デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

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第三十八話 守るための力

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境界都市バザールの活気は収穫祭を前に最高潮に達していた。しかし、その喧噪の裏で、【ノアの箱舟】は静かな戦いの準備を進めていた。

「ノア、ギルドからの追加依頼だ。斥候部隊用の装備を最優先で頼む」

ルナが工房に駆け込んできた。彼女の手には、街の防衛計画がびっしりと書き込まれた羊皮紙が握られている。

「分かった。ちょうど試作品ができたところだ」

ノアは、一枚のマントをルナに見せた。それは、森の木々の色を写し取ったかのような、深緑色のマントだった。

「『森陰のマント』。これを羽織れば、森の中では誰にも姿を見つけられない。代償として、これを着ている間は、仲間からさえも存在を忘れられやすくなる。孤独な斥候には、うってつけのはずだ」

その完璧な性能と、皮肉の効いた代償に、ルナは小さく頷いた。

「これを十着。それと、負傷者を安全に運ぶための『軽量担架』も必要だ。どんな衝撃も吸収するが、担いでいる間は方向感覚が少し狂う、とかで頼む」
「了解だ」

ノアとルナの間には、もう多くの言葉は必要なかった。彼の工房は、さながら街を守る兵器工場と化していた。日用品を作っていた頃の穏やかな雰囲気はなく、炉の火は絶えず燃え盛り、金属を打つ音が一晩中響き渡ることもあった。

その間、店の表では他の仲間たちも動いていた。

冒険者ギルドの訓練場では、クロエの鋭い声が響いていた。

「そこが甘い! 敵は君の都合を待ってはくれないぞ!」

彼女は、街の若手冒険者たちを相手に、実戦形式の訓練を行っていた。その剣技はもはや人間業ではなく、若者たちは彼女の動きを目で追うことすらできない。しかし、彼女の指導は的確で、冒険者たちの動きは日を追うごとに洗練されていった。

「クロエさんの言う通りに動いたら、ゴブリンの群れを一人で切り抜けられたぜ!」
「俺もだ! 彼女は、俺たちの希望の光だ!」

かつて「呪われクロエ」と蔑まれた少女は、今や街を守る剣の師として、多くの者から尊敬を集めていた。

一方、エリオは街の城壁の上で、複雑な魔法陣を描いていた。

「基点設定完了。これで、街の主要ポイントは全て魔力線で繋がった」

彼は、街全体を覆う大規模な防衛結界の構築を進めていた。それは、何日もかかる緻密で膨大な作業だったが、彼の顔に疲労の色はない。自分の魔法が、この街を守る礎になる。その事実が、彼に無尽蔵の集中力を与えていた。

そしてアンナは、店のカウンターで、不安を抱える市民たちの話し相手になっていた。

「魔物が来たらどうしようって、夜も眠れなくて……」
「大丈夫ですよ。この街には、あなたを守ろうと必死になっている人たちが、たくさんいますから」

彼女の穏やかな言葉と優しい笑顔は、人々の心を不思議と落ち着かせた。彼女は、戦えない。だが、戦う者たちの心を支えるという、誰にも代えがたい役割を果たしていた。

そして、その日は突然やってきた。

街の西門に設置された警鐘が、けたたましく鳴り響いた。収穫祭の準備で賑わっていた広場が、一瞬で緊張に包まれる。

「西の森から、オークの部隊が接近中! 数はおよそ五十!」

見張り台からの報告に、市民たちが悲鳴を上げる。だが、冒険者たちの動きは迅速だった。クロエの訓練の成果だ。彼らは動揺することなく、即座に武装し、城門へと集結していく。

その中に、斥候から戻ったばかりの冒険者がいた。彼の体は泥と枝葉で汚れていたが、傷一つない。

「報告します! オーク部隊の指揮官は、大型のホブゴブリンです! ノアさんのマントのおかげで、敵の目と鼻の先まで近づけました!」

彼の報告により、防衛部隊は的確な作戦を立てることができた。

「よし、行くぞ! この街は、俺たちが守る!」

ギルドマスターの号令と共に、冒険者たちが城門から出撃していく。彼らの手には、ノアが作ったばかりの武具が握られ、その身には呪いの加護を持つ防具が装備されていた。

ノアは、店の窓からその光景を見つめていた。自分の力が、仲間たちが、そしてこの街が、一つの大きな力となって動き出している。

これは、ただの魔物の襲撃ではない。統率された動き、予期せぬ時期の出現。何者かの明確な意志を感じる。

本当の戦いは、まだ始まったばかりだ。ノアは静かに決意を固め、再び工房の炉へと向き直った。彼の仕事は、まだ終わらない。仲間たちが戦い続ける限り、彼の槌音もまた、止むことはないのだ。
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