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第三十九話 防衛戦と見えざる手
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境界都市バザールの西門前、草原地帯が戦場と化した。
「全隊、鶴翼の陣を形成! 魔法部隊は中央から援護!」
ギルドマスターの怒声が響き渡る。冒険者たちは、クロエの訓練通りに一糸乱れぬ動きで陣形を組んだ。彼らの顔には恐怖よりも、街を守るという強い決意が浮かんでいる。
「グオオオオ!」
オークの群れが、地響きを立てて突撃してくる。その先頭に立つのは、一際大きな体躯を持つホブゴブリン。その目には、知性と残忍な光が宿っていた。
「来るぞ! 盾部隊、衝撃に備えろ!」
最前列の冒険者たちが、ノアが作った『不動の盾』を構える。それは、受けた衝撃の一部を地面に逃がすという呪いがかけられた盾だ。
ガギン!
凄まじい衝撃音が響き、オークの棍棒と盾が激突する。冒険者たちの体は大きく揺れたが、誰一人として倒れる者はいなかった。
「よし、効いてるぞ!」
後方から、歓声が上がる。
「今だ! 攻撃に転じろ!」
陣形が入れ替わり、攻撃部隊が前に出る。彼らの持つ剣や槍には、ノアが施した『吸血の呪い』――敵に与えたダメージの僅かを、自らの体力として吸収する呪いがかけられていた。これにより、彼らは傷を負いながらも、粘り強く戦い続けることができた。
戦況は、互角だった。いや、冒険者たちがわずかに優勢ですらあった。ノアの道具と、クロエの訓練、そしてエリオが張った結界による微弱な支援。全てが噛み合い、奇跡的な善戦を繰り広げていた。
その戦いを、城壁の上から三つの影が見下ろしていた。
「ほう。大したものだな、ノアの道具は」
ルナは、冷静に戦況を分析していた。
「だが、敵の動きが良すぎる。まるで、こちらの戦力を正確に把握しているかのようだ」
「同感だ」
隣に立つエリオも、眉をひそめる。
「僕の張った結界に、外部から干渉しようとする微弱な魔力の流れを感じる。敵の後方にも、腕利きの魔術師がいるのかもしれない」
その時、戦場の最前線で戦っていたクロエが、何かを察知したように動きを止めた。彼女は、オークの群れのさらに奥、森の影へと鋭い視線を向ける。
「……いるな。厄介なのが」
彼女はそう呟くと、指揮官のホブゴブリンを仲間に任せ、一人で戦線を離脱した。その動きは、まるで風のように速く、誰にも気づかれない。
森の中へと分け入ったクロエは、大剣を抜き放ち、気配を殺して進む。やがて、開けた場所に出ると、そこには三つの人影が立っていた。黒いローブを深く被り、その顔は窺えない。だが、彼らが放つ邪悪な魔力は、そこらの魔物とは比較にならなかった。
「気づくとはな、赤髪の剣姫。褒めてやろう」
ローブの男の一人が、嘲るような声で言った。
「あんたたちが、この騒ぎの黒幕かい。くだらない真似をしてくれるね」
クロエは、大剣を静かに構える。
「我らは、魔王軍が誇る暗殺部隊『夜想曲(ノクターン)』。お前たちの街の実力と、そして何より、【ノアの箱舟】の主の力を測りに来た」
「生きて帰れると思うなよ」
クロエの体から、凄まじい闘気が放たれる。だが、ローブの男たちは動じない。
「我ら三人が相手では、いかに剣姫とて分が悪いと思うがな」
次の瞬間、三人の姿が掻き消えた。クロエの周囲から、殺気を乗せた無数の斬撃が襲いかかる。
「ちっ!」
クロエは舌打ちし、全神経を集中させてそれらを弾き返していく。だが、敵の連携は完璧で、じりじりと追い詰められていく。
(こいつら、強い……!)
クロエの額に、冷や汗が伝う。その時だった。
「――『魔力障壁・三重(トリプル・バリア)』!」
クロエの周囲に、三色の光を放つ魔法の壁が出現し、暗殺者たちの攻撃を完全に防いだ。
「遅くなってすまない、クロエ」
声の主は、城壁から駆けつけたエリオだった。彼の指には、『星屑の指輪』が輝いている。
「エリオ! なぜここに」
「ルナの指示だ。君の単独行動くらい、お見通しらしい。それに、僕の魔法が一番効果的な相手だと思ってね」
エリオは、ローブの男たちを見据えた。彼の瞳には、かつての弱々しさは微塵もない。
「お前たちのその隠密能力、おそらくは影を操る系統の魔法だろう。ならば、光の前では無力だ!」
エリオが指を天にかざすと、彼の周囲に無数の光の球が出現した。
「『閃光連弾(フラッシュ・バレット)』!」
何十もの光の弾丸が、森の中を昼間のように照らし出しながら、暗殺者たちへと殺到した。影に潜むことを得意とする彼らにとって、それは最悪の天敵だった。
「ぐあっ! 目が……!」
光に目が眩み、ローブの男たちの動きが一瞬止まる。その隙を、クロエが見逃すはずがなかった。
「終わりだ!」
赤い閃光が、森の闇を切り裂いた。
「全隊、鶴翼の陣を形成! 魔法部隊は中央から援護!」
ギルドマスターの怒声が響き渡る。冒険者たちは、クロエの訓練通りに一糸乱れぬ動きで陣形を組んだ。彼らの顔には恐怖よりも、街を守るという強い決意が浮かんでいる。
「グオオオオ!」
オークの群れが、地響きを立てて突撃してくる。その先頭に立つのは、一際大きな体躯を持つホブゴブリン。その目には、知性と残忍な光が宿っていた。
「来るぞ! 盾部隊、衝撃に備えろ!」
最前列の冒険者たちが、ノアが作った『不動の盾』を構える。それは、受けた衝撃の一部を地面に逃がすという呪いがかけられた盾だ。
ガギン!
