ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第29話 対オーク戦略会議

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オークの捕虜から得た情報は、俺たちの戦略を根底から見直させるものだった。
敵の正体は、オークという種族ではない。戦士長ガロンという一人の英雄と、彼が率いる復讐の軍団だ。

この事実を前に、俺は再び幹部たちとリリアを招集し、緊急の戦略会議を開いた。

「状況は変わった」

俺は地面に描かれたオークの砦の図を指し示した。
「我々が正面からこの砦を攻め落とすのは、不可能に近い。たとえ勝てたとしても、残るのは焼け野原と、半数以上の味方の死体だろう。それは、俺が望む結果ではない」

幹部たちは、黙って俺の言葉に耳を傾けている。以前のような弱気な雰囲気はない。オークを生け捕りにしたという成功体験が、彼らに自信を取り戻させていた。彼らは今、王が次にどんな手を示すのか、固唾を飲んで見守っている。

「我々の目的は、オークの殲滅ではない。彼らの技術と労働力、そして戦力を、無傷で手に入れることだ。そのためには、彼らの戦意の根源である戦士長ガロンを、戦場から孤立させる必要がある」

俺は、捕虜から得た情報を全員に共有した。人間への憎悪、ガロンという英雄の存在。そして、彼がオーク族の絶対的な精神的支柱であること。

「つまり、ガロンさえ無力化すれば、残りのオークたちは戦意を喪失する可能性が高い、ということですか?」
リリアが、的確に俺の意図を読み取ってくれた。

「その通りだ。だが、問題はどうやってガロンを孤立させるかだ。奴は、おそらく常に砦の中心で、精鋭に守られているだろう」

俺は、いくつかの作戦案を提示した。
一つは、陽動。別動隊が砦の別の場所を攻撃し、ガロン以外の主力をそちらに引きつける。その隙に、俺が率いる本隊が手薄になったガロンを急襲する。
もう一つは、内部からの切り崩し。何らかの方法でオークの集落内に混乱を引き起こし、彼らが自滅するのを待つ。

「陽動作戦は、陽動部隊の犠牲が大きすぎる。内部からの切り崩しは、効果が出るまでに時間がかかりすぎるし、不確定要素も多い」

どちらの案も、決定打に欠けていた。会議は、しばし沈黙に包まれる。

その沈黙を破ったのは、意外にもリリアだった。
「ゴブ様。あの……一つ、よろしいでしょうか」
「何だ、言ってみろ」
「オークの捕虜は、ガロン様が人間への憎しみでオークたちを束ねている、と言っていました。逆に言えば、彼らの結束の理由は、それしかないのではないでしょうか」

リリアの言葉に、俺はハッとした。

「もし、彼らの憎しみの対象である人間とは別の、もっと厄介で、得体の知れない脅威が現れたとしたら……彼らの団結は、揺らぐのではないでしょうか?」

彼女の言いたいことが、徐々に理解できてきた。

「オークたちは、我々ゴブリンを『虫ケラ』と見下しています。ですが、その虫ケラが、自分たちの常識では考えられないような、不可解で不気味な攻撃を仕掛けてきたら? それが、自分たちの生活基盤そのものを脅かすようなものだったら?」

そうだ。オークは、真正面からの力と力のぶつかり合いには絶対の自信を持っているだろう。だが、彼らが経験したことのない、陰湿で、理解不能な攻撃に対しては、どう対処していいか分からず、混乱するはずだ。

そして、その混乱は、絶対的なリーダーであるガロンへの不信感へと繋がるかもしれない。
「ガロン様のやり方では、この新たな脅威には勝てないのではないか」と。

「リリア、具体的にどうする?」

俺に促され、彼女は少し躊躇しながらも、自分の考えを述べ始めた。
「捕虜の話によれば、彼らの集落は川の近くにあると聞きました。おそらく、それが彼らの唯一の水源のはずです。もし、その川に何らかの異変が起きたら……」

川に、異変。

その言葉で、俺の頭の中に眠っていたスキルが、新たな使い道を得て覚醒した。

巨大毒百足を食って得た、【毒牙】。
そのスキルから抽出した、麻痺毒。

「……面白い」俺は、笑みを浮かべた。「さすがだな、リリア。お前の発想は、俺のゴブリンたちにはないものだ」

俺の賞賛に、リリアは頬を赤らめて俯いた。

作戦の骨子は、決まった。

我々は、オークと直接戦わない。
我々が戦う相手は、オークの生活そのものだ。

「まず、斥候部隊を再度送り込む。目標は、オークの集落が利用している川の上流地点の特定だ」
「次に、狩り部隊は、毒を持つ生物を片っ端から狩り集めろ。毒蛇、毒蛙、毒キノコ。何でもいい。可能な限り多くの『毒』を収集する」
「そして、集めた毒と俺の麻痺毒を混ぜ合わせ、川の上流から流す。それも、一度ではない。断続的に、何度も、何度もだ」

俺の作戦を聞き、幹部たちの顔色が変わった。それは、あまりにもゴブリンらしくない、陰湿で卑劣な戦術だったからだ。だが、同時に、そのえげつなさ故の有効性を、彼らも理解していた。

「川が毒に汚染されれば、オークたちは飲み水に窮する。魚も死に、食料も減るだろう。彼らは、原因を突き止めるために、必ず調査隊を派遣してくるはずだ」

俺は、地図上の川に沿って、いくつかの印をつけた。

「そして、その調査隊を、我々が用意した森の罠で、待ち伏せし、各個撃破する。これを繰り返す。オークたちは、姿の見えない敵からの執拗な攻撃に、徐々に疲弊し、疑心暗鬼に陥る。リーダーであるガロンへの信頼も、揺らぎ始めるだろう」

それは、オークの肉体ではなく、精神を殺すための作戦。
そして、彼らが誇る戦士長ガロンを、孤立した裸の王様にするための、長期的な消耗戦の始まりだった。

「これより、対オーク攻略作戦、第二段階を開始する!」

俺の宣言に、幹部たちは力強く頷いた。彼らの目には、もはや恐怖はない。王が示した、確実な勝利への道筋に対する、絶対的な信頼だけがあった。

俺たちの新たな戦いは、武器を交えることなく、静かに、そして陰湿に始まろうとしていた。
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