デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

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第十四話 看板娘の誕生と新たな芽吹き

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訓練場の静寂を破ったのは、割れんばかりの歓声と拍手だった。つい先ほどまでクロエを嘲笑していた冒険者たちが、今は熱狂的な視線を彼女に送っている。手のひらを返すとは、まさにこのことだった。

「す、素晴らしい……! これほどの剣技、我がギルドでも見たことがない!」

ギルドマスターが興奮した様子で駆け寄ってきた。彼はクロエの肩を掴み、その力を絶賛する。

「Cランクへの昇格を、いや、特例でBランクへの昇格を認めよう! どうだね、我がギルド専属の冒険者になる気はないかね!?」
「お断りします」

クロエは、ギルドマスターの熱烈な勧誘を即座に断った。

「私のこの力は、全てノア様からいただいたもの。この身もこの剣も、ノア様のために捧げると決めています」

彼女はそう言うと、ノアの後ろに控えるようにして立った。その毅然とした態度と、揺るぎない忠誠心。ギルド中の視線が、今度はクロエの言う「ノア様」へと注がれる。

ぼろぼろのローブをまとった、どこにでもいそうな優男。彼が、一体どうやってあの「呪われクロエ」を覚醒させたのか。謎は深まるばかりで、冒険者たちの好奇心と畏怖を煽った。

「おい、クロエ! 悪かった! 俺たちが間違ってた!」

かつてのパーティ仲間だった金髪の魔術師が、顔面蒼白で駆け寄ってきた。

「もう一度、俺たちとパーティを組んでくれ! お前がいれば、俺たちはAランクだって目指せる!」
「お断りよ」

クロエは、かつての仲間を冷たく一瞥した。その瞳には、侮蔑も怒りもなかった。ただ、無関心があるだけだった。

「私の居場所は、もうここにはないから」

その言葉に、男はぐうの音も出せずに立ち尽くす。

「さて、話は済んだかな」

この状況を計算通りとばかりに、ルナが一歩前に出た。彼女はギルドマスターと冒険者たちを見渡し、宣言する。

「このクロエ・ヴァレンタインは、我らが店の者だ。彼女に何か用があるなら、我々を通してもらおう。まあ、つまらん依頼で彼女の手を煩わせることは許さんつもりだがな」

その言葉は、クロエがもはや安請け合いする冒険者ではないこと、そして彼女の後ろには謎の組織(店)が存在することを、暗に知らしめる効果があった。

ギルドを出て、三人は夕暮れの道を歩いていた。街行く人々が、クロエに気づいて囁きあっている。「あれが、あの『赤髪の剣姫』だ」と。

「すごいな、クロエ。もう有名人じゃないか」

ノアが感心したように言うと、クロエは少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。

「全部、ノア様と、この腕輪のおかげです。今まで、自分の力が大嫌いでした。でも、今は……この力であなたを守れることが、すごく嬉しいんです」

彼女は自分の腕にはめられた黒い腕輪を、愛おしそうに撫でた。その笑顔は、太陽のように明るい。

自分の力が、誰かをこんな風に笑顔にできる。その事実が、ノアの心に温かい光を灯す。追放された時の絶望が、少しずつ癒えていくのを感じた。

「ふむ。用心棒としては申し分ない。いや、それ以上の宣伝効果だ。看板娘としても、最高の働きだな」

ルナは一人で頷き、満足げに呟いている。彼女の頭の中では、店の経営計画がさらに具体的に練り上げられているのだろう。

三人が、契約したばかりの古びた空き店舗の前に戻ってきた時だった。店の扉の前に、一人の老人が立っていた。仕立ての良い服を着ているが、その顔には深い疲労と悩みが刻まれている。

老人は三人に気づくと、ゆっくりと近づいてきた。その視線は、真っ直ぐにノアに向けられている。

「あなたがたが、あの『呪いの道具』を作っておられる方々ですかな」

老人は、丁寧だが切羽詰まった声で尋ねた。クロエの噂は、すでに街の上流階級にまで届いているらしい。

ルナが警戒しながら前に出る。

「いかにも。それで、何か御用かな?」
「実は、折り入ってご相談したいことがありましてな」

老人は深々と頭を下げた。

「わしは、この街で魔術師ギルドの支部長を務めている、アルマンと申す者。どうか、才能の壁に絶望している、一人の若い魔術師を救ってはいただけんだろうか」

その言葉に、ノアは息を呑んだ。才能の壁。それは、彼自身がパーティで嫌というほど感じてきた絶望だった。

店の開店準備もままならないうちに、新たな依頼が舞い込んできた。それは、ノアの力が、ただの道具作りだけにとどまらない可能性を示唆していた。彼の【呪物錬成】が、人の運命そのものを変える力を持つことを。
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