デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

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第四十話 遺された言葉と新たな謎

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クロエの一閃は、光に目が眩んだ暗殺者の一人の腕を斬り飛ばした。凄まじい剣速と威力。だが、とどめを刺す寸前、別の暗殺者が負傷した仲間を抱え、影の中へと溶けるように後退した。

「逃がすか!」

クロエが追撃しようとするが、残った最後の一人が彼女の前に立ちはだかる。

「見事な連携だ。だが、これで終わりだと思うなよ」

男はそう言うと、懐から黒い宝玉を取り出した。宝玉は不気味な光を放ち、周囲の空間をぐにゃりと歪ませる。

「『強制転移』の魔道具か!」

エリオが叫ぶ。男は歪んだ空間に飲み込まれながら、最後の言葉を残した。

「ノア・アークライト……。原初の呪術師の力が、なぜ今ここに……。魔王様は、決して見逃しはしない……」

その言葉を残し、男の姿は完全に消え去った。後には、不気味な静寂と、切り落とされた腕だけが残されていた。

「原初の呪術師……?」

クロエは、男の最後の言葉を反芻した。全く聞き覚えのない言葉だった。

その頃、西門前の戦場では、戦いの趨勢が完全に決していた。指揮官であるホブゴブリンは冒険者たちの連携の前に討ち取られ、残ったオークたちも掃討される。街は、見事な防衛戦で勝利を収めたのだ。

「うおおおお! 勝ったぞ!」

冒険者たちの雄叫びが、夕暮れの空に響き渡る。市民たちも城壁から歓声を送り、街は勝利の喜びに沸いた。負傷者は出たものの、ノアの道具のおかげで死者は一人もいない。奇跡的な勝利だった。

だが、勝利の喧騒の中、ノアたちの心には、新たな謎が重くのしかかっていた。

夜、【ノアの箱舟】に、ギルドマスターをはじめとする街の有力者たちが集まっていた。彼らは口々に、ノアたちの功績を称え、感謝の言葉を述べた。

「ノア殿、君たちがいなければ、この街は今頃……。本当に、感謝してもしきれん」
「いえ、僕だけの力じゃありません。皆が戦ってくれたおかげです」

ノアは謙遜するが、彼が街の英雄であることは、もはや誰の目にも明らかだった。

宴が終わり、仲間たちだけになった店内で、ルナが切り出した。

「クロエ、エリオ。報告を聞こう」

クロエは、森での出来事、そして暗殺者が遺した謎の言葉を、ありのままに話した。

「原初の呪術師、か。穏やかではないな」

ルナは腕を組み、考え込む。

「僕も、ギルドの古文書で調べてみた。だが、そんな言葉は見つからなかった。ただ……」

エリオは、少し躊躇うように続けた。

「ごく一部の禁断の文献に、『原初の魔法』についての記述があった。それは、世界の理そのものを書き換えるほどの力を持つ、神々の時代の魔法らしい。もしかしたら、それと何か関係があるのかもしれない」
「世界の理を、書き換える……?」

ノアは、自分の【呪物錬成】と、その大それた言葉を結びつけることができなかった。自分はただ、物に呪いをかけているだけだ。そう思っていた。

「考えすぎではないか? 魔王軍の奴らが、何か勘違いしているだけだろう」

ノアがそう言うと、アンナが静かに首を振った。

「いいえ、ノア様。あの暗殺者たちの言葉には、嘘や勘違いではない、確信のような響きがありました。彼らは、ノア様の力のことを、私たち以上に理解しているのかもしれません」

アンナの言葉に、皆がはっとさせられる。

魔王軍は、なぜこれほどまでにノアの力を警戒するのか。原初の呪術師とは、一体何なのか。ノアの持つ【呪物錬-成】というスキルには、彼自身も知らない、重大な秘密が隠されているのではないか。

謎は深まるばかりだった。

だが、今は目の前の勝利を祝うべき時だ。ルナの提案で、ささやかな祝杯が上げられた。

「まあ、何はともあれ、街を守り切った。今はそれを喜ぼうじゃないか」

ルナが言うと、皆も頷いた。

窓の外では、勝利を祝う人々の灯りが、星のように瞬いている。この平和な光景を守れたこと。それが、今の彼らにとっての真実だった。

しかし、この勝利は、新たな戦いの始まりを告げる狼煙でもあった。魔王軍は、明確な意志を持って【ノアの箱舟】を、そしてノア・アークライトを標的と定めた。

そして、遠い王都では、アレスの歪んだ報告が、静かに、だが確実に、国家という巨大な機構を動かし始めていた。

ノアの英雄譚は、辺境の街で一つの区切りを迎え、これからさらに大きなうねりの中へと巻き込まれていくことになる。そのことを、まだ誰も知る由もなかった。
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