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第六話 呪いの価値
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「とんでもないもの、だって……?」
ノアはルナの言葉が信じられず、呆然と聞き返した。目の前には、石に傷をつけた木のスプーン。そして、それをこともなげにやってのけた銀髪の少女。現実感がまるでなかった。
「ああ。少なくとも、お前が卑下するような役立たずの力ではない」
ルナは断言した。彼女は呪いのスプーンをテーブルに置くと、今度はノアの目を真っ直ぐに見据える。
「これは偶然だ。たまたま、この木が硬かっただけかもしれない」
ノアはかぶりを振った。自分の力を肯定されることに、慣れていなかった。期待して、また裏切られるのが怖かった。
「偶然が二度も三度も続くと思うか?」
ルナは冷静に反論する。彼女は部屋の隅に積んであった薪を一本手に取ると、ノアに突きつけた。
「これで試せ。これもただの薪だ。お前の言う通りなら、禍々しい文様が浮かぶだけで、何も変わらんはずだ」
その蒼い瞳には、有無を言わせぬ力があった。ノアは促されるまま、薪に【呪物錬成】を施す。先ほどと同じように黒い靄が薪に染み込み、表面に不吉な模様が浮かび上がった。
ルナはその薪を受け取ると、躊躇なく窓枠の石材に叩きつけた。
ガキン!
鈍い金属音のような衝撃音が響き渡る。薪は折れるどころか、傷一つついていない。むしろ、叩きつけられた石の方がわずかに欠けていた。
「……うそだろ」
ノアは自分の目を疑った。ただの薪が、石を砕くほどの強度を持つ。彼の常識が、目の前の光景によって根底から覆されていく。
「どうやら、偶然ではないようだな」
ルナは確信を深めたように頷いた。
「お前の【呪物錬成】は、単に呪いを付与するだけのスキルではない。おそらく、その物質が秘めている潜在能力を、呪いを触媒として限界以上に引き出しているのだ」
「潜在能力を、限界以上に……」
そんな大それたことが、自分の力に備わっているとは到底思えなかった。
「だが、勇者パーティにいた頃、敵に使ったデバフはそれほど効果がなかった。せいぜい動きを少し鈍らせる程度で……」
「それは対象が『生物』だったからだろう」とルナは即座に指摘する。「生物には魔力抵抗がある。精神力も働く。だが、無機物は違う。抵抗する意思を持たないからこそ、お前の力が直接、そのものの本質に作用するのではないか?」
ルナの考察は、明快で論理的だった。彼女の聡明さが、ノアの凝り固まった自己評価を少しずつ解きほぐしていく。
「この力は、金になる」
ルナはきっぱりと言い放った。その瞳は、もはや没落貴族令嬢のものではない。鋭い商人のそれだった。
「金に……?」
「そうだ。考えてみろ。絶対に刃こぼれしないナイフ。どんな炎にも耐える鍋。永遠に腐らない木材。これらがどれほどの価値を持つか、お前にも分かるだろう」
彼女の言葉は、ノアに新たな視点を与えた。確かに、そんな道具があれば人々の生活は格段に豊かになるだろう。だが、同時に強い抵抗感も覚えた。
「でも、これは呪いの品だ。不吉なものを世に出して、本当にいいんだろうか」
「呪い? それがどうした。結果として人の役に立つのであれば、それはもはや呪いではなく祝福だ」
ルナはそう言い切ると、ノアの肩を掴んだ。
「いいか、ノア。お前は自分の力を誤解している。そして、私もだ。私の『影』の力も、家を守るための力だったはずが、いつしか呪われた力として蔑まれるようになった。力そのものに善悪はない。それをどう捉え、どう使うかで価値が決まるのだ」
彼女の言葉が、ノアの胸に深く突き刺さる。力に善悪はない。その言葉は、彼がずっと目を背けてきた真実だったのかもしれない。
「私たちは、生きなければならない。そのためには金がいる。お前には、金を生み出す途方もない才能がある。それを使わない手はないだろう」
ルナの説得は、現実的で有無を言わせぬ力強さがあった。彼女の言う通りだ。このまま何もせず、なけなしの金が尽きるのを待つだけでは、二人とも路頭に迷う。
「……分かった」
ノアは、ようやく頷いた。まだ心のどこかで恐怖や戸惑いは消えない。だが、それ以上に、この少女が示してくれた可能性に賭けてみたいという気持ちが勝っていた。
「分かった。やってみるよ」
「よろしい」
ルナは満足そうに微笑んだ。それは、彼女と出会ってから初めて見る、心からの笑みだった。
「では、明日から早速行動に移す。まずは市場で素材を仕入れるぞ。何を作るか、今夜のうちに考えておけ」
「ああ」
ノアは力強く頷いた。
追放され、全てを失ったと思っていた。だが、この辺境の街で、彼は二つのものを手に入れた。一つは、自分の力の本当の価値。そしてもう一つは、その価値を誰よりも信じてくれる、銀髪のパートナーだった。