凄まじい衝撃音が響き、オークの棍棒と盾が激突する。冒険者たちの体は大きく揺れたが、誰一人として倒れる者はいなかった。
「よし、効いてるぞ!」
後方から、歓声が上がる。
「今だ! 攻撃に転じろ!」
陣形が入れ替わり、攻撃部隊が前に出る。彼らの持つ剣や槍には、ノアが施した『吸血の呪い』――敵に与えたダメージの僅かを、自らの体力として吸収する呪いがかけられていた。これにより、彼らは傷を負いながらも、粘り強く戦い続けることができた。
戦況は、互角だった。いや、冒険者たちがわずかに優勢ですらあった。ノアの道具と、クロエの訓練、そしてエリオが張った結界による微弱な支援。全てが噛み合い、奇跡的な善戦を繰り広げていた。
その戦いを、城壁の上から三つの影が見下ろしていた。
「ほう。大したものだな、ノアの道具は」
ルナは、冷静に戦況を分析していた。
「だが、敵の動きが良すぎる。まるで、こちらの戦力を正確に把握しているかのようだ」
「同感だ」
隣に立つエリオも、眉をひそめる。
「僕の張った結界に、外部から干渉しようとする微弱な魔力の流れを感じる。敵の後方にも、腕利きの魔術師がいるのかもしれない」
その時、戦場の最前線で戦っていたクロエが、何かを察知したように動きを止めた。彼女は、オークの群れのさらに奥、森の影へと鋭い視線を向ける。
「……いるな。厄介なのが」
彼女はそう呟くと、指揮官のホブゴブリンを仲間に任せ、一人で戦線を離脱した。その動きは、まるで風のように速く、誰にも気づかれない。
森の中へと分け入ったクロエは、大剣を抜き放ち、気配を殺して進む。やがて、開けた場所に出ると、そこには三つの人影が立っていた。黒いローブを深く被り、その顔は窺えない。だが、彼らが放つ邪悪な魔力は、そこらの魔物とは比較にならなかった。
「気づくとはな、赤髪の剣姫。褒めてやろう」
ローブの男の一人が、嘲るような声で言った。
「あんたたちが、この騒ぎの黒幕かい。くだらない真似をしてくれるね」
クロエは、大剣を静かに構える。
「我らは、魔王軍が誇る暗殺部隊『夜想曲(ノクターン)』。お前たちの街の実力と、そして何より、【ノアの箱舟】の主の力を測りに来た」
「生きて帰れると思うなよ」
クロエの体から、凄まじい闘気が放たれる。だが、ローブの男たちは動じない。
「我ら三人が相手では、いかに剣姫とて分が悪いと思うがな」
次の瞬間、三人の姿が掻き消えた。クロエの周囲から、殺気を乗せた無数の斬撃が襲いかかる。
「ちっ!」
クロエは舌打ちし、全神経を集中させてそれらを弾き返していく。だが、敵の連携は完璧で、じりじりと追い詰められていく。
(こいつら、強い……!)
クロエの額に、冷や汗が伝う。その時だった。
「――『魔力障壁・三重(トリプル・バリア)』!」
クロエの周囲に、三色の光を放つ魔法の壁が出現し、暗殺者たちの攻撃を完全に防いだ。
「遅くなってすまない、クロエ」
声の主は、城壁から駆けつけたエリオだった。彼の指には、『星屑の指輪』が輝いている。
「エリオ! なぜここに」
「ルナの指示だ。君の単独行動くらい、お見通しらしい。それに、僕の魔法が一番効果的な相手だと思ってね」
エリオは、ローブの男たちを見据えた。彼の瞳には、かつての弱々しさは微塵もない。
「お前たちのその隠密能力、おそらくは影を操る系統の魔法だろう。ならば、光の前では無力だ!」
エリオが指を天にかざすと、彼の周囲に無数の光の球が出現した。
「『閃光連弾(フラッシュ・バレット)』!」
何十もの光の弾丸が、森の中を昼間のように照らし出しながら、暗殺者たちへと殺到した。影に潜むことを得意とする彼らにとって、それは最悪の天敵だった。
「ぐあっ! 目が……!」
光に目が眩み、ローブの男たちの動きが一瞬止まる。その隙を、クロエが見逃すはずがなかった。
「終わりだ!」
赤い閃光が、森の闇を切り裂いた。
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