デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

文字の大きさ
8 / 89

第七話 呪いの市場デビュー

しおりを挟む
翌朝、ノアはまだ薄暗いうちに目を覚ました。隣のベッドでは、ルナが静かな寝息を立てている。昨日までの絶望が嘘のように、今は胸の内に微かな期待が灯っていた。自分の力が、本当に誰かの役に立つのかもしれない。

太陽が昇り、街が活気づき始めた頃、二人は宿を出て市場へ向かった。境界都市バザールの朝市は、昨日見た昼間の様子とはまた違う熱気に満ちている。新鮮な野菜や魚を売る声、鍛冶屋が鉄を打つ音、冒険者たちの威勢のいい笑い声。あらゆる生命のエネルギーが渦巻く場所だった。

「さて、どうする? まずは武器でも作ってみるか?」

人の波に気圧され気味のノアが尋ねると、ルナは即座に首を振った。

「馬鹿を言え。いきなり高性能な武器など作ってみろ。面倒な連中が寄ってくるだけだ。ギルドや騎士団に目をつけられたらおしまいだぞ」
「じゃあ、何を作るんだ?」
「日用品だ」

ルナはきっぱりと言った。

「誰もが毎日使うもの。それでいて、少し性能が良いだけで生活が格段に楽になるもの。鍋、鍬、包丁……そういったものから始めるのが定石だ」

その的確な判断に、ノアは舌を巻いた。自分一人では、きっともっと短絡的なことしか考えられなかっただろう。

「まずは素材だ。一番安いものを探すぞ。お前の力が本物なら、素材の質は関係ないはずだからな」

ルナはそう言うと、ノアの手を引いて市場の奥へと進んでいく。彼女が向かったのは、ガラクタ同然の品を並べる露店だった。そこには、歪んだ鉄鍋や刃こぼれしたナイフ、使い古された農具などが山と積まれている。

「親父、ここの鍋とナイフ、全部でいくらだ?」

ルナが店主に声をかけると、眠そうな顔をした男が値段を告げた。それを聞いたルナは、信じられないというように眉を吊り上げる。

「高い! ただの鉄屑ではないか。半分にまけろ」
「無茶言うな嬢ちゃん! これでも安くしてんだぞ!」
「では聞くが、この鍋でまともに煮炊きができるのか? このナイフで肉が切れると? 道具としての価値がないものに、なぜ正規の値段を払わねばならんのだ」

ルナは淀みなくまくしたてる。その堂々とした態度は、まさしく貴族の交渉術だった。気圧された店主は、最終的に彼女の言い値に近い値段で商品を売ることを承諾した。ノアはただ、そのやり取りを感心しながら見守るしかなかった。

宿に戻った二人は、早速錬成作業に取り掛かった。仕入れてきたのは、薄汚れた鉄鍋が三つと、錆びたナイフが五本。

「さあ、やれ。昨日と同じように、だが今度はお前の意志で、性能を高めることを意識してみろ」

ルナに促され、ノアは鉄鍋の一つに手をかざす。これまでは、ただ呪いをかけることしか考えていなかった。だが、今は違う。「丈夫になれ」「熱が伝わりやすくなれ」。そう心の中で念じながら、【呪物錬成】を発動した。

黒い靄が鉄鍋に吸い込まれていく。禍々しい文様が表面に浮かび上がるのは昨日と同じだったが、ノアには分かる。何かが違う。魔力が、より深く、より緻密に素材へと浸透していく感覚があった。

錬成が終わった鍋は、見た目こそ呪いの道具そのものだったが、ずしりと重みを増し、明らかに密度が高まっていた。

「……できた」
「上出来だ」

ルナは満足げに頷くと、残りの鍋とナイフも同じように錬成させた。出来上がったのは、素人目には到底売り物とは思えない、不気味な調理器具の山だった。

「本当に、こんなものが売れるんだろうか……」

ノアは不安そうに呟いた。自分の力を信じると決めたものの、いざ完成品を目の前にすると、やはり自信が揺らぐ。

「お前は黙って見ていればいい。売るのは私の役目だ」

ルナは自信に満ちた表情で言い放つと、完成した「呪いの道具」を布に包み、再び市場へと向かった。

二人が場所を借りたのは、市場の隅にある人通りの少ない一角だった。地面に布を広げ、錬成した鍋とナイフを並べる。案の定、道行く人々はその不気味な品々を遠巻きに眺めるだけで、誰も近寄ろうとはしなかった。

「ほら、やっぱり誰も興味を示さない……」

ノアが弱音を吐くと、ルナは「これからだ」と静かに告げた。彼女は立ち上がると、市場中に響き渡るような、凛とした声を張り上げた。

「さあさあ、お立ち会い! 見てって損はないよ! ここに並ぶはただの道具にあらず! あなたの生活を一変させる、奇跡の逸品だ!」

突然の大声に、何事かと人々が足を止める。興味半分、警戒半分といった視線が二人に突き刺さった。

「奇跡の逸品だと? 冗談だろう。見た目はただの呪われたガラクタじゃないか」

野次馬の一人が嘲るように言った。しかし、ルナは全く動じない。

「見た目で判断するのは早計というもの。論より証拠。この鍋の本当の価値を、今ここでお見せしよう!」

ルナはそう宣言すると、呪いのナイフを手に取り、近くの石畳を力任せに叩きつけた。

甲高い金属音が響き、火花が散る。人々が息を呑むのが分かった。ルナがナイフを持ち上げると、その刃は刃こぼれ一つしていない。だが、叩きつけられた石畳には、くっきりと深い傷が刻まれていた。

「な……!?」

どよめきが広がる。ノアは、固唾を飲んでルナの次の行動を見守った。彼女の小さな背中が、今は何よりも大きく、頼もしく見えた。この呪われた道具たちが、本当に誰かの手に渡るかもしれない。そんな予感が、彼の胸を熱くしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。 絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。 辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。 一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」 これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...