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第32話
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大和の完璧な休日計画は、順調に進んでいた。
午前中は心ゆくまで二度寝、三度寝を繰り返し、昼過ぎにようやくベッドから這い出す。侍従が用意してくれた昼食をのんびりと済ませた後は、応接室のふかふかのソファで、適当な歴史小説を読みながらうたた寝、という最高のコンボを決めていた。
(ああ……最高だ……。これぞ休日……)
大和が幸せを噛みしめ、まどろみの中に沈みかけた、その時だった。
控えめなノックの後、侍従が恐縮しきった様子で顔を覗かせた。
「ヤマト様、大変申し訳ございません。エリアーナ皇女殿下が、どうしてもと……」
その言葉に、大和の眉がぴくりと動く。休日とは。
しかし、相手は皇女だ。追い返すわけにもいかない。大和がため息混じりに許可を出すと、エリアーナが侍女一人だけを連れて、そっと部屋に入ってきた。その手には、小さなバスケットが握られている。
「ヤマト様……。その、大切な修行の日に、申し訳ありません」
エリアーナは、大和の神聖な時間を邪魔してしまったと、心底申し訳なさそうな顔をしている。
「いや、修行じゃなくて、ただの休日だって言ってるんだけど……」
「ご謙遜なさらないでくださいませ。ヤマト様が英気を養うための、大切な一日であることは存じております。ですが、どうしても、これをお渡ししたくて……」
そう言って彼女が差し出したバスケットの中には、手作りのクッキー(もちろん、皇宮の料理長がヤマトのレシピを元に焼いたものだが、エリアーナも少しだけ手伝った)が入っていた。
「わあ、ありがとう。美味しそうだね」
大和が素直に礼を言うと、エリアーナの顔がぱっと明るくなる。
結局、二人は応接室のテラスで、お茶をすることになった。
「それで、ヤマト様。午後のご修行は、瞑想でしたわね。どのようなことをお考えになるのですか?」
「え? あー……まあ、今晩何食べようかな、とか……」
「晩餐の献立! なるほど、食事による気の流れを予測し、最適化を……。やはりヤマト様の思考は、どこまでも深遠ですわ!」
もう、何を言っても無駄だった。
大和は諦めて、エリアーナの質問に当たり障りなく答えることにした。彼女は、大和が地球で送っていたサラリーマン生活の話を、まるで壮大な冒険譚を聞くかのように、目を輝かせて聞いていた。
「まいいん…でんしゃ…? 狭い箱の中に、大勢の人が集まって移動する試練ですの?」
「満員電車は試練じゃないです……」
そんなやり取りをしているうちに、大和は、彼女と話している時間が案外苦痛ではないことに気づいていた。むしろ、その純粋で、少しずれた反応が、心地よくさえ感じ始めていた。
「少し、お庭を歩きませんか?」
エリアーナの提案で、二人は屋敷の美しい庭園を散策することになった。色とりどりの花が咲き乱れ、穏やかな風が頬を撫でる。
その時、エリアーナが珍しい蝶を見つけて駆け寄ろうとして、石畳の僅かな段差に足を取られた。
「きゃっ」
バランスを崩し、倒れそうになる彼女の体を、大和が咄嗟に、しかし優しく支える。
「大丈夫?」
「は、はい……! ありがとうございます」
大和の腕の中にすっぽりと収まる形になり、エリアーナの顔がぼっと赤く染まる。至近距離で感じる彼の匂いや体温に、心臓が早鐘のように鳴り響いた。
大和は、彼女を支えたまま、ふと庭園の向こうに視線をやった。生垣の影や、木々の向こうに、近衛騎士団の甲冑のきらめきが、いくつも見え隠れしている。
(……すごい警備だな。俺、なんかしたっけ)
その物々しい雰囲気に、自分の置かれた状況の異常さを、改めて実感するのだった。
