33 / 100
第33話
しおりを挟む
エリアーナを支えた腕をそっと離し、二人は再び庭園の小道をゆっくりと歩き始めた。先ほどの小さなアクシデントで、二人の間の空気は少しだけ甘く、そして気まずいものになっていた。
その沈黙を破ったのは、エリアーナだった。彼女は、潤んだ瞳で大和を見上げ、ずっと気になっていた純粋な疑問を口にした。
「ヤマト様……。不躾なことをお伺いしても、よろしいでしょうか」
「はい、何でしょう?」
「ヤマト様は、どうしてそんなに何でもお出来になるのですか? 屈強な騎士様ですら敵わないほどの御力で、私や人々を守り、私たちでは思いもつかないような知恵で、帝国をお救いになる。ヤマト様は、一体どのようなお方なのですか?」
その問いは、彼女が抱き続けてきた、偽りのない尊敬と好奇心から生まれたものだった。
大和は、またその手の質問かと、少し困ったように頬を掻いた。
「うーん、だから、俺は本当に普通なんですよ。力だって、別に強くないですし」
「ご謙遜を。あの巨大な広告塔を、片手でお支えになったではございませんか」
「ああ、あれですか。いや、あれは見た目よりずっと軽かったんですよ。多分、使われてる金属が特殊で、中身は空洞だったんじゃないかな。俺の故郷の地球だと、あの大きさの鉄の塊ってもっとこう、ずっしり重いんですけどね」
大和は、地球の常識を基準に、必死で自分の普通さを説明しようとした。
しかし、その言葉を聞いたエリアーナの反応は、彼の予想とは全く違っていた。
彼女は、はっと息を呑み、信じられないものを見るような目で大和を見つめた。
「チキュウでは……あれが、普通なのですか……? あれよりも、もっと重いものが、当たり前のように存在していると……?」
その、心からの驚愕に満ちた声。
その瞬間、大和の頭の中で、バラバラだったパズルのピースが、カチリと音を立ててはまるような感覚があった。
――そういえば、握力計を壊した時、船医は呆然としていた。
――廊下を走っただけで、床が軋み、人が吹き飛んだ。
――船のハッチのボルトは、指で簡単に捻じ切れた。
――宇宙海賊のビームは、ただの金属パイプで打ち返せた。
――晩餐会で出た硬い甲羅は、普通のナイフでバターのように切れた。
――騎士団の必殺剣は、指でつまんで止められた。
一つ一つの出来事が、脳裏に蘇る。
今まで、彼はその全てを「この宇宙の物質が脆い」「この星の人たちが虚弱だ」という方向で解釈してきた。
だが、もし。
もし、そうじゃないとしたら?
もし、この宇宙の基準が「普通」で、自分の、そして自分が育った「地球」の基準が、異常なのだとしたら?
「……もしかして」
大和は、自分の手のひらをじっと見つめた。
ごく普通の、ペンだこが少し硬くなった、三十手前の男の手だ。しかし、今、この手は、彼にとって全く未知のもののように見えていた。
「俺が、おかしいのか……?」
初めて抱いた、自分自身への疑念。
それは、まだ確信には遠い、漠然とした違和感だった。
だが、自分がとんでもない勘違いの世界に迷い込んでいるのかもしれないという可能性に、彼はこの時、ようやく、ほんの少しだけ気づき始めたのだった。
穏やかな休日の午後。
大和は、自分の存在そのものが持つ意味を、初めて真剣に考え始めていた。
その沈黙を破ったのは、エリアーナだった。彼女は、潤んだ瞳で大和を見上げ、ずっと気になっていた純粋な疑問を口にした。
「ヤマト様……。不躾なことをお伺いしても、よろしいでしょうか」
「はい、何でしょう?」
「ヤマト様は、どうしてそんなに何でもお出来になるのですか? 屈強な騎士様ですら敵わないほどの御力で、私や人々を守り、私たちでは思いもつかないような知恵で、帝国をお救いになる。ヤマト様は、一体どのようなお方なのですか?」
その問いは、彼女が抱き続けてきた、偽りのない尊敬と好奇心から生まれたものだった。
大和は、またその手の質問かと、少し困ったように頬を掻いた。
「うーん、だから、俺は本当に普通なんですよ。力だって、別に強くないですし」
「ご謙遜を。あの巨大な広告塔を、片手でお支えになったではございませんか」
「ああ、あれですか。いや、あれは見た目よりずっと軽かったんですよ。多分、使われてる金属が特殊で、中身は空洞だったんじゃないかな。俺の故郷の地球だと、あの大きさの鉄の塊ってもっとこう、ずっしり重いんですけどね」
大和は、地球の常識を基準に、必死で自分の普通さを説明しようとした。
しかし、その言葉を聞いたエリアーナの反応は、彼の予想とは全く違っていた。
彼女は、はっと息を呑み、信じられないものを見るような目で大和を見つめた。
「チキュウでは……あれが、普通なのですか……? あれよりも、もっと重いものが、当たり前のように存在していると……?」
その、心からの驚愕に満ちた声。
その瞬間、大和の頭の中で、バラバラだったパズルのピースが、カチリと音を立ててはまるような感覚があった。
――そういえば、握力計を壊した時、船医は呆然としていた。
――廊下を走っただけで、床が軋み、人が吹き飛んだ。
――船のハッチのボルトは、指で簡単に捻じ切れた。
――宇宙海賊のビームは、ただの金属パイプで打ち返せた。
――晩餐会で出た硬い甲羅は、普通のナイフでバターのように切れた。
――騎士団の必殺剣は、指でつまんで止められた。
一つ一つの出来事が、脳裏に蘇る。
今まで、彼はその全てを「この宇宙の物質が脆い」「この星の人たちが虚弱だ」という方向で解釈してきた。
だが、もし。
もし、そうじゃないとしたら?
もし、この宇宙の基準が「普通」で、自分の、そして自分が育った「地球」の基準が、異常なのだとしたら?
「……もしかして」
大和は、自分の手のひらをじっと見つめた。
ごく普通の、ペンだこが少し硬くなった、三十手前の男の手だ。しかし、今、この手は、彼にとって全く未知のもののように見えていた。
「俺が、おかしいのか……?」
初めて抱いた、自分自身への疑念。
それは、まだ確信には遠い、漠然とした違和感だった。
だが、自分がとんでもない勘違いの世界に迷い込んでいるのかもしれないという可能性に、彼はこの時、ようやく、ほんの少しだけ気づき始めたのだった。
穏やかな休日の午後。
大和は、自分の存在そのものが持つ意味を、初めて真剣に考え始めていた。
13
あなたにおすすめの小説
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)
長根 志遥
ファンタジー
命令を受けて自らを暗殺に来た、身寄りのない不思議な少女エミリスを引き取ることにした伯爵家四男のアティアス。
彼女は彼と旅に出るため魔法の練習を始めると、才能を一気に開花させる。
他人と違う容姿と、底なしの胃袋、そして絶大な魔力。メイドだった彼女は家事も万能。
超有能物件に見えて、実は時々へっぽこな彼女は、様々な事件に巻き込まれつつも彼の役に立とうと奮闘する。
そして、伯爵家領地を巡る争いの果てに、彼女は自分が何者なのかを知る――。
◆
「……って、そんなに堅苦しく書いても誰も読んでくれませんよ? アティアス様ー」
「あらすじってそういうもんだろ?」
「ダメです! ここはもっとシンプルに書かないと本編を読んでくれません!」
「じゃあ、エミーならどんな感じで書くんだ?」
「……そうですねぇ。これはアティアス様が私とイチャイチャしながら、事件を強引に力で解決していくってお話ですよ、みなさん」
「ストレートすぎだろ、それ……」
「分かりやすくていいじゃないですかー。不幸な生い立ちの私が幸せになるところを、是非是非読んでみてくださいね(はーと)」
◆HOTランキング最高2位、お気に入り1400↑ ありがとうございます!
俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた
夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。
数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。
トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。
俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる