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第十八話 星屑の指輪と新たな光
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工房に響き渡る槌音は、一つのクライマックスを迎えていた。ノアの全魔力と精神力が、ハンマーの一振り一振りに込められていく。星屑のオリハルコンは彼の意志に応えるようにその形を変え、次第に洗練された指輪の姿を現し始めた。
そして、ノアは最後の力を振り絞り、ハンマーを振り下ろした。
キィィンッ!
澄み切った金属音が工房を満たし、それまでの喧騒が嘘のように静まり返る。金床の上には、一つの指輪が静かな光を放っていた。
深い藍色の地金に、本物の星屑が瞬く。その表面には、まるで流星の軌跡を描いたかのような、黒く美しい呪いの紋様が刻まれていた。それは不吉さよりも、むしろ神秘性を感じさせるデザインだった。
「できた……」
ノアは呟き、ふらりとよろめいた。極度の集中と魔力消耗で、立っているのもやっとだった。クロエが慌てて彼の体を支える。
「ノア様、大丈夫ですか!?」
「ああ、少し疲れただけだ」
ノアは荒い息を整えながら、完成した指輪を手に取った。ひんやりとした金属の感触が、彼の指先に伝わる。
「エリオ。これを」
ノアは、エリオに指輪を差し出した。
「『星屑の指輪』だ。君の力を導く、一番星になるように願いを込めた」
エリオは、震える手でその指輪を受け取った。彼の瞳には、今まで見たことのない強い感情が揺らめいている。絶望、期待、そしてわずかな恐怖。彼は意を決すると、指輪をゆっくりと右手の人差し指にはめた。
その瞬間、エリオの体から膨大な魔力が溢れ出した。以前の暴走とは違う。それはまるで、堰を切った川のように激しい流れだったが、指輪がその奔流を静かに受け止めていた。
指輪に刻まれた呪いの紋様が淡く光り、溢れ出す魔力を吸収していく。そして、その魔力は指輪の中で渦を巻き、洗練され、一本の揺るぎない流れとなってエリオの意識と繋がっていくのが分かった。
「これは……」
エリオは自分の掌を見つめた。力が、そこにある。自分の意思通りに動く、純粋な力が。
「エリオ、もう一度だ」
アルマンが、固唾を飲んで促す。
エリオはこくりと頷くと、再び黒曜石の的に向き合った。彼の顔にはもう、諦めの色はない。
「──『火球(ファイアボール)』」
今度の詠唱は、自信に満ちていた。彼の指先に灯った炎は、以前とは全く違う。それはビー玉ほどの大きさしかなかったが、まるで小さな太陽のように、眩い光と圧倒的な熱量を放っていた。
エリオが指先を的に向けると、小さな火球は一条の光線となって撃ち出された。音もなく、空間を切り裂くように直進する。そして、黒曜石の的に吸い込まれるように着弾した。
爆発は起きなかった。
ただ、的の中心部が瞬間的に白熱し、次の瞬間には跡形もなく蒸発していた。まるで、そこだけ空間が抉り取られたかのように。直径一メートルほどの完璧な円形の穴が、硬い黒曜石の的を貫通している。
凄まじい威力が、たった一点に完璧に集束された結果だった。
「……これが、僕の魔法……」
エリオは、自らの指先から放たれた力の結果を呆然と見つめ、やがてその瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。それは絶望の涙ではない。何年もの間、自分を縛り付けてきた呪いから解放された、歓喜の涙だった。
「おお……おお……!」
アルマンは孫の姿を見て、嗚咽を漏らした。彼は震える足でノアに歩み寄ると、その両手を固く握りしめた。
「ありがとう……。本当に、ありがとう、ノア殿。君は、わしの孫の人生を救ってくれた」
「ノア様、すごいです! また奇跡を起こしたんですね!」
クロエが純粋な尊敬の眼差しを向ける。その隣で、ルナは冷静に、しかし興奮を隠しきれない様子で分析していた。
「なるほどな。ダムではなく、レンズ。対象の特性に合わせて、呪いの効果を完全にカスタマイズできるとは。ノア、お前のスキルは本当に底が知れん。これは、とんでもない金になるぞ」
その時、エリオがノアの前に進み出ると、深々と頭を下げた。
「ノア・アークライト。君は僕の恩人だ。この恩は、一生忘れない」
彼は顔を上げ、決意に満ちた瞳でノアを見つめた。
「僕も、君の力になりたい。これからは、この魔法で君たちを助ける。だから、どうか僕を仲間に入れてくれないか」
その申し出に、ノアは少し驚いたが、すぐに優しく微笑んだ。
「もちろんだよ。ようこそ、【ノアの箱舟】へ」
こうして、ノアたちの店には、用心棒兼看板娘の「剣」に続き、強力な後方支援となる「魔法」が加わった。
アルマンは、報酬として破格の金額を提示しただけでなく、魔術師ギルドとして【ノアの箱舟】を全面的に支援することを約束してくれた。店の改装や素材の融通など、今後の活動に大きな弾みがつくことになる。
呪いは解かれ、新たな光が灯った。だが、その光が強ければ強いほど、その影もまた、濃くなっていく。ノアの生み出す奇跡のアイテムの評判は、彼らの知らないところで、様々な者たちの欲望と陰謀を呼び覚まし始めていた。
そして、ノアは最後の力を振り絞り、ハンマーを振り下ろした。
キィィンッ!
