デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

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第十三話 用心棒兼看板娘

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店の裏庭で、クロエは深く頭を垂れたまま動かない。その燃えるような赤髪が、忠誠心の熱さを物語っているかのようだった。

「ちょ、ちょっと待ってくれ、クロエ。俺はそんな、様付けで呼ばれるような人間じゃない」

ノアは慌てて彼女を立たせようとするが、クロエは頑として動かない。

「いいえ。ノア様は私の恩人であり、新たな主です。この命に代えてもお守りします」
「いや、命まではいらないから……」

この状況をどうしたものか。ノアが困り果てていると、腕を組んで様子を見ていたルナが、やれやれといった風に口を挟んだ。

「まあ、待て。お前のその忠誠心は立派だが、少し落ち着け、赤髪」

ルナはクロエの前に立つと、契約書をひらひらとさせた。

「依頼は成功した。よって、成功報酬として金貨二十枚を支払ってもらう。今すぐ払えるのか?」
「はい! もちろんです!」

クロエは勢いよく立ち上がると、懐から革袋を取り出した。中には、彼女が今まで冒険者として稼いだ全財産が入っているのだろう。金貨がじゃらりと音を立てる。

だが、ルナはその金を受け取らずに、にやりと笑った。

「その金はしまっておけ。代わりに、お前には別の形で支払ってもらう」
「別の形、ですか?」

クロエが不思議そうに首を傾げる。

「そうだ。我々はこれから、この場所で『呪いの道具』を売る店を開く。だが、見ての通り我々は戦闘の素人だ。力自慢の冒険者や、面倒な連中が絡んでこないとも限らない」

ルナはそこで言葉を切ると、クロエの目をじっと見つめた。

「用心棒が必要だ。お前には、この店の用心棒として働いてもらう。それが報酬の代わりだ。どうだ、悪い話ではないだろう?」

それは、クロエにとっても、ノアたちにとっても渡りに船の提案だった。クロエはノアの側にいられる。ノアたちは、覚醒したばかりの強力な剣士を、仲間として迎え入れることができる。

「……! はい! 喜んでお受けします!」

クロエの顔が、ぱっと明るくなった。彼女は改めてノアに向き直り、今度は騎士の礼ではなく、嬉しそうな笑顔で言った。

「ノア様! これからよろしくお願いします!」
「あ、ああ。よろしく、クロエ」

ようやく普段の調子を取り戻した彼女に、ノアは安堵のため息をついた。こうして、店の従業員第一号が正式に決定した。

「さて、そうなれば話は早い」

ルナは計画的に動き出す。

「お前がただの剣士では、用心棒としての説得力に欠ける。まずは、お前のその力が本物だと、この街の連中に知らしめる必要がある」
「どうやって……?」
「決まっているだろう。冒険者ギルドだ。お前のランクを、一気に上げる」

ルナの提案に、三人は冒険者ギルドへと向かった。ギルドの中は、昼間から酒を飲む冒険者たちの熱気でむせ返っている。

クロエが中に入ると、すぐに周囲からひそひそ話と嘲笑が聞こえてきた。

「おい、見ろよ。『呪われクロエ』だぜ」
「またパーティを追い出されたらしいな。あの呪いの大剣を持ってる限り、誰も組んでくれねえよ」

その声に、クロエはびくりと肩を震わせ、俯いてしまう。ノアはそんな彼女の前に立ち、庇うように囁いた。

「気にするな。もう、お前は一人じゃない」

その一言が、クロエに勇気を与えた。彼女は顔を上げ、毅然としてカウンターへと向かう。

「昇格試験を受けたいのですが」

クロエの言葉に、受付嬢は面倒くさそうに顔を上げた。だが、彼女がクロエだと分かると、同情するような表情になる。

「クロエさん……。今のあなたのランクはD。一つ上のCランクに上がるには、ワイバーンの討伐任務を単独で成功させる必要があります。さすがに、それは無謀では……」
「やります」

クロエはきっぱりと答えた。その迷いのない態度に、ギルド内がざわつく。

「おいおい、正気か? あのクロエが、単独でワイバーン討伐だと?」
「死にに行くようなもんだぜ!」

嘲笑が大きくなる。その時、ひときわ大きな声が響いた。

「やめとけ、クロエ! お前にできるわけがねえだろうが!」

声の主は、以前クロエと同じパーティにいた金髪の魔術師だった。彼は仲間たちと共に、クロエを指さして笑っている。

「お前は足手まといなんだよ! 畑を荒らすくらいしか能のないお前が、ワイバーンに勝てるわけないだろ!」

その言葉は、刃物のようにクロエの心を抉った。だが、今の彼女は以前とは違う。隣には、ノアとルナがついていた。

クロエは何も言い返さず、ただ静かに振り返ると、大剣「ベルセルク」をゆっくりと鞘から抜いた。途端に、ギルド内の空気が変わる。以前の禍々しさとは違う、純粋で圧倒的な力のオーラが、クロエの体から放たれていた。

「……黙って見てなさい」

クロエはそれだけ言うと、ギルドの裏手にある訓練場へと向かった。そこには、昇格試験用に用意された魔法人形で動く騎士のゴーレムが一体置かれている。Cランク昇格試験の模擬戦用の的だ。

「あれを、一撃で壊せたら文句ないだろ」

クロエは訓練場の中心に立つと、大剣を静かに構えた。腕には、ノアが作った黒い紋様の腕輪が鈍く光っている。

ギルド中の冒険者たちが、固唾を飲んでその様子を見守っていた。

クロエは深く息を吸い、吐く。その一連の動作に、一切の無駄がない。

「はぁっ!」

一閃。

クロエの姿が霞んだかと思うと、次の瞬間にはゴーレムの背後に立っていた。何が起こったのか、誰にも理解できない。

数秒の静寂。

ギチギチ……と嫌な音を立てて、鋼鉄のゴーレムに一本の線が入る。そして、音もなく上半身と下半身が真っ二つに分かれ、派手な音を立てて崩れ落ちた。

「…………」

ギルドは、水を打ったように静まり返った。誰もが、目の前で起こったことが信じられない。

クロエを馬鹿にしていた魔術師は、口をあんぐりと開けたまま固まっている。受付嬢は、目を白黒させていた。

やがて、誰かがごくりと喉を鳴らす音を皮切りに、爆発的な歓声とどよめきがギルドを包んだ。

「すげえ……!」
「なんだ今の剣技は!?」
「あれが本当に、あのクロエなのか!?」

クロエは歓声には目もくれず、静かに大剣を鞘に納めると、呆然としているノアの元へ戻ってきた。そして、少し照れたようにはにかんだ。

「ノア様。私、やりました」

その姿は、先ほどの圧倒的な剣士の姿とはまるで違う、一人の少女の笑顔だった。ノアはただ、そのギャップに驚きながら、力なく頷くことしかできなかった。

この日、「呪われクロエ」の汚名は返上され、「赤髪の剣姫」という新たな伝説が、境界都市バザールに産声を上げたのだった。
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