなたは、神か!」
「え、いや、だから、じいちゃんが言ってただけで……」
大和の困惑をよそに、科学者たちは「光明が見えたぞ!」「土壌成分の再分析を急げ!」と、新たな希望に燃えて走り去っていった。
もちろん、そんな裏の騒動など、大和の知るところではなかった。彼の日常は、相変わらず奇妙に平和なままだった。
そんなある日、皇宮がにわかに不穏な空気に包まれた。
帝国の食糧供給を一手に担う、複数の農業惑星で、原因不明の病害が同時に発生したというのだ。主要な穀物である『アスト麦』が、収穫を目前にして次々と枯れ、腐っていくという。
このままでは、帝国の食糧供給ラインは麻痺し、大規模な飢饉が起こりかねない。
事態を重く見た皇帝は、原因究明のため、専門の科学者チームと、護衛としてゼノ率いる近衛騎士団を、被害が最も深刻な農業惑星『デメテル』へと派遣することを決定した。
そして、その視察団に、なぜか大和も同行することになった。
発案者は、エリアーナだった。
「ヤマト様は、食において我々の及ばぬ深遠な知識をお持ちです。きっと、この未曾有の危機を救うための、新たなお知恵を授けてくださるに違いありませんわ!」
彼女の、確信に満ちた瞳。
「そうだ! ヤマト師匠がいれば百人力だ!」と盛り上がる騎士団。
「うむ。英雄殿の同行、心強い限りだ」と頷く皇帝。
(いや、俺はただ生姜焼きを焼いただけなんだが……)
大和の心の声は、誰にも届かない。もはや、この国では「ヤマトに相談すれば何でも解決する」という、謎の信仰が生まれつつあった。
こうして、大和は大型の視察船に乗り込み、惑星デメテルへと向かうことになった。
デメテルに到着して、大和が目にしたのは、悲惨な光景だった。見渡す限りの広大な畑が、茶色く枯れ果てている。本来ならば黄金色に輝くはずのアスト麦の穂は、どれも力なく項垂れ、根本からは腐敗臭が漂っていた。
「これは、ひどい……」
農夫たちは力なく地面に座り込み、天を仰いでいる。
科学者たちが土壌や枯れた麦を採取し、懸命に分析を進めるが、原因は一向に掴めない。未知のウイルスか、あるいは新種の細菌か。有効な手立てが見つからないまま、時間だけが過ぎていく。
大和は、専門家でもない自分に何ができるわけでもないと思いつつも、ゼノやエリアーナ(彼女も心配してついてきていた)と共に、枯れた畑を見て回っていた。
ふと、彼は農夫の一人が呟いた言葉を耳にした。
「何年も、何十年も、この土地でアスト麦だけを作り続けてきた。こんなことは初めてだ……」
その言葉に、大和はピクリと反応した。
(同じ土地で、同じ作物だけを……?)
地球の、それも日本の、小学生でも習う農業の基礎知識が、彼の脳裏をよぎった。
「あの、ちょっといいですか?」
大和は、困り果てた顔で分析データを睨んでいた科学者のリーダーに、おずおずと話しかけた。
「この畑って、ずっとアスト麦だけを作ってるんですか?」
「いかにも。それが何か?」
科学者は、素人の質問に怪訝な顔で答える。
「いや、俺の故郷の田舎だと、同じ畑で同じものばかり作ってると、土地の栄養が偏って、病気が出やすくなるって言うんですよね。『連作障害』って言うんですけど。だから、たまに全然違う種類の作物を作ったり、畑を休ませたりするって、じいちゃんが……」
大和は、子供の頃に祖父から聞いた話を、ただ思い出すままに口にしただけだった。
それは、地球ではあまりにも当たり前の、「輪作」や「土壌消毒」という概念。
しかし、その言葉を聞いた科学者たちの顔が、みるみるうちに変わっていった。
「土地の……栄養が、偏る……?」
「別の作物を……? まさか……そんな発想が……!」
彼らの目には、大和のその一言が、暗闇を貫く一条の光のように見えていた。
これまで、帝国の農業技術は、肥料と品種改良によって、単一作物の大量生産を極める方向でのみ進化してきた。土地そのものを休ませたり、別の作物で「癒す」などという考え方は、彼らの知識体系には存在しなかったのだ。
科学者のリーダーは、震える手で大和の肩を掴んだ。
「英雄殿……! あなたは、神か!」
「え、いや、だから、じいちゃんが言ってただけで……」
大和の困惑をよそに、科学者たちは「光明が見えたぞ!」「土壌成分の再分析を急げ!」と、新たな希望に燃えて走り去っていった。
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