デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

文字の大きさ
11 / 89

第十話 赤髪の訪問者

しおりを挟む
「呪いの道具」が市場を騒がせてから数日。ノアとルナは次の段階へ進むべく、行動を開始していた。

「この物件は悪くない。大通りから一本入っていて人目につきにくいし、家賃も手頃だ」

ルナは古びた空き店舗の前で腕を組み、鋭い目で建物を吟味していた。壁はひび割れ、窓ガラスもいくつか欠けている。お世辞にも良い物件とは言えなかったが、彼女の目には違うものが見えているようだった。

「ここを改装すれば、十分な作業場と店舗スペースを確保できる。何より、裏口が路地に面しているのがいい。特別な客をこっそり招き入れるには好都合だ」
「特別な客……」

ノアが呟くと、ルナはにやりと笑った。

「お前の力は、いずれもっと大きな問題を抱えた者たちを引き寄せることになる。その時のための準備だ」

彼女の頭の中では、すでに壮大な事業計画が描かれているらしい。ノアはただ、その先見の明に感心するばかりだった。自分一人では、日銭を稼ぐことしか考えられなかっただろう。

二人が物件の話をしていると、不意に背後から強い視線を感じた。振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。

燃えるような赤い髪を無造作に束ね、その身には使い込まれた軽鎧をまとっている。何よりも目を引くのは、背中に負った巨大な黒い大剣。まるで生きているかのように、不吉なオーラを放っていた。

少女はまっすぐに二人を見つめると、躊躇なく歩み寄ってきた。その足取りには、切羽詰まったような焦りと、わずかな希望が入り混じっている。

「あなたがたが、『呪いの道具』を作っている人たちですね」

断定するような口調だった。ルナは即座に警戒の色を浮かべ、ノアの前に立つ。

「人違いではないか? 我々はただの旅の者だが」
「嘘をつかないでください! 私はギルドや食堂で、あなたがたの噂を全部聞きました! 石畳に傷をつけたナイフ! 焦げ付かない鍋! それを作ったのは、あなたたちのはずだ!」

少女は食い下がる。その瞳は真剣そのものだった。どうやら、こちらの正体は完全にバレているらしい。ルナは小さくため息をつくと、態度を改めた。

「……だとして、何の用だ。我々は今、取り込み中なのだが」
「お願いします! 私を助けてほしいんです!」

少女はそう言うと、深々と頭を下げた。その勢いに、ノアとルナは少し面食らう。

「私はクロエ・ヴァレンタイン。冒険者をやっています。どうか、私のこの剣の呪いを、どうにかしてください!」

クロエと名乗った少女は、背中の大剣をゆっくりと下ろし、地面に突き立てた。ズン、と重い音を立てて地面にめり込んだ大剣は、禍々しい存在感を放っている。

「これは、呪いの大剣『ベルセルク』。凄まじい力を秘めていますが、その力はあまりに強すぎて、私には制御できません。力を解放すれば、敵だけでなく、仲間や周囲の物まで破壊してしまうんです」

彼女は悔しそうに拳を握りしめた。そのせいでパーティを追い出され、誰からも「呪われた剣士」と疎まれているのだと、途切れ途切れに語った。

その話を聞きながら、ノアはクロエの姿にかつての自分を重ねていた。呪われた力。そのせいで仲間を失い、居場所をなくす痛み。それは、彼が一番よく知っている感情だった。

「……それで、我々に何をしろと?」

ルナが冷静に尋ねる。

「あなたの作る道具なら、この呪いを抑えたり、もしかしたら力に変えたりできるかもしれない。そう思ったんです! どんな代金でも払います! だから、どうか……!」

必死に懇願するクロエ。だが、ルナの表情は険しいままだった。

「断る。我々は武器屋でもなければ、呪術の専門家でもない。たまたま作った日用品が、少し変わった性能を持っていただけだ。君のような厄介な呪物に関わるつもりはない」

それは、ルナの言う通りだった。下手に手を出して、もし失敗すればどんな災厄が降りかかるか分からない。これからの事業を考えれば、リスクは避けるべきだ。

「そんな……!」

クロエの顔に、絶望の色が浮かぶ。彼女が最後の希望だと思っていた蜘蛛の糸が、切れかかっていた。

しかし、その時だった。

「……やらせてください」

静かだが、はっきりとした声が響いた。声の主は、今まで黙っていたノアだった。

「ノア! お前、何を言って……」

ルナが驚いて振り返る。だが、ノアはルナではなく、クロエの目をまっすぐに見つめていた。

「君の気持ちは、よく分かる。自分の力が、自分の意思とは関係なく暴走してしまう苦しみも、そのせいで誰かを傷つけてしまう恐怖も」

ノアの言葉に、クロエははっと顔を上げた。

「君のその剣の呪いを、完全に解くことができるかは分からない。でも、その力を制御するための手伝いなら、俺の力でできるかもしれない」

それは、何の確証もない言葉だった。だが、ノアの瞳には、不思議な説得力があった。彼は、クロエの苦しみを、本当に理解している。

「本当……ですか?」
「ああ。試してみる価値はある」

ノアが力強く頷くと、クロエの瞳から大粒の涙が溢れ落ちた。

「おい、ノア。本気か? 下手すれば、我々まで呪いに巻き込まれるかもしれんのだぞ」

ルナがノアの袖を引き、小声で囁く。

「分かってる。でも、ルナ。俺は彼女を放っておけない。それに、これは俺自身の問題でもあるんだ」

ノアは言った。

「俺は、自分のこの力が呪いじゃないってことを、証明したいんだ。誰かを不幸にするんじゃなく、誰かを助けるために使えるんだってことを。そのためなら、どんなリスクだって負うよ」

その決意に満ちた瞳を見て、ルナは何も言えなくなった。彼のこのお人好しな性格が、いつか破滅を招くかもしれない。だが同時に、その真っ直ぐさこそが、彼の力の源泉なのだということも理解していた。

「……はぁ。分かった。お前がそこまで言うなら、好きにしろ」

ルナは呆れたようにため息をつくと、クロエに向き直った。

「話は聞いたな、赤髪の剣士。依頼は受ける。ただし、成功報酬はきっちりともらう。我々も商売でやっているんでな」

その言葉は、二人の新たな関係の始まりを告げていた。燃えるような赤髪の剣士と、呪いを操る物静かな青年。二つの魂の出会いが、やがて辺境の街の運命を大きく揺るがすことになる。そのことを、まだ誰も知らなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。 絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。 辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。 一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」 これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...