デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

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第十五話 才能という名の呪い

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店の前で深々と頭を下げる老人、アルマン。その真剣な眼差しから、ただ事ではない依頼であることが伝わってくる。

「……まずは、中へどうぞ。立ち話もなんですから」

ノアがそう言うと、ルナは少し驚いた顔をしたが、すぐに状況を理解して頷いた。彼女は鍵を開け、三人と老人を店の中へと招き入れる。

中はまだがらんとしており、埃の匂いが残っていた。壁際には、ノアがこれから使うであろう金床や工具、そして仕入れたばかりの素材が無造作に置かれている。店の体裁は全く整っていなかったが、アルマンはそんなことを気にする素振りも見せず、改めてノアたちに向き直った。

「急な申し出、失礼した。わしの名はアルマン・グレイフィールド。この街の魔術師ギルドで、支部長をさせてもらっている」

その名乗りを聞いて、ルナの目が鋭く光った。辺境とはいえ、魔術師ギルドのトップが直々に依頼に来たのだ。これは、ただの厄介事か、あるいは大きな好機か。

「それで、支部長殿。我々のような名もなき者に、一体どのようなご用件で?」

ルナが探るように尋ねる。アルマンは、深いしわの刻まれた顔をさらに曇らせ、重い口を開いた。

「救ってほしい者がいる。わしの孫だ。名はエリオ。あの子は……才能に恵まれすぎたせいで、絶望している」

才能に恵まれすぎたための、絶望。その矛盾した言葉に、ノアは思わず耳を傾けた。

アルマンの話によれば、孫のエリオは幼い頃からずば抜けた魔力量を持ち、将来を嘱望された天才だったという。どんな高等魔法も一度見れば理解し、その威力は並の魔術師を遥かに凌駕した。

「だが、あの子にはたった一つ、致命的な欠陥があった。それは、その膨大すぎる魔力を、精密に制御できないことじゃ」

アルマンは悔しそうに拳を握った。エリオの魔法は、あまりに強力すぎて、常に暴発の危険を伴った。威力を抑えようとすれば魔法そのものが霧散し、力を込めれば目標だけでなく周囲一帯を吹き飛ばしてしまう。

「それは……」

ノアは呟いた。クロエと全く同じだ。強すぎる力が、制御できない牙となって本人に襲いかかる。

「あの子は何度も失敗を繰り返した。仲間を危険にさらし、自分自身も傷ついた。いつしか、誰もあの子とパーティを組もうとはしなくなり、あの子も魔法を使うこと自体を恐れるようになった。今ではギルドの資料室に引きこもり、誰とも顔を合わせようとせん」

老人の目には、涙が浮かんでいた。可愛い孫が、自らの才能という呪いに蝕まれていくのを、ただ見ていることしかできない。その無力感が、ひしひしと伝わってくる。

「わしは、あの子にもう一度、魔法を使う喜びを思い出してほしい。そのためなら、どんなことでもする。そんな時、クロエ嬢の噂を耳にしたのだ。呪われた大剣を克服し、その力を完全に支配下に置いたと。それを可能にしたのが、あなた方の作る『呪いの道具』だと聞いて、わしは……藁にもすがる思いでここへ来た」

アルマンは、再び深く頭を下げた。

「どうか、お願いできんか。あの子の力を制御する道具を、作ってはいただけんだろうか」

店の中に、沈黙が落ちる。

ノアは、自分のことのように胸が痛んだ。才能の壁。力の暴走。仲間からの孤立。その全てが、彼自身やクロエが経験してきた苦しみと重なる。

(この人を、見過ごすわけにはいかない)

ノアの心は、すでに決まっていた。だが、彼はルナの方を見た。店の経営者として、彼女の判断を仰ぐべきだと思ったからだ。

ルナは腕を組み、冷静に状況を分析していた。魔術師ギルド支部長からの依頼。成功すれば、店の信用は飛躍的に高まる。ギルドという強力な後ろ盾を得られる可能性もある。リスクはあるが、リターンは計り知れない。何より、彼女は目の前の青年の優しさと、その力がもたらす奇跡を信じていた。

「……ノア。お前はどうしたい?」

ルナは、最終的な判断をノアに委ねた。それは、彼への信頼の証だった。

ノアはまっすぐにアルマンを見つめ、はっきりと告げた。

「分かりました。そのご依頼、お受けします」

その言葉に、アルマンの顔がぱっと明るくなる。彼は何度も「ありがとう」と繰り返し、震える手でノアの手を握った。

「報酬は、言い値で構わん。材料も、ギルドの倉庫にあるものなら何でも使ってくれていい」
「いえ、報酬は成功してからで結構です。それより、まずはお孫さんのエリオさんに、会わせていただけますか。彼の魔力の質や、どんな道具が合うのかを、この目で見極めたい」

ノアの提案に、アルマンは力強く頷いた。

「分かった。明日の朝、ギルドまで迎えに行こう」

約束を交わし、アルマンは希望に満ちた足取りで店を去っていった。

扉が閉まると、ルナは一つ大きなため息をついた。

「また、厄介な依頼を引き受けたものだな」

口ではそう言いながらも、その表情はどこか楽しそうだった。

「でも、あんなに困っている人を放っておけないだろ」
「分かっているさ。お前はそういう男だ。だからこそ、私が金の計算をしてやらねばならんのだ」

ルナは肩をすくめて見せる。その隣で、クロエがキラキラした目でノアを見ていた。

「ノア様、すごいです! また、誰かを救うんですね!」

彼女の純粋な尊敬の眼差しに、ノアは少し照れながらも、決意を新たにした。

呪いとは、何も武器や道具だけに宿るものではない。人の心にも、才能という名の呪いが宿ることがある。それを解き放つのが、自分の【呪物錬成】の本当の役割なのかもしれない。

まだ見ぬ天才魔術師の姿を思い浮かべながら、ノアの胸には、新たな挑戦への静かな闘志が燃え上がっていた。
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