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第十七話 星涙のペンダント
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スケルトンナイトが守っていた扉の先は、空気が一変していた。淀んだ死の気配は消え去り、清浄で澄み切った空気が満ちている。そこは円形の小部屋で、壁には天体を模したと思われる美しい彫刻が施されていた。
そして、部屋の中央には一つの泉があった。
泉は決して大きくない。しかし、その水は底から湧き出る光によって、まるで液体状の月光のように淡く輝いていた。水面は鏡のように静かで、見ているだけで心が洗われるような神聖さを放っている。
(これが、この遺跡の中心か……)
おそらく、この「聖なる泉」の力が、地下に溜まった邪気を抑え込んでいたのだろう。だが、長い年月の間に泉の力は弱まり、抑えきれなくなった邪気がアンデッドを発生させた。そして、地上のエリアナがその弱まった泉の力を無意識に補い、結果として彼女自身の力を消耗していた。全ての辻褄が合った。
レクスは泉のほとりに膝をついた。水面に顔を近づけると、ひんやりとした心地よい霊気が肌を撫でる。彼は水筒を取り出し、この聖なる水を汲もうとした。
その時、水底に何か文字が刻まれているのが見えた。
レクスは手を伸ばし、泉の水をかき分ける。すると、泉の底に一枚の石版が嵌め込まれているのが分かった。そこには、古代の文字で何かが記されている。幸い、冒険者として学んだ古代語の知識で、なんとか読み解くことができた。
『星の力を宿す涙石に、聖なる泉の滴を注ぎ、乙女の祈りを捧げよ。さすれば、月光は鎖となりて荒ぶる聖力を鎮め、星涙のペンダントが生まれん』
「星涙のペンダント……」
レクスは呟いた。やはり、壁のレリーフに描かれていたのはこれだ。エリアナの暴走する聖力を安定させるための神話級の遺物。
必要な素材は二つ。『聖なる泉の水』と『星の力を宿す涙石』。
聖なる泉の水は、今目の前にある。レクスは慎重に、水筒にその輝く水を満たした。
問題は、もう一つの素材『星の力を宿す涙石』だ。そんなものは持っていない。
だが、レクスには心当たりがあった。いや、確信があった。
(これこそ、俺の出番だ)
レクスは革袋から、この遺跡で倒したアンデッドたちから回収した魔石を取り出した。スケルトンやゾンビの魔石。そして、スケルトンナイトが遺した黒く変色した魔石の欠片。
これらを素材とし、【ガチャ師】スキルを使えば、あるいは。
「星の力」というキーワード。この地下遺跡は、地上から最も星の光が届かない場所だ。そんな場所で「星」の名を冠するアイテムを生成するには、おそらく相応の触媒が必要になる。
レクスは立ち上がり、泉の水を満たした水筒を胸に抱いた。
「待ってろ、エリアナ」
彼は急いで踵を返し、来た道を引き返し始めた。黒騎士と死闘を繰り広げた広間を抜け、アンデッドを浄化した通路を駆け抜ける。
早く彼女の元へ戻らなければ。
そして、俺のスキルが本当に奇跡を起こせるのか、この目で確かめなければならない。
螺旋階段を駆け上がり、地上の光が見えてきた。黴と埃の匂いに混じって、エリアナの微かな聖なる気配を感じる。
レクスは最後の段を飛び越え、荒廃した聖堂へと躍り出た。
祭壇の脇では、エリアナが不安そうな顔で入り口を見つめていた。レクスの姿を認めると、その翡翠色の瞳が安堵と驚きに見開かれる。
「レクスさん……! 無事だったのですね!」
「ああ、約束通り戻ってきた」
レクスは彼女に駆け寄り、その前に膝をついた。
「君を救う方法が分かった。だが、そのためには君の力が必要だ」
「私の、力……?」
エリアナは戸惑いながら、レクスを見つめる。
レクスは彼女の手を取り、その手にアンデッドの魔石を握らせた。そして、自分の手をその上に重ねる。
「これから俺は、あるアイテムを作る。そのためには、純粋な聖なる力と、星への祈りが必要らしい。君にしかできないことだ」
「祈り……」
「そうだ。夜空に輝く星を思い浮かべて、ただ強く祈ってくれ。自分の力が誰かを助ける力になる、と」
エリアナは震える手で、レクスの手を握り返した。彼女はずっと、自分の力を呪いだと信じてきた。誰かを傷つけるだけの力だと思ってきた。
だが、目の前の男は、その力を信じろと言う。誰かを助ける力だと。