穏やかだが、どこか奇妙な休日は、こうしてゆっくりと過ぎていった。
午前中は心ゆくまで二度寝、三度寝を繰り返し、昼過ぎにようやくベッドから這い出す。侍従が用意してくれた昼食をのんびりと済ませた後は、応接室のふかふかのソファで、適当な歴史小説を読みながらうたた寝、という最高のコンボを決めていた。
(ああ……最高だ……。これぞ休日……)
大和が幸せを噛みしめ、まどろみの中に沈みかけた、その時だった。
控えめなノックの後、侍従が恐縮しきった様子で顔を覗かせた。
「ヤマト様、大変申し訳ございません。エリアーナ皇女殿下が、どうしてもと……」
その言葉に、大和の眉がぴくりと動く。休日とは。
しかし、相手は皇女だ。追い返すわけにもいかない。大和がため息混じりに許可を出すと、エリアーナが侍女一人だけを連れて、そっと部屋に入ってきた。その手には、小さなバスケットが握られている。
「ヤマト様……。その、大切な修行の日に、申し訳ありません」
エリアーナは、大和の神聖な時間を邪魔してしまったと、心底申し訳なさそうな顔をしている。
「いや、修行じゃなくて、ただの休日だって言ってるんだけど……」
「ご謙遜なさらないでくださいませ。ヤマト様が英気を養うための、大切な一日であることは存じております。ですが、どうしても、これをお渡ししたくて……」
そう言って彼女が差し出したバスケットの中には、手作りのクッキー(もちろん、皇宮の料理長がヤマトのレシピを元に焼いたものだが、エリアーナも少しだけ手伝った)が入っていた。
「わあ、ありがとう。美味しそうだね」
大和が素直に礼を言うと、エリアーナの顔がぱっと明るくなる。
結局、二人は応接室のテラスで、お茶をすることになった。
「それで、ヤマト様。午後のご修行は、瞑想でしたわね。どのようなことをお考えになるのですか?」
「え? あー……まあ、今晩何食べようかな、とか……」
「晩餐の献立! なるほど、食事による気の流れを予測し、最適化を……。やはりヤマト様の思考は、どこまでも深遠ですわ!」
もう、何を言っても無駄だった。
大和は諦めて、エリアーナの質問に当たり障りなく答えることにした。彼女は、大和が地球で送っていたサラリーマン生活の話を、まるで壮大な冒険譚を聞くかのように、目を輝かせて聞いていた。
「まいいん…でんしゃ…? 狭い箱の中に、大勢の人が集まって移動する試練ですの?」
「満員電車は試練じゃないです……」
そんなやり取りをしているうちに、大和は、彼女と話している時間が案外苦痛ではないことに気づいていた。むしろ、その純粋で、少しずれた反応が、心地よくさえ感じ始めていた。
「少し、お庭を歩きませんか?」
エリアーナの提案で、二人は屋敷の美しい庭園を散策することになった。色とりどりの花が咲き乱れ、穏やかな風が頬を撫でる。
その時、エリアーナが珍しい蝶を見つけて駆け寄ろうとして、石畳の僅かな段差に足を取られた。
「きゃっ」
バランスを崩し、倒れそうになる彼女の体を、大和が咄嗟に、しかし優しく支える。
「大丈夫?」
「は、はい……! ありがとうございます」
大和の腕の中にすっぽりと収まる形になり、エリアーナの顔がぼっと赤く染まる。至近距離で感じる彼の匂いや体温に、心臓が早鐘のように鳴り響いた。
大和は、彼女を支えたまま、ふと庭園の向こうに視線をやった。生垣の影や、木々の向こうに、近衛騎士団の甲冑のきらめきが、いくつも見え隠れしている。
(……すごい警備だな。俺、なんかしたっけ)
その物々しい雰囲気に、自分の置かれた状況の異常さを、改めて実感するのだった。
穏やかだが、どこか奇妙な休日は、こうしてゆっくりと過ぎていった。
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