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第二十八話 破砕のガントレット
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絶望的な時間稼ぎが始まった。
「エリアナ、下がって! 光で目を眩ませるだけでいい!」
「はい!」
シルヴィの鋭い声が響く。彼女は力を失っていても、その頭脳と経験は健在だった。ミスリルゴーレムは強力だが、動きは直線的で単調だ。彼女はその巨体とパワーを逆手に取り、坑道の柱や瓦礫を利用して巧みに攻撃をいなしていく。まるで、猛牛をあしらう熟練の闘牛士のようだった。
エリアナはシルヴィの指示通り、聖なる光のフラッシュを断続的に放ち、ゴーレムの魔力センサーを攪乱する。そのおかげで、ゴーレムの攻撃は精度を欠き、致命的な一撃を放つには至らない。
だが、それも時間の問題だった。
ゴーレムは学習している。エリアナの閃光に徐々に耐性をつけ始め、シルヴィの逃げ道も的確に塞ぐようになってきた。
「くっ……!」
シルヴィの肩を、ゴーレムの腕が掠めた。革鎧が裂け、彼女は壁まで吹き飛ばされる。
「シルヴィさん!」
エリアナが悲鳴を上げ、すぐに治癒の光を放った。傷は瞬時に癒えるが、シルヴィの体力は確実に奪われていく。エリアナの魔力も、無限ではない。
「まだか、レクス……!」
シルヴィは歯を食いしばり、再び立ち上がった。その瞳には、焦りの色が浮かび始めていた。
その頃、レクスは全ての意識を自分の手のひらに集中させていた。
床に散らばった素材たちが、彼のマナに呼応して輝き始める。
頑丈な樫の棒が砕け、木の繊維が光の糸となる。
猪のなめし革が溶け、強靭な皮膜へと姿を変える。
オートマタの金属片や鉄鉱石は、高温で熱せられたかのように溶解し、一つの塊へと融合していく。
(足りない……! これだけでは、あのミスリルを砕くほどの力にはならない!)
必要なのは、圧倒的な「質量」と「衝撃」。
レクスは周囲を見回した。この中層に満ちている、ミスリルの魔力。壁から剥き出しになっている鉱脈。
(あれも、素材だ!)
レクスは片手を鉱脈の壁にかざした。
「俺の力になれ!」
彼の呼びかけに、鉱脈が共鳴する。壁のミスリルが光の粒子となり、渦を巻いてレクスの元へと集まってきた。それは、この鉱脈そのものが持つ膨大なエネルギーだった。
全ての素材が一つに混じり合う。
木が骨格となり、革が筋肉となる。金属が装甲となり、ミスリルの魔力が神経のようにその中を駆け巡る。
それは、凄まじい破壊の力を秘めた、一つのパーツへと形を成していった。
ゴオオオッ、と地鳴りのような音が響き、光が収束する。
レクスの目の前に浮かんでいたのは、巨大で無骨な、一対のガントレットだった。
【破砕のガントレット】
・神話級装具。オークの王の剛力と、大地の怒りを宿す。
・特殊能力『質量増加』…装着者の意のままに、ガントレットの質量を増減させることが可能。
・特殊能力『衝撃穿通』…打撃の衝撃が、物理的な装甲を無視して内部に直接ダメージを与える。
「これだ……!」
レクスが完成したガントレットに手を伸ばした、まさにその時だった。
「きゃあああ!」
エリアナの悲痛な叫びが響いた。
見ると、シルヴィがゴーレムの拳をまともに食らい、気を失って倒れていた。そして、エリアナ自身もゴーレムに追い詰められ、逃げ場を失っている。
ゴーレムが、無慈悲な鉄槌を彼女めがけて振り下ろそうとしていた。
「エリアナ!」
レクスは叫びながら、完成した【破砕のガントレット】を両腕に装着した。ずしりとした重みが心地よい。
彼は床を蹴った。その速さは、これまでの比ではない。ガントレットが彼の筋力を増幅させているのだ。
エリアナが、死を覚悟してぎゅっと目を閉じる。
だが、衝撃はいつまで経っても来なかった。
彼女がおそるおそる目を開けると、信じられない光景が広がっていた。
レクスが、彼女の前に立ちはだかっていた。
そして、振り下ろされたミスリルゴーレムの巨大な拳を、片腕で。
いとも容易く、受け止めていた。
「……待たせたな」
レクスの口元に、不敵な笑みが浮かぶ。
ゴーレムの拳は、彼のガントレットに食い込み、びくとも動かない。
攻守は、今、完全に入れ替わった。
「エリアナ、下がって! 光で目を眩ませるだけでいい!」
「はい!」
シルヴィの鋭い声が響く。彼女は力を失っていても、その頭脳と経験は健在だった。ミスリルゴーレムは強力だが、動きは直線的で単調だ。彼女はその巨体とパワーを逆手に取り、坑道の柱や瓦礫を利用して巧みに攻撃をいなしていく。まるで、猛牛をあしらう熟練の闘牛士のようだった。
エリアナはシルヴィの指示通り、聖なる光のフラッシュを断続的に放ち、ゴーレムの魔力センサーを攪乱する。そのおかげで、ゴーレムの攻撃は精度を欠き、致命的な一撃を放つには至らない。
だが、それも時間の問題だった。
ゴーレムは学習している。エリアナの閃光に徐々に耐性をつけ始め、シルヴィの逃げ道も的確に塞ぐようになってきた。
「くっ……!」
シルヴィの肩を、ゴーレムの腕が掠めた。革鎧が裂け、彼女は壁まで吹き飛ばされる。
「シルヴィさん!」
エリアナが悲鳴を上げ、すぐに治癒の光を放った。傷は瞬時に癒えるが、シルヴィの体力は確実に奪われていく。エリアナの魔力も、無限ではない。
「まだか、レクス……!」
シルヴィは歯を食いしばり、再び立ち上がった。その瞳には、焦りの色が浮かび始めていた。
その頃、レクスは全ての意識を自分の手のひらに集中させていた。
床に散らばった素材たちが、彼のマナに呼応して輝き始める。
頑丈な樫の棒が砕け、木の繊維が光の糸となる。
猪のなめし革が溶け、強靭な皮膜へと姿を変える。
オートマタの金属片や鉄鉱石は、高温で熱せられたかのように溶解し、一つの塊へと融合していく。
(足りない……! これだけでは、あのミスリルを砕くほどの力にはならない!)
必要なのは、圧倒的な「質量」と「衝撃」。
レクスは周囲を見回した。この中層に満ちている、ミスリルの魔力。壁から剥き出しになっている鉱脈。
(あれも、素材だ!)
レクスは片手を鉱脈の壁にかざした。
「俺の力になれ!」
彼の呼びかけに、鉱脈が共鳴する。壁のミスリルが光の粒子となり、渦を巻いてレクスの元へと集まってきた。それは、この鉱脈そのものが持つ膨大なエネルギーだった。
全ての素材が一つに混じり合う。
木が骨格となり、革が筋肉となる。金属が装甲となり、ミスリルの魔力が神経のようにその中を駆け巡る。
それは、凄まじい破壊の力を秘めた、一つのパーツへと形を成していった。
ゴオオオッ、と地鳴りのような音が響き、光が収束する。
レクスの目の前に浮かんでいたのは、巨大で無骨な、一対のガントレットだった。
【破砕のガントレット】
・神話級装具。オークの王の剛力と、大地の怒りを宿す。
・特殊能力『質量増加』…装着者の意のままに、ガントレットの質量を増減させることが可能。
・特殊能力『衝撃穿通』…打撃の衝撃が、物理的な装甲を無視して内部に直接ダメージを与える。
「これだ……!」
レクスが完成したガントレットに手を伸ばした、まさにその時だった。
「きゃあああ!」
エリアナの悲痛な叫びが響いた。
見ると、シルヴィがゴーレムの拳をまともに食らい、気を失って倒れていた。そして、エリアナ自身もゴーレムに追い詰められ、逃げ場を失っている。
ゴーレムが、無慈悲な鉄槌を彼女めがけて振り下ろそうとしていた。
「エリアナ!」
レクスは叫びながら、完成した【破砕のガントレット】を両腕に装着した。ずしりとした重みが心地よい。
彼は床を蹴った。その速さは、これまでの比ではない。ガントレットが彼の筋力を増幅させているのだ。
エリアナが、死を覚悟してぎゅっと目を閉じる。
だが、衝撃はいつまで経っても来なかった。
彼女がおそるおそる目を開けると、信じられない光景が広がっていた。
レクスが、彼女の前に立ちはだかっていた。
そして、振り下ろされたミスリルゴーレムの巨大な拳を、片腕で。
いとも容易く、受け止めていた。
「……待たせたな」
レクスの口元に、不敵な笑みが浮かぶ。
ゴーレムの拳は、彼のガントレットに食い込み、びくとも動かない。
攻守は、今、完全に入れ替わった。
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