デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

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第五話 呪いが結んだ縁

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ルナの案内で、二人は宿を探し始めた。とはいえ、彼女もこの街に来て日が浅い。道を知っているというよりは、プライドにかけてノアの前を歩いているだけだった。あちこちの路地を覗き込み、首をひねる姿は、貴族令嬢の面影を残したまま迷子になっているようで、どこか微笑ましい。ノアは何も言わず、黙ってその後ろをついていった。

三十分ほど歩き回った末、ようやく「梟のねぐら」という名の、比較的まともそうな宿屋を見つけ出した。木造りの古い建物だが、掃除は行き届いているようだ。

「二人なんだが、部屋は空いているか」

ノアがカウンターに立つ恰幅のいい主人に声をかける。主人は二人を値踏みするように一瞥すると、無愛想に答えた。

「空いてるぞ。一部屋銀貨五枚。前払いだ」
「分かった。では二泊……」

ノアが懐から革袋を取り出そうとした、その時だった。

「待て。銀貨五枚だと? 一泊でか? 足元を見ているのではないか?」

ルナが鋭い声で主人を問い詰めた。その剣幕に、主人は面倒くさそうに顔をしかめる。

「嬢ちゃん、ここは辺境だ。物価が高いんだよ。嫌なら他をあたってくれ」
「しかし、王都の最高級宿でも金貨一枚だったぞ。銀貨五枚など法外だ」

ルナの言葉に、今度はノアが目を丸くした。金貨一枚は銀貨十枚に相当する。彼女はとんでもない金銭感覚の持ち主らしい。

「すまない、主人。こいつは世間知らずなんだ。気にしないでくれ」

ノアは慌てて銀貨十枚をカウンターに置き、ルナの腕を引いて部屋へと向かった。彼女はまだ何か言いたげだったが、ノアが「頼むから静かにしてくれ」と小声で頼むと、不満そうに口を閉ざした。

部屋は簡素だった。ベッドが二つと、小さなテーブルが一つあるだけ。それでも、硬い地面と比べれば天国だ。ノアは荷物を置くと、深く息をついた。

「まずは、何か食べよう。宿の食堂でいいか?」
「……好きにしろ」

ルナはまだ少し不機嫌だったが、空腹には勝てないようだった。

食堂で注文したのは、質素な黒パンと豆のスープ、それと干し肉の燻製。しかし、何日もまともな食事にありつけていなかった二人にとっては、これ以上ないご馳走だった。特にルナは、貴族令嬢だったとは思えない勢いで、無言のままスープを口に運んでいる。その姿を見て、ノアは自然と頬が緩んだ。

食事を終え、人心地ついたところで、ノアは切り出した。

「改めて聞くが、君はこれからどうするんだ?」

その問いに、ルナはスープ皿から顔を上げた。その瞳には、再び現実の厳しさが映っている。

「……どうもしない。生きるだけだ。私には、それしか残されていない」
「そうか。実は俺もだ」

ノアは自分のカップを弄びながら、ぽつりぽつりと自分のことを話した。勇者パーティにいたこと。スキルが【呪物錬成】であること。それが不吉で役立たずだとされ、追放されたこと。

「呪物錬成……。初めて聞くスキル名だ」

ルナは興味深そうに呟いた。

「ただ物質に呪いを付与するだけだ。出来上がるのは、見た目も禍々しい呪いの品ばかり。だから、誰も欲しがらない」
「ふむ。錬成、というからには何かを生み出す力なのだろう? 物は試しだ。今、ここで何か作ってみせろ」
「ここで? でも、こんなものでも魔力を使うし、何より不気味なものが……」
「いいからやれ。私がお前の力を判断してやる」

ルナの強い視線に押され、ノアは仕方なく頷いた。彼は食堂の主人に断って、使い古しの木のスプーンを一本借りてきた。

部屋に戻ると、ノアはテーブルに置かれたスプーンに手をかざし、意識を集中させる。

「【呪物錬成】」

彼の呟きと共に、指先から黒い靄が立ち上り、スプーンにゆっくりと染み込んでいく。すると、何の変哲もなかった木のスプーンの表面に、まるで血管のような不吉な黒い文様が浮かび上がった。部屋の空気まで、少し澱んだように感じる。

「ほら、この通りだ。こんな気味の悪いもの、誰も使いたいとは思わないだろう」

ノアはがっくりと肩を落とした。やはり、自分の力は誰の役にも立たない。そう再確認させられただけだった。

だが、ルナの反応は違った。彼女は眉一つ動かさず、その「呪いのスプーン」を手に取ると、じっくりと観察し始めた。指で表面をなぞり、重さを確かめるように手のひらの上で転がしている。

「なるほど……。確かに見た目は禍々しい。だが」

彼女はスプーンの柄で、こつん、とテーブルを軽く叩いた。木と木がぶつかるとは思えない、硬質で澄んだ音が響く。

「この感触……。素材そのものの質が変化しているのではないか? この木、妙に硬く、密度が高まっている気がする」
「え……?」

ノアはきょとんとした。そんなことを考えたこともなかった。彼にとって、このスキルはただ呪いをかけるだけのものだったからだ。

ルナは立ち上がると、今度はスプーンの先端で、部屋の石壁を強く引っ掻いた。キィッ、という甲高い音と共に、硬い石の表面に白い線が刻まれる。スプーンの方は、傷一つついていない。

「……なんだ、これは」

ノアは自分の目を疑った。ただの木のスプーンが、石に傷をつけている。ありえない光景だった。

ルナはゆっくりとノアに向き直った。その蒼い瞳は、今まで見たことがないほど真剣な光を宿している。

「ノア。お前のその力、もしかしたら……とんでもないものかもしれないぞ」

その言葉の意味を、ノアはまだ理解できずにいた。ただ、目の前の少女が見つめているのは、自分が忌み嫌ってきた「呪い」の先にある、まだ見ぬ可能性の光だった。
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