部屋の窓から差し込む月明かりが、テーブルに置かれた「呪いの薪」を静かに照らしている。それはもはや不吉の象徴ではなく、二人の未来を切り拓く、希望の欠片のように見えた。
ノアはルナの言葉が信じられず、呆然と聞き返した。目の前には、石に傷をつけた木のスプーン。そして、それをこともなげにやってのけた銀髪の少女。現実感がまるでなかった。
「ああ。少なくとも、お前が卑下するような役立たずの力ではない」
ルナは断言した。彼女は呪いのスプーンをテーブルに置くと、今度はノアの目を真っ直ぐに見据える。
「これは偶然だ。たまたま、この木が硬かっただけかもしれない」
ノアはかぶりを振った。自分の力を肯定されることに、慣れていなかった。期待して、また裏切られるのが怖かった。
「偶然が二度も三度も続くと思うか?」
ルナは冷静に反論する。彼女は部屋の隅に積んであった薪を一本手に取ると、ノアに突きつけた。
「これで試せ。これもただの薪だ。お前の言う通りなら、禍々しい文様が浮かぶだけで、何も変わらんはずだ」
その蒼い瞳には、有無を言わせぬ力があった。ノアは促されるまま、薪に【呪物錬成】を施す。先ほどと同じように黒い靄が薪に染み込み、表面に不吉な模様が浮かび上がった。
ルナはその薪を受け取ると、躊躇なく窓枠の石材に叩きつけた。
ガキン!
鈍い金属音のような衝撃音が響き渡る。薪は折れるどころか、傷一つついていない。むしろ、叩きつけられた石の方がわずかに欠けていた。
「……うそだろ」
ノアは自分の目を疑った。ただの薪が、石を砕くほどの強度を持つ。彼の常識が、目の前の光景によって根底から覆されていく。
「どうやら、偶然ではないようだな」
ルナは確信を深めたように頷いた。
「お前の【呪物錬成】は、単に呪いを付与するだけのスキルではない。おそらく、その物質が秘めている潜在能力を、呪いを触媒として限界以上に引き出しているのだ」
「潜在能力を、限界以上に……」
そんな大それたことが、自分の力に備わっているとは到底思えなかった。
「だが、勇者パーティにいた頃、敵に使ったデバフはそれほど効果がなかった。せいぜい動きを少し鈍らせる程度で……」
「それは対象が『生物』だったからだろう」とルナは即座に指摘する。「生物には魔力抵抗がある。精神力も働く。だが、無機物は違う。抵抗する意思を持たないからこそ、お前の力が直接、そのものの本質に作用するのではないか?」
ルナの考察は、明快で論理的だった。彼女の聡明さが、ノアの凝り固まった自己評価を少しずつ解きほぐしていく。
「この力は、金になる」
ルナはきっぱりと言い放った。その瞳は、もはや没落貴族令嬢のものではない。鋭い商人のそれだった。
「金に……?」
「そうだ。考えてみろ。絶対に刃こぼれしないナイフ。どんな炎にも耐える鍋。永遠に腐らない木材。これらがどれほどの価値を持つか、お前にも分かるだろう」
彼女の言葉は、ノアに新たな視点を与えた。確かに、そんな道具があれば人々の生活は格段に豊かになるだろう。だが、同時に強い抵抗感も覚えた。
「でも、これは呪いの品だ。不吉なものを世に出して、本当にいいんだろうか」
「呪い? それがどうした。結果として人の役に立つのであれば、それはもはや呪いではなく祝福だ」
ルナはそう言い切ると、ノアの肩を掴んだ。
「いいか、ノア。お前は自分の力を誤解している。そして、私もだ。私の『影』の力も、家を守るための力だったはずが、いつしか呪われた力として蔑まれるようになった。力そのものに善悪はない。それをどう捉え、どう使うかで価値が決まるのだ」
彼女の言葉が、ノアの胸に深く突き刺さる。力に善悪はない。その言葉は、彼がずっと目を背けてきた真実だったのかもしれない。
「私たちは、生きなければならない。そのためには金がいる。お前には、金を生み出す途方もない才能がある。それを使わない手はないだろう」
ルナの説得は、現実的で有無を言わせぬ力強さがあった。彼女の言う通りだ。このまま何もせず、なけなしの金が尽きるのを待つだけでは、二人とも路頭に迷う。
「……分かった」
ノアは、ようやく頷いた。まだ心のどこかで恐怖や戸惑いは消えない。だが、それ以上に、この少女が示してくれた可能性に賭けてみたいという気持ちが勝っていた。
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「よろしい」
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「ああ」
ノアは力強く頷いた。
追放され、全てを失ったと思っていた。だが、この辺境の街で、彼は二つのものを手に入れた。一つは、自分の力の本当の価値。そしてもう一つは、その価値を誰よりも信じてくれる、銀髪のパートナーだった。
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