澄み切った金属音が工房を満たし、それまでの喧騒が嘘のように静まり返る。金床の上には、一つの指輪が静かな光を放っていた。
深い藍色の地金に、本物の星屑が瞬く。その表面には、まるで流星の軌跡を描いたかのような、黒く美しい呪いの紋様が刻まれていた。それは不吉さよりも、むしろ神秘性を感じさせるデザインだった。
「できた……」
ノアは呟き、ふらりとよろめいた。極度の集中と魔力消耗で、立っているのもやっとだった。クロエが慌てて彼の体を支える。
「ノア様、大丈夫ですか!?」
「ああ、少し疲れただけだ」
ノアは荒い息を整えながら、完成した指輪を手に取った。ひんやりとした金属の感触が、彼の指先に伝わる。
「エリオ。これを」
ノアは、エリオに指輪を差し出した。
「『星屑の指輪』だ。君の力を導く、一番星になるように願いを込めた」
エリオは、震える手でその指輪を受け取った。彼の瞳には、今まで見たことのない強い感情が揺らめいている。絶望、期待、そしてわずかな恐怖。彼は意を決すると、指輪をゆっくりと右手の人差し指にはめた。
その瞬間、エリオの体から膨大な魔力が溢れ出した。以前の暴走とは違う。それはまるで、堰を切った川のように激しい流れだったが、指輪がその奔流を静かに受け止めていた。
指輪に刻まれた呪いの紋様が淡く光り、溢れ出す魔力を吸収していく。そして、その魔力は指輪の中で渦を巻き、洗練され、一本の揺るぎない流れとなってエリオの意識と繋がっていくのが分かった。
「これは……」
エリオは自分の掌を見つめた。力が、そこにある。自分の意思通りに動く、純粋な力が。
「エリオ、もう一度だ」
アルマンが、固唾を飲んで促す。
エリオはこくりと頷くと、再び黒曜石の的に向き合った。彼の顔にはもう、諦めの色はない。
「──『火球(ファイアボール)』」
今度の詠唱は、自信に満ちていた。彼の指先に灯った炎は、以前とは全く違う。それはビー玉ほどの大きさしかなかったが、まるで小さな太陽のように、眩い光と圧倒的な熱量を放っていた。
エリオが指先を的に向けると、小さな火球は一条の光線となって撃ち出された。音もなく、空間を切り裂くように直進する。そして、黒曜石の的に吸い込まれるように着弾した。
爆発は起きなかった。
ただ、的の中心部が瞬間的に白熱し、次の瞬間には跡形もなく蒸発していた。まるで、そこだけ空間が抉り取られたかのように。直径一メートルほどの完璧な円形の穴が、硬い黒曜石の的を貫通している。
凄まじい威力が、たった一点に完璧に集束された結果だった。
「……これが、僕の魔法……」
エリオは、自らの指先から放たれた力の結果を呆然と見つめ、やがてその瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。それは絶望の涙ではない。何年もの間、自分を縛り付けてきた呪いから解放された、歓喜の涙だった。
「おお……おお……!」
アルマンは孫の姿を見て、嗚咽を漏らした。彼は震える足でノアに歩み寄ると、その両手を固く握りしめた。
「ありがとう……。本当に、ありがとう、ノア殿。君は、わしの孫の人生を救ってくれた」
「ノア様、すごいです! また奇跡を起こしたんですね!」
クロエが純粋な尊敬の眼差しを向ける。その隣で、ルナは冷静に、しかし興奮を隠しきれない様子で分析していた。
「なるほどな。ダムではなく、レンズ。対象の特性に合わせて、呪いの効果を完全にカスタマイズできるとは。ノア、お前のスキルは本当に底が知れん。これは、とんでもない金になるぞ」
その時、エリオがノアの前に進み出ると、深々と頭を下げた。
「ノア・アークライト。君は僕の恩人だ。この恩は、一生忘れない」
彼は顔を上げ、決意に満ちた瞳でノアを見つめた。
「僕も、君の力になりたい。これからは、この魔法で君たちを助ける。だから、どうか僕を仲間に入れてくれないか」
その申し出に、ノアは少し驚いたが、すぐに優しく微笑んだ。
「もちろんだよ。ようこそ、【ノアの箱舟】へ」
こうして、ノアたちの店には、用心棒兼看板娘の「剣」に続き、強力な後方支援となる「魔法」が加わった。
アルマンは、報酬として破格の金額を提示しただけでなく、魔術師ギルドとして【ノアの箱舟】を全面的に支援することを約束してくれた。店の改装や素材の融通など、今後の活動に大きな弾みがつくことになる。
呪いは解かれ、新たな光が灯った。だが、その光が強ければ強いほど、その影もまた、濃くなっていく。ノアの生み出す奇跡のアイテムの評判は、彼らの知らないところで、様々な者たちの欲望と陰謀を呼び覚まし始めていた。
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