エリアナはゆっくりと目を閉じた。彼女の脳裏に、この教会に囚われる前、故郷の森で見た満天の星空が浮かび上がる。
その唇から、か細くも澄んだ祈りの言葉が紡がれ始めた。```
そして、部屋の中央には一つの泉があった。
泉は決して大きくない。しかし、その水は底から湧き出る光によって、まるで液体状の月光のように淡く輝いていた。水面は鏡のように静かで、見ているだけで心が洗われるような神聖さを放っている。
(これが、この遺跡の中心か……)
おそらく、この「聖なる泉」の力が、地下に溜まった邪気を抑え込んでいたのだろう。だが、長い年月の間に泉の力は弱まり、抑えきれなくなった邪気がアンデッドを発生させた。そして、地上のエリアナがその弱まった泉の力を無意識に補い、結果として彼女自身の力を消耗していた。全ての辻褄が合った。
レクスは泉のほとりに膝をついた。水面に顔を近づけると、ひんやりとした心地よい霊気が肌を撫でる。彼は水筒を取り出し、この聖なる水を汲もうとした。
その時、水底に何か文字が刻まれているのが見えた。
レクスは手を伸ばし、泉の水をかき分ける。すると、泉の底に一枚の石版が嵌め込まれているのが分かった。そこには、古代の文字で何かが記されている。幸い、冒険者として学んだ古代語の知識で、なんとか読み解くことができた。
『星の力を宿す涙石に、聖なる泉の滴を注ぎ、乙女の祈りを捧げよ。さすれば、月光は鎖となりて荒ぶる聖力を鎮め、星涙のペンダントが生まれん』
「星涙のペンダント……」
レクスは呟いた。やはり、壁のレリーフに描かれていたのはこれだ。エリアナの暴走する聖力を安定させるための神話級の遺物。
必要な素材は二つ。『聖なる泉の水』と『星の力を宿す涙石』。
聖なる泉の水は、今目の前にある。レクスは慎重に、水筒にその輝く水を満たした。
問題は、もう一つの素材『星の力を宿す涙石』だ。そんなものは持っていない。
だが、レクスには心当たりがあった。いや、確信があった。
(これこそ、俺の出番だ)
レクスは革袋から、この遺跡で倒したアンデッドたちから回収した魔石を取り出した。スケルトンやゾンビの魔石。そして、スケルトンナイトが遺した黒く変色した魔石の欠片。
これらを素材とし、【ガチャ師】スキルを使えば、あるいは。
「星の力」というキーワード。この地下遺跡は、地上から最も星の光が届かない場所だ。そんな場所で「星」の名を冠するアイテムを生成するには、おそらく相応の触媒が必要になる。
レクスは立ち上がり、泉の水を満たした水筒を胸に抱いた。
「待ってろ、エリアナ」
彼は急いで踵を返し、来た道を引き返し始めた。黒騎士と死闘を繰り広げた広間を抜け、アンデッドを浄化した通路を駆け抜ける。
早く彼女の元へ戻らなければ。
そして、俺のスキルが本当に奇跡を起こせるのか、この目で確かめなければならない。
螺旋階段を駆け上がり、地上の光が見えてきた。黴と埃の匂いに混じって、エリアナの微かな聖なる気配を感じる。
レクスは最後の段を飛び越え、荒廃した聖堂へと躍り出た。
祭壇の脇では、エリアナが不安そうな顔で入り口を見つめていた。レクスの姿を認めると、その翡翠色の瞳が安堵と驚きに見開かれる。
「レクスさん……! 無事だったのですね!」
「ああ、約束通り戻ってきた」
レクスは彼女に駆け寄り、その前に膝をついた。
「君を救う方法が分かった。だが、そのためには君の力が必要だ」
「私の、力……?」
エリアナは戸惑いながら、レクスを見つめる。
レクスは彼女の手を取り、その手にアンデッドの魔石を握らせた。そして、自分の手をその上に重ねる。
「これから俺は、あるアイテムを作る。そのためには、純粋な聖なる力と、星への祈りが必要らしい。君にしかできないことだ」
「祈り……」
「そうだ。夜空に輝く星を思い浮かべて、ただ強く祈ってくれ。自分の力が誰かを助ける力になる、と」
エリアナは震える手で、レクスの手を握り返した。彼女はずっと、自分の力を呪いだと信じてきた。誰かを傷つけるだけの力だと思ってきた。
だが、目の前の男は、その力を信じろと言う。誰かを助ける力だと。
エリアナはゆっくりと目を閉じた。彼女の脳裏に、この教会に囚われる前、故郷の森で見た満天の星空が浮かび上がる。
その唇から、か細くも澄んだ祈りの言葉が紡がれ始めた。```
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