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第三十話 呪いの源泉
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ミスリルゴーレムが守っていた通路の先は、奈落へと続くかのような下り坂になっていた。壁から滲み出す邪悪な気配は、肌を刺すように冷たい。エリアナはその気配に顔をしかめ、胸のペンダントを強く握りしめた。ペンダントが放つ聖なる光が、邪気から彼女を守るように淡い障壁を形成している。
「大丈夫か、エリアナ」
「はい……。でも、とても嫌な感じがします。悲しみと、怒りと、憎しみが渦巻いているような……」
先頭を歩くシルヴィの足取りは、驚くほどしっかりしていた。彼女はこれから対峙するであろう悪夢の元凶を前に、恐怖を押し殺し、剣士としての覚悟を固めていた。その背中からは、もう迷いは感じられない。
やがて、長い下り坂は終わり、三人は息をのむほど広大な空間にたどり着いた。
そこは、ドーム状の巨大な空洞だった。天井にはミスリルの鉱脈が星空のようにきらめき、その幻想的な光が、禍々しい中央の祭壇を照らし出している。
祭壇は、磨き上げられた黒曜石で作られていた。そして、その中央に、一振りの黒い大剣が突き立てられていた。
剣身は闇そのものを凝縮したかのように光を吸い込み、柄の部分はまるで苦しむ人間の顔のような、おぞましい意匠が施されている。その剣こそが、シルヴィの運命を狂わせた呪いの元凶。剣からは、おびただしい量の紫色の呪いのオーラが、陽炎のように立ち上っていた。
「……あれだ」
シルヴィの声が、低く震えた。憎しみと後悔が入り混じった声だった。
三人がゆっくりと祭壇に近づいた、その時だった。
突き立てられた大剣が、キィン、と共鳴するように甲高い音を発した。それに呼応するように、祭壇の背後、影が最も深い場所から、一体の人影がゆっくりと姿を現す。
ボロボロのローブをまとい、その手には先端に巨大な黒水晶が埋め込まれた禍々しい杖が握られている。顔は干からびたミイラのようだが、その眼窩に宿っているのは、紫色の魂の炎だった。
アンデッドの王、リッチ。長い年月、この鉱脈の呪詛を吸い続けてきたことで、より邪悪な存在へと変質した「カースド・リッチ」だ。
『……ククク。久方ぶりの来訪者か。我が安寧を妨げる愚か者は、誰だ』
声ではない。直接、脳内に響いてくるような、冷たい思念だった。
リッチの紫の目が、三人を順番に捉える。そして、シルヴィの姿を認めると、その魂の炎が愉悦に揺らめいた。
『おお、思い出したぞ。半年前、我が呪詛の剣にその矮小な魂を魅入られた、哀れな小娘ではないか。まだ生きておったとはな。再び、我がコレクションに加わりに来たか?』
「貴様……!」
シルヴィの全身から、怒りのオーラが噴き出した。彼女は剣を抜き、リッチを睨みつける。
「貴様さえいなければ! 貴様が、私から全てを奪ったんだ!」
『奪ったのではない。与えたのだ。力を渇望するそなたに、我が慈悲を与えてやったに過ぎん。それを使いこなせなかったのは、そなた自身の弱さ故よ』
リッチの言葉は、シルヴィの心の傷を容赦なく抉る。
だが、今のシルヴィはもう一人ではなかった。
レクスが、彼女の前にすっと進み出た。
「あんたの歪んだ慈悲は、もうたくさんだ。俺たちが、その呪いを終わらせに来た」
エリアナも、レクスの隣に並び立つ。彼女は杖を構え、その瞳には聖女としての強い決意が宿っていた。
「あなたの邪悪な力は、この場所から消え去るべきです!」
『ククク……ハハハハ! 面白い! 小娘二人を守るか、若造よ。その気概や、良し。だが、無力な正義ほど滑稽なものはない』
カースド・リッチが、その禍々しい杖を高く掲げた。
すると、周囲の影から、次々とアンデッドたちが姿を現す。それはただのスケルトンではない。ローブを纏い、邪悪な魔術を操るスケルトンメイジの軍団だった。
『では、我が不死の軍勢と共に、永遠の絶望を味わうがいい。お前たちの魂もまた、我がコレクションに加え、永遠に弄んでやろう!』
リッチの思念が、狂気の哄笑となって空洞に響き渡る。
レクスは【破砕のガントレット】を両腕に装着し、エリアナとシルヴィを背後にかばった。
旧鉱脈の最深部で、三人の冒険者と、アンデッドの王との最後の戦いの火蓋が、今、切って落とされた。
「大丈夫か、エリアナ」
「はい……。でも、とても嫌な感じがします。悲しみと、怒りと、憎しみが渦巻いているような……」
先頭を歩くシルヴィの足取りは、驚くほどしっかりしていた。彼女はこれから対峙するであろう悪夢の元凶を前に、恐怖を押し殺し、剣士としての覚悟を固めていた。その背中からは、もう迷いは感じられない。
やがて、長い下り坂は終わり、三人は息をのむほど広大な空間にたどり着いた。
そこは、ドーム状の巨大な空洞だった。天井にはミスリルの鉱脈が星空のようにきらめき、その幻想的な光が、禍々しい中央の祭壇を照らし出している。
祭壇は、磨き上げられた黒曜石で作られていた。そして、その中央に、一振りの黒い大剣が突き立てられていた。
剣身は闇そのものを凝縮したかのように光を吸い込み、柄の部分はまるで苦しむ人間の顔のような、おぞましい意匠が施されている。その剣こそが、シルヴィの運命を狂わせた呪いの元凶。剣からは、おびただしい量の紫色の呪いのオーラが、陽炎のように立ち上っていた。
「……あれだ」
シルヴィの声が、低く震えた。憎しみと後悔が入り混じった声だった。
三人がゆっくりと祭壇に近づいた、その時だった。
突き立てられた大剣が、キィン、と共鳴するように甲高い音を発した。それに呼応するように、祭壇の背後、影が最も深い場所から、一体の人影がゆっくりと姿を現す。
ボロボロのローブをまとい、その手には先端に巨大な黒水晶が埋め込まれた禍々しい杖が握られている。顔は干からびたミイラのようだが、その眼窩に宿っているのは、紫色の魂の炎だった。
アンデッドの王、リッチ。長い年月、この鉱脈の呪詛を吸い続けてきたことで、より邪悪な存在へと変質した「カースド・リッチ」だ。
『……ククク。久方ぶりの来訪者か。我が安寧を妨げる愚か者は、誰だ』
声ではない。直接、脳内に響いてくるような、冷たい思念だった。
リッチの紫の目が、三人を順番に捉える。そして、シルヴィの姿を認めると、その魂の炎が愉悦に揺らめいた。
『おお、思い出したぞ。半年前、我が呪詛の剣にその矮小な魂を魅入られた、哀れな小娘ではないか。まだ生きておったとはな。再び、我がコレクションに加わりに来たか?』
「貴様……!」
シルヴィの全身から、怒りのオーラが噴き出した。彼女は剣を抜き、リッチを睨みつける。
「貴様さえいなければ! 貴様が、私から全てを奪ったんだ!」
『奪ったのではない。与えたのだ。力を渇望するそなたに、我が慈悲を与えてやったに過ぎん。それを使いこなせなかったのは、そなた自身の弱さ故よ』
リッチの言葉は、シルヴィの心の傷を容赦なく抉る。
だが、今のシルヴィはもう一人ではなかった。
レクスが、彼女の前にすっと進み出た。
「あんたの歪んだ慈悲は、もうたくさんだ。俺たちが、その呪いを終わらせに来た」
エリアナも、レクスの隣に並び立つ。彼女は杖を構え、その瞳には聖女としての強い決意が宿っていた。
「あなたの邪悪な力は、この場所から消え去るべきです!」
『ククク……ハハハハ! 面白い! 小娘二人を守るか、若造よ。その気概や、良し。だが、無力な正義ほど滑稽なものはない』
カースド・リッチが、その禍々しい杖を高く掲げた。
すると、周囲の影から、次々とアンデッドたちが姿を現す。それはただのスケルトンではない。ローブを纏い、邪悪な魔術を操るスケルトンメイジの軍団だった。
『では、我が不死の軍勢と共に、永遠の絶望を味わうがいい。お前たちの魂もまた、我がコレクションに加え、永遠に弄んでやろう!』
リッチの思念が、狂気の哄笑となって空洞に響き渡る。
レクスは【破砕のガントレット】を両腕に装着し、エリアナとシルヴィを背後にかばった。
旧鉱脈の最深部で、三人の冒険者と、アンデッドの王との最後の戦いの火蓋が、今、切って落とされた